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樹堂骨董店へようこそ⑬

目視で確認ができないが、イツキはリリアに何かをしているようだ。リリアはカラダを上手く動かせないような動きをしている。
「イツキ!私は何もしないわ!こんな力技で私を拘束しないでくださる?!」
リリアが苛立ちを隠せない声色で叫んだ。
「なら今すぐ部屋に戻ってくれ」
「いやよ。私はそのお二人とお話がしてみたいの」
七緒にはリリアの背後に巨大で黒い煙のようなものが見えていた。

あれは…いろんなものが集まって絡まってしまってる…

亡くなって間もない人の霊、動物の霊、生きている人間のネガティブな感情のエネルギー…などもろもろのものがリリアに吸い寄せられるように集まってしまっていた。リリアは今、磁石のような状態になっている。桜杜のエネルギーを保有できるモノがよくなりがちなパターンだった。

室内の照明が明滅し始めた。チカチカして目が痛い。ストーブの灯はすっかり消えてしまった。屋敷内に冷たい空気が充満し始める。床は濃く変色し始めた。壁も柱もどんどん朽ちてゆく。
イツキたちの周りの空間だけが切り取られたように温かい空気に包まれている。
先ほどから膠着状態だ。
ふいに那胡が話し始めた。
「パパ…この子たぶん何にもしないからやめてあげてよ」
「えっ?」
「ええっ?」
他のふたりはその発言に耳を疑った。
「いや、これはまずいでしょう?このままだとこのお屋敷も住めなくなるし、森全体に影響が出ちゃうよ…」
七緒が言った。
「この子なら自分のことコントロールできるよ」
那胡の言葉に七緒はハッとした。いつもの那胡の瞳ではなくて、いくらか赤く見える。赤い瞳になっている。
「ほら、パパだめだよ」
那胡はゆっくり歩いてリリアのすぐ前に立った。冷たい刺すような空気も感じていない様子だ。
イツキも那胡の瞳の色に気が付いた。
「…沙那なのか?」
「沙那?」
七緒は名前に心当たりがあった。

ふわっと那胡はリリアの右手を両手で握った。
すると室内の照明の明滅は止まり、ストーブに灯が戻った。冷たい空気は突如として無くなった。
「あら…あなた、どこかでお会いしたことがあるわね」
リリアが急に明るい声で話した。
「そうなの?ごめんなさい。わからない…それよりその後ろにたくさん持っている真っ黒で大きいモノって必要なものなの?」
「ああ、これね…勝手に集まってきてしまっただけなのよ。いらないわ。ぜんぜんキレイじゃないし欲しくないわ」
「なら…捨てちゃえばいいのに。そうしたらこんなにおそろしい雰囲気はなくなると思う。あなたの中はすごくきれいだもの。もったいない…」
「どうやったら捨てられるのかしら…思い出せない」
「じゃあ…桜杜のねえさんにお願いしようか」
那胡の言葉にイツキと七緒は反応した。

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