シャルル 第5話【創作大賞2023・イラストストーリー部門応募作品】
第5話「玲奈。もう一度、よく考えなさい」
3年2組の教室は、生徒は既に避難を終えていた。
無人の教室に女の子が一人、目隠しをされて椅子に縛られている。
花村瑠璃だ。
「瑠璃ちゃん!」八頭司がそう言って花村瑠璃の拘束を解く為に駆け寄った。
「八頭司さん…。私…」花村瑠璃が口を開いた。
おかしい。
私はそう思った。
まずはメフィストがいないこと。
死体が転がってるわけではないので、倒されたわけではない。
次に、花村瑠璃が生きていること。
状況から考えて、殺し屋は集団で、家庭科室を放火し、騒ぎに便乗して花村瑠璃を拉致して、3年2組の教室に拘束したことになる。
何の為に?
殺し屋なら殺せばいいし、花村瑠璃の身柄が必要なら教室に拘束する必要はない。
私の思考は加速する。
そもそも学校にいる時に攻めてきたことも妙だ。わざわざこんな難易度の高い状況で狙う必要はない。
集団で計画的に攻めてきた以上は、今でないといけない理由があったのだ。
そして、花村瑠璃を殺すことが目的ではない。
だったら、何が目的なのか…。
考えらられるとしたら。
ふー。と私は息を吐く。
そうか。
私の命か。
花村瑠璃への護衛依頼はブラフだ。
真の目的は私を殺すこと。
そして、その黒幕は。
私の視線が1人の男に注がれる。
この場で唯一私に危害を加えることができる人間。
つまり八頭司だ。
ゆっくりと銃を引き抜く。
花村瑠璃の拘束を解こうとしている八頭司の頭を狙う。
「ストップ」私のすぐそばで両肘をつきながら机に座る愛菜が言った。
私は愛菜の顔を見下ろす。
「八頭司は黒幕なんかじゃないよ」愛菜がニコニコしながら言った。
私は顔を顰めながら、どういうことかと愛菜に顔で訴える。
「確かに八頭司は怪しい。玲奈を殺してもルールが適応されない半人前だし、抜けているところはあるけど、玲奈より強い。言葉遣いも胡散臭いしね」愛菜が言う。
「だけど、もし八頭司の目的が、玲奈の殺害なら、最大のチャンスを逃していることになる」
それは、確かにそうだと私は頷く。
八頭司の目的が私の殺害なら、もっと早い段階で、私が警戒を上げる前にナイフで刺せばよかった。
あの時私のタバコを注意した時から、私は八頭司への警戒をあげた。
その前なら簡単に殺せたはずだ。
だけど、それだけで八頭司の疑いが晴れるかと言われるとそうとは言い切れない。
何故なら、八頭司によって私はかなり被害を被っている。
八頭司がいるせいで、動きを制限されているのだ。
さっきの覆面3人組も、1人だったら楽に倒せたはずだ。
八頭司を警戒しなければいけないことが、結果的に左足にダメージを受けた原因になっている。
明らかに私の首を絞めている。
「うん」愛菜は笑顔で頷いた。
「でも、だからと言って、八頭司が黒幕にはならないよ。ちゃんと思い返してみて。誰が玲奈に八頭司を付けたのか」
…………。
「玲奈は、八頭司が黒幕で、メフィストを利用して玲奈を殺そうとしているのだと思った。だけど、そう思うこと自体が真の黒幕の狙いだったんだよ」愛菜が笑顔でいう。
「実際は逆だったんだよ。八頭司がメフィストを利用したんじゃなくて、メフィストが八頭司を利用した。半人前というとても怪しい人間を用意することで、玲奈の意識を逸らしたんだよ」愛菜が言った。
じゃあ。
黒幕は。
「メフィストだよ」愛菜がニコニコ笑いながら言った。
そうか、と私は目を瞑った。
業界の鉄の掟で、同じ案件の味方のメフィストが私を殺せば、業界全員でメフィストの構成員、関係者全員が殺される。
だから、メフィストがそんなことをするわけがない、と思っていた。
その先入観が私に思い違いを誘発させ、八頭司への無駄な警戒を生んだ。
思いもしなかった。
メフィストという巨大組織が、全員の命をなげうってでも、私を殺そうとするなんて。
「あはははは。玲奈、相変わらずモテモテだね。高校の時も何回も告白されてたもんね。男子にも女子にも」愛菜がはしゃぎながら言った。
「うるせーな」私が頭を掻きながら言った。
八頭司がようやく花村瑠璃の拘束を解くことができたみたいだった。花村瑠璃は恐怖に震えながら、八頭司にしがみついた。
「八頭司」私はそう言ってスカートのポケットから紙をだした。名刺ほどの大きさの紙に、会社の住所が書いている。
「花村瑠璃連れてそこまで逃げろ。その住所まで行って、5階の穴熊という男を頼れ。私の客だって言えば通じる」私はタバコを咥えながら言った。
「え、でもメフィストと合流した方がいいんじゃないっすか?」八頭司が言った。
「メフィストは多分裏切った。今はお前しか信用できない。お前もメフィストは信用するな」
「えぇ…マジっすか」八頭司が顔を顰めて言った。
「このまま花村瑠璃を抱いたまま校舎の3階に行け。そんで渡り廊下の上に出ろ。そこから倉庫の上まで飛んだら外に出れる。車は用意してある」私はそう言って車のキーを渡す。
「私の車だから傷つけたら殺す」
「えー。俺ペーパードライバーなんすけど」八頭司が言った。
「なんで護衛やってんのにペーパーなんだよ。運転する機会死ぬほどあるだろ。死ねよ」私が言った。
「そんなすぐに死なせないでくださいよ。しかもこれ、ミッションの車じゃないっすか?俺オートマ限定の免許しかないっすよ」八頭司が肩を竦めて言った。
「あはははは」私が絶句していると、愛菜が声をあげて笑った。
「あ…。私運転できます」そこで花村瑠璃が徐に手をあげた。
思わず私と八頭司が顔を見合わせて花村瑠璃の顔を見つめる。
「あの…お祖父ちゃんに習ったから。公道を運転したことはないけど、多分大丈夫です」
「瑠璃ちゃん、流石だね!」八頭司が言った。
「未成年に無免許運転させたくないんだけど」私が言った。でも確か緊急時はいいんだったかな、とも思う。
「どっちが運転するかは任せる。とにかく早く逃げろ」最終的に私は2人に任せて言った。
「でも、玲奈さんどうするんですか?」八頭司が言った。
「ここで返り討ちにする」私がタバコをふかしながら言った。
第6話に続く
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