見出し画像

【米国株】天然ガスの投資機会:AI電力・大統領選・欧州輸出。どうプレイするか?

先週、コモディティ投資の専門家であるアダム・ローゼンシュワグ氏のインタビューを聞く機会がありました。非常に興味深い内容で、潜在的なアイディアとして持っていた、米国の天然ガスの投資機会について、喫緊の投資テーマとして改めて認識しました。これを皆さんと共有したいと思います。

ローゼンシュワグ氏は、足元の米天然ガス価格の低迷は一時的な現象に過ぎず、むしろ今は米国の天然ガス関連銘柄への投資チャンスだと指摘しています。実際に、米天然ガス価格は底打ちし、上昇トレンドを開始しつつあるようにも見えます。

本記事では、米国の天然ガスの投資テーマを考察し、具体的なトレード(投資手法)に落とし込みます。

ローゼンシュワグ氏インタビュー(Youtube):
MacroVoices #428 Adam Rozencwajg: AI Demand, Energy & Precious Metals



米天然ガス価格低迷の理由

天然ガス価格が歴史的な低水準にあったのには、主に2つの理由があると考えます。

1. バイデン政権の政策により、天然ガスの電力需要は横ばい見通し

バイデン政権のインフレ抑制法(IRA)による再エネ補助金の影響で、2023年3月に米エネルギー情報局(EIA)が発表した長期エネルギー見通しでは、天然ガスの電力需要はほぼ現状維持となっています。

インフレ抑制法(IRA)なし(左)では、天然ガスの拡大が予想されていましたが、インフレ抑制法(IRA)考慮後のベースケース(Reference)では、2050年時点で太陽光と風力を中心とする再エネ電力が大幅に拡大する一方、天然ガス火力発電の割合は2022年と大きく変わらない水準にあります。

長期的なストーリーの欠如が天然ガス価格の低迷要因の1つと考えられます。

2. 米国天然ガス在庫が数年来高水準

過去2年間の暖冬の影響により、米国の天然ガス在庫水準が歴史的な高水準にあることも、価格低迷の大きな要因の一つとなっています。

米エネルギー情報局(EIA)のデータによると、2023年4月時点の天然ガス在庫は、5年間平均を大きく上回る水準で推移しています。グラフの青い線で示される直近の在庫水準は、灰色の帯で示される過去5年間の最大値を大きく上回っています。

通常、冬季は暖房需要の増加により天然ガスの消費が増えるため在庫が減少しますが、過去2年間は暖冬の影響で暖房需要が低迷。その結果、例年よりも在庫の取り崩しが進まず、春先に在庫が積み上がる状況となっているのです。

需給の基本原則として、在庫が積み上がれば価格が下落するのは自然な動きです。米国の天然ガス在庫が潤沢な状態にあることで、需給が緩和され、価格の上昇が抑えられていると言えるでしょう。この高在庫も足元の天然ガス安の背景となっていると考えられます。

ローゼンシュワグ氏もこの点を指摘しています。彼は、現在の在庫水準の高さは主に天候要因によるものであり、一時的な価格押し下げ要因に過ぎないと述べています。つまり、暖冬による需要の低迷が在庫を積み上げているため、中期的な需給ファンダメンタルズを反映したものではないというわけです。


興味深い投資テーマになり得る理由

しかし、短期的には米国の天然ガスが興味深い投資テーマになる可能性があります。実際に、価格は底打ちから上昇傾向にあります。その理由として以下の3つが挙げられます。

1. データセンターの電力需要の増加

アマゾン、マイクロソフト、グーグルなどのクラウド大手は、再エネ100%の目標を掲げています。基本的には、新規データセンターの電源は、自前の再エネ電源開発か、電力会社からの再エネ電源を確保しようとします。

詳しくはこちらをご参照ください。

しかし、データセンターの急速な拡大に電源開発が追い付かない可能性が指摘されています

ローゼンシュワグ氏は、太陽光・風力といった再生可能エネルギー(再エネ)では、24時間365日稼働が必要なデータセンターへの安定的な電力供給が難しく、石炭、天然ガス、原子力のどれかで補完する必要があると指摘します。

少なくとも短期的には、これらの不足分を埋めるのが、石炭よりも環境負荷が格段に低く、比較的短期間に発電能力を拡張可能な天然ガス発言になると考えられます。

2. 2024年米国大統領選挙におけるトランプ氏再選の可能性

バイデン政権が推進するインフレ抑制法(IRA)は、再エネを増やす政策であり、長期的に天然ガスの需要拡大が期待しにくくなっていることを上述しました。

しかし、2024年の米国大統領選挙でトランプ氏が再選された場合、再エネ重視の政策が変更される可能性があります。インフレ抑制法(IRA)が完全に廃止される可能性は低いものの、再エネへの補助金が削減され、それによる再エネ需要の減少分を天然ガスが補うことが予想されます。

