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【小説】強盗に花束を 第3話【創作大賞2023応募作品】

第3話

「え?え?え?」僕は本日最大のパニックになっていった。

1日でそんなに強盗が来ることあるか?

なにか、政府のヤバい秘密でも金庫に仕舞われているのか?

僕はそんな事を思った。

映画でよくある展開だ。

店内には、郵便局のお客さんと銀行のお客さんが、自称強盗の二人と合わせて10名ほどいた。

全員が固まっていた。

さっきの女性が使用したのはどう考えても銃だ。

日本で普通に暮らしていたらまず見かけることはない。

「職員は全員カウンターから出なさい。郵便局も銀行も両方よ」女性が言う。

いつの間にかクルーだと思っていた人達の手にごつい銃が握られていた。

テレビとかで見る、戦争で撃ったりするようなやつだ。

誰一人動かなかった。

正確には状況を理解できずに動けなかった。

女性がまた発砲する。

「早く」

途端に悲鳴をあげながらみんなカウンターから出てきた。

「あなたは中よ」強盗は、田代支店長にだけ指示した。

「な、何が狙いだ」田代支店長が言った。

「お金よ。それ以外あるの?」女性強盗はめんどくさそうにそう言った。

「あとは仲間がやるからちゃんと指示に従ってね。私ほど優しくないから。殺しはしないけど指ぐらいなら切り落とすかもね」女性強盗はそう言うと、自らもカウンターから出てきた。

「全員端によって」銃で店の端の方をさして言った。銃口からはうっすらと煙が出ていた。

とても恐ろしかった。

手際の良さが2人の自称強盗とは訳が違った。

ちゃんと銃とか持ってるし。

さっき田代支店長の指を切り落とすとか言ってた。

完全にカタギじゃない。

プロだ。

そう思った。

そういえば2人は何をしているんだ?

そこでようやく2人の強盗が3人目に現れた、完全にプロの強盗集団にどういう反応しているのか、というところに意識が向いた。

「こっちですね」おじさん強盗が言った。

「みなさん、落ち着いて指示に従いましょう」いつの間にか目出し帽を脱いでいた少年強盗が言った。

…………。

これでもかと言うほど従順に強盗団の指示に従っていた。

なんと言うか、シリアスな場面なのに吹き出しそうになってしまった。

さっきまで我先にと強盗を働こうとしていたのに、本物が現れたら完全に戦意を喪失していた。

少しガッカリ感もあるがしょうがない。

そのまま20人近くで建物の端に座る。

「全員スマホをだしなさい」女性強盗が言った。

僕たちは黙って従った。アンドロイドを出す。社用の端末も個人の端末も全て出した。

「電源を切って」また指示を出した。

電源を切ると、女性強盗はそれを一つ一つ受け取り、大きめの鞄にしまっていった。

「あなた達も早く」女性強盗は少年強盗、おじさん強盗に言った。

「俺、スマホ持ってません」少年強盗が言った。

「その年で?」女性強盗が言う。

「貧乏なんで」少年強盗が肩をすくめて言った。

女性強盗はじっくりと少年の顔を見る。

「あなたは?」視線を外しておじさん強盗を見る。

「機械音痴なので所持はしているんですが、使いこなせないので家に置いてきました」おじさん強盗が言った。関西弁はどこにいったんだ。

女性強盗はこちらもじっと見たが、最終的には嘘をついていないと判断した様で何も言わずに場所を移動する。

「さてと。みんな、申し訳ないわね。直ぐに済むからしばらくじっとして置いて。きっとすごく緊張しているでしょう。でも私たちの邪魔をしなければ傷つけないと約束するから安心してね。小声だったら話しをしてもらっても結構よ」女性強盗が言った。

「スマホを奪ったから大丈夫だと思うけど、外との連絡、特に警察への通報はしないように。事が終わったら私の方から通報してあげるから心配しないで。私は出来る限り人を殺めたくないし、傷つけたくもないけど、それを破るなら躊躇はしない」女性強盗は銃を軽く振った。

