見出し画像

ディープラーニングによるシステム開発委託には、性能発注方式の取り組み方が欠かせません。

我が国では、ディープラーニングによるシステム開発を検討する際,どのようにシステムの品質を保証するかが問題となり,導入を断念するケースが発生しています。欧米ではディープラーニングで開発したシステムやサービスが広まっていますが、前記の問題は全く聞こえてきません。
 
ディープラーニングを含めたソフトウェア全般について言えることですが、目に見えないソフトウェア部分だけを殊更に取り上げてその品質を証明して保証せよと言われても出来ない相談です。欧米では、発注者からベンダーに対してこのように要求されることはまずあり得ません。なぜならば、欧米での発注の考え方は、グローバルスタンダードな性能発注方式(このような機能・性能を備えたものを作ってくれといった、トップダウンにより全体最適化を求める発注方式であり、ソフトウェア開発委託には最適)だからです。しかし、我が国だけが、他国に類を見ないガラパゴス的な仕様発注方式(この設計図書のとおりに作ってくれといった、ボトムアップにより部分最適化を求める発注方式であり、ソフトウェア開発委託には不適)です。
 
性能発注方式では、発注者からベンダーに求められた機能・性能の実現方法について、ハードウェアに依るかソフトウェアに依るかは問いません。結果として、「発注者から求められた機能・性能を全て備えていることを証明できたもの」が、ベンダーから発注者に納品される成果物になるからです。ソフトウェア部分だけの品質証明ができたとしても、それは部分最適化に過ぎません。大事なことは、ハードウェアとソフトウェアを全体最適化した結果として、「発注者から求められた機能・性能を備えたもの」を作り上げて、「そのような機能・性能を全て備えていること」を、発注者側で確認できるようにベンダーが示すことです。このような対応は、性能発注方式では当たり前の対応です。
 
ところが、我が国では、このような「当たり前の対応」ができません。仕様発注方式の取り組み方に、殊更に拘っているからです。仕様発注方式とは、「発注者が示した設計図書のとおりに作ってくれ。」といった発注方式です。このため、仕様発注方式では、ハードウェアについては詳細な設計図書を示すことができるのですが、ソフトウェアについては目に見えませんので設計図書を示すことができません。つまり、「このとおりにプログラミングしてくれ。」はあり得ませんので、仕様発注方式はソフトウェア開発委託の発注には全く適していないのです。
 
我が国では昔も今も、このような仕様発注方式に一辺倒であるため、我が国だけが、「どのようにソフトウェアの品質を保証するか」を殊更に問題視してしまい、ディープラーニングによるシステム開発委託を阻害する結果を招いているのです。
 
我が国の基幹産業は、世界に冠たる自動車産業です。今日では、自動車の製造原価の約2割をソフトウェアが占めています。数年後には、製造原価の半分近くをソフトウェアが占めていく趨勢です。また、近い将来には、車の自動運転のレベル4(高度自動運転)が身近な存在になっていくことでしょう。一般道も走行できるレベル4の実現には、高度な認知・判断・予測・制御の能力を備えた「AIの目と頭脳」が欠かせませんが、このような「AIの目と頭脳」を産み出すには、ディープラーニングによる開発手法が最適であり必須です。
 
このことからしても、ディープラーニングによるAIやDXを活用していく分野で我が国が他国に後れをとらないためには、システム開発委託における発注者側の取り組み姿勢を、仕様発注方式の考え方から性能発注方式の考え方に一刻も早く転換していくことが肝要であると言えます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?