現時点では、トランプ氏の再選確率がバイデン氏を上回っているようです。様々な「賭け」サイトでは、トランプ氏の勝利確率が高くなっています。例えば、Odds Checkerではトランプ氏の勝利確率が51.2%、バイデン氏が37.3%となっています(5/19時点)。

トランプ氏が再選した場合、バイデン政権下で抑制されていた天然ガス需要が再び拡大に転じる可能性があり、これが天然ガス価格の上昇要因になり得ると考えます。

3. 米国と欧州の天然ガス価格差の縮小

米国と欧州の天然ガスの価格は4倍近く離れていますが、今後、この差は縮小していく可能性があります。ローゼンシュワグ氏もこれを指摘しています。

現在、シェール革命以降、米国の天然ガス生産は潤沢ですが、輸出インフラが不足しているため、欧州への輸出量が限定的となっているため、裁定が働いていないのです。

一方、欧州はロシアへの依存から脱却するため、米国からの天然ガス輸入を拡大しようとしています。

米エネルギー情報局(EIA)の短期エネルギー見通し(STEO)によると、2024年から2025年にかけて、米国の天然ガス輸出が大幅に増加すると予測されています。グラフを見ると、天然ガスの純輸出量が2023年から2025年にかけて拡大すると見込まれています。

この輸出拡大は、米国の輸出インフラの拡張によるものです。輸出が拡大すれば、欧州への天然ガス供給が増え、米欧間の価格差が縮小する可能性があります。

現在、米国と欧州の天然ガス価格は大きく乖離していますが、米国からの輸出増加により、この価格差が縮小に向かうことが期待されます。これは、米国の天然ガス価格の上昇要因になると考えられます。

これら3つの理由から、米天然ガスには興味深い投資機会があると考えます。また、季節性を考慮すると、


この投資テーマを捉えるトレード

この投資テーマをトレード(投資手法)に落とし込む際、個人投資家にとって天然ガス先物を直接取引するのは難しいかもしれません。
そこで、
1. 天然ガス(コモディティ)先物に投資するETF(UNGなど)
2. 天然ガス生産者株
の2つの選択肢が考えられます。

ローゼンシュワグ氏は、「天然ガス生産者株」一択を推奨しています。その理由は、下記のグラフから明らかです。同じ天然ガスを対象としているにもかかわらず、天然ガス先物ETFのパフォーマンスは、先物(期近)よりも劣っているのです。

この原因は、天然ガスの先物価格が「コンタンゴ」の状態にあるからです。コンタンゴとは、先物の満期が近いほど安く、遠いほど高い状況を指します。

なぜ「コンタンゴ」になるのか。先物は将来に現物を受け取る契約ですが、売り手は契約を確実に実行するために、契約時点でお金を借りて現物を買い、倉庫に貯蔵する必要があります。つまり、売り手は現物購入コストに加えて、金利と貯蔵コストを買い手に求めるため、先物価格は先に行くほど高くなっています。これが先物取引の自然な状態です。

一方、稀に短期の需給から現物が希少な時には、満期が近いほど価格が高くなる「バックワーデーション」という現象が起きます。

天然ガスの先物ETFは、満期が近づくと次の限月の先物にロールオーバー(乗り換え)する必要があります。コンタンゴの状態では、安い期近の先物を売って、高い先の限月の先物を買うことになるため、ロールオーバーのたびに損失が発生します。これが、先物ETFのパフォーマンスが先物価格より劣る原因です。

したがって、天然ガス価格の上昇を捉えるには、先物ETFよりも天然ガス生産者株を選ぶことが望ましいというわけです。


以上の3つの理由から、米国の天然ガスには興味深い投資機会があると考えます。データセンターの電力需要増加、2024年大統領選挙でのトランプ氏再選の可能性、米欧の天然ガス価格差の縮小といった要因が、米国の天然ガス価格を押し上げる可能性があります。

また、天然ガスの価格は季節性を持っており、暖房需要を反映して、4・5月に安く、10・11月に高い傾向が見られます。2022年のグラフを見ると、その季節性に沿った価格動向となっています。今後、この季節性がサポート要因として働くことが期待されます。