「見ての通りこちらには拳銃がある。勇気を出してヒーローになろう、なんて事は思わないように。少しの間だけここで座って雑談をしておけば何の問題もないわ。1時間後にはあなた達は私が返却したスマホで友達に電話をかけているわ。『聞いて聞いて、さっき私強盗にあったの』ってね」

「一応、人質を立てて置くわ。ここの銀行の支店長。何か問題があったらその人を殺す。知らない人間だから、なんて思わない方がいいわ。あなたの所為で死ぬのだから、寝つきは悪くなるわよ」女性強盗は淡々と述べた。

「さてと、じゃあ何か質問は」ジョークのつもりなのか女性強盗はそう言った。

おじさん強盗が挙手をした。

「…………。何?」女性強盗はまさか本当に質問が来るとは思っていなかったのか少し鬱陶しそうにそう言った。

「さっき俺たちを傷つけないって言ったけど、それは嘘やな」おじさん強盗が言った。少し落ち着いたのか、関西弁に戻っていた。

周りに緊張感が走る。

「あんたら、顔隠してへんやろ?俺らバッチリ見てもうてるもん。目撃者は黙らさなあかん。生きている限り口止め、なんて事はできひん。用事済んだら俺ら殺す気やろ」おじさん強盗が言った。
 
確かにそうだ。
 
僕たちは、クルー達を含めて強盗の顔を全員見てしまった。
 
おじさん強盗は正しい事を言っている様に感じる。

「あなた達に見られてもなんの不都合もないわ。どうやって私の顔を伝えるの?似顔絵でも描くのかしら?」女性強盗が言った。

「いや、よく出てくるやん。ニュースとか見とったら、犯人を目撃した人の似顔絵。警察は俺らの証言を元にそういうの作る技術があるんやろ?」おじさん強盗が言う。

「それがどれくらい似ているとか確かめた事があるの?写真さえ撮られなければそこまで問題はないわ」女性強盗は言った。

「ほなカメラはどうなん?めっちゃあるで」おじさん強盗は店内の上にある監視カメラを指差して言った。

「監視カメラもいろんな種類がある。ここは極めて古い旧型を使用している。白黒でフレームレートは2。解像度も低い。高機能の監視カメラをつける銀行は増えてきたけど、ここは最低ね。監視カメラがあるから、悪さをするんじゃないっていう抑止力程度の力しかないわ」女性が強盗は言う。

そうなのか。

働いていたけどそんな事全然知らなかった。

「あなた達の証言の方がまだあのポンコツより価値があるわ。この後警察に事情聴取されるでしょうけど、見た事を洗いざらい話してもらって構わないわ。あなた達が気づく様な私達の特徴は既に警察が掴んでいるわ。私たちは全国的に何度か強盗をしている」女性強盗が言った。

その言葉で僕はネットのニュースを思い出す。

集団強盗再び。

組織的な犯行で被害総額は合計数億円。

その人達だったのか。

今更になって僕は理解した。

どうりで手際がいい訳だ。

あんなに堂々と映画の撮影だ、なんて言われたら止めることも難しい。

その間に外から見えない様に窓や自動ドアを塞ぐ。

外で異変に気づいた人も、今日は休みなのかと納得してしまう。

銀行も郵便局もそんな簡単に閉まらないが、そんな事外の人は知らない。

さすがにおかしいと気づいても、警察に通報、なんてときにはもう強盗達は逃走しているのだろう。

町中には監視カメラが溢れている。

日本の警察は優秀だから簡単なことではないだろう。

だけど銀行強盗の検挙率は100%ではない。

何人かは成功するのだ。

この人たちはプロだから逃げることも出来るのだろう。

だとしたら僕たちに出来る事は、この女性強盗の指示に従い、解放されたら警察に詳しく話す。

それだけだろう。

僕はおとなしく座る。

おじさん強盗も女性強盗の話に納得したのか、黙って床に座り込んだ。



第4話に続く


第4話





第1話


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