以上の点から、米国の天然ガスは、短期的には魅力的な投資テーマの一つと言えるでしょう。ただし、長期的には再エネへのシフトが進むと予想されるため、中長期ストーリーを持つ投資というよりは、短中期のトレードアイディアといった特性を持つ投資テーマになります。状況をウォッチしながら、適切なタイミングでのポジション構築が肝要だと考えます。


米天然ガス生産者株3選

ローゼンシュワグ氏が、保有する天然ガス埋蔵量の質と量から、魅力があるとする米国の3社をピックアップしました。

  1. レンジ・リソーシズ(RRC)

  2. EQT(EQT)

  3. アンテロ・リソーシズ(AR)

これらの企業のファンダメンタルズは全体的に良好ですが、以下の点には留意が必要です。

  1. 現在の米国天然ガス価格と同水準だった過去と比較すると、現在の株価は割高に見えます。株価には、ある程度の天然ガス価格上昇期待が既に織り込まれているようです。

  2. アナリストの予想業績にも、2025年の米国天然ガス価格上昇が織り込まれている可能性があります。これにより、DCFの結果はかさ上げされ、先行きの利益を使ったPERは低下する影響があります。

以下、各社の詳細を見ていきましょう。

【分析手法に関する解説はこちら】


レンジ・リソーシズ(RRC)

ファンダメンタル面は良い。
テクニカル面も強気ブレイクアウトの直後に見える。

ファンダメンタル🟢-

最新決算説明会での発言:投資テーマと合致🟢

  • データセンターやAI需要の拡大など、北東部での電力需要増加により、同社の天然ガス販売機会が拡大すると見込んでいる。

  • 長期的な成長のための低コスト・高品質の埋蔵量を豊富に有しており、インフラ整備が進めばさらなる供給拡大が可能。

  • 債務返済と自社株買いのバランスを取りながら、キャッシュフローのリターンを株主に提供していく方針。

DCF分析:アップサイド23%🟢
売上成長率はアナリスト予想を使用。2025年に大きな成長が見込まれており、天然ガス価格の上昇を織り込んでいる点には留意。

PER:割安🟢

アナリスト評価:アップサイドなし🔴

ファンド・株主動向:最大株主(インデックス等除く)が減少👀

コモデティとのパフォーマンス比較:割高感あり🔴

テクニカル🟢

長期(10年スパン)と短期(2年スパン)のカップウィズハンドルをブレイクしているように見える。ブレイクを維持し、力強い上昇を見せるか注視。


EQT(EQT)

ファンダメンタルは3社の中で最も良いが、アナリスト予想が強気の米天然ガス価格見通しを織り込んでいるように見え留意が必要。
テクニカルはレジスタンスライン(下降トレンドライン)のブレイクが買いタイミング。

ファンダメンタル🟢

最新決算説明会での発言:投資テーマと合致🟢

  • LNG輸出に加え、データセンター需要の増加により、南東部やアパラチア地域における天然ガス需要が大幅に伸びる見通し。EQTはこの需要に対応するのに有利な立場にある。

  • エクイトランス買収により、EQTの天然ガス生産コストは業界最安値となり、価格下落局面でもキャッシュフローを維持しつつ、価格上昇局面では価格上昇の恩恵を最大限享受できる体制となる。

DCF分析:アップサイド100%🟢
2025年はエクイトランス買収による売上拡大が見込まれている。

PER:割安🟢
12ヶ月予想利益ベースでは絶対値としては高いが、買収も加味された先の予想利益を使うとPERは低下。

アナリスト評価:アップサイド6%🟢

ファンド・株主動向:最大株主が持ち分増加🟢

コモデティとのパフォーマンス比較:割高感あり🔴

テクニカル👀

上値を抑えている下降レジスタンスラインを超えることができるか。


アンテロ・リソーシズ(AR)

ファンダメンタルは良い。
テクニカルはブレイクアウト済みで、次の買いシグナルをウォッチ。

ファンダメンタル🟢-

最新決算説明会での発言:投資テーマと合致🟢

  • 液化天然ガス(LNG)輸出需要の高まりにより、当社が販売する天然ガスの75%はメキシコ湾岸のLNG回廊に直接アクセスでき、プレミアム価格を享受できる有利な立場にある。

  • データセンター、EV、暗号資産採掘などの電力需要増加により、2030年までに天然ガス需要が大幅に増加すると予想される。これはLNG輸出需要とあわせ、将来的な天然ガス価格を下支えする要因となる。

  • 当社は過去数年間で負債を大幅に圧縮しており、今後はフリーキャッシュフローを負債返済と自社株買いに振り向ける方針。

  • 当社は20年分以上の優良埋蔵資源を保有し、上流・中流事業の統合や同業他社を上回る資本効率の高さといった差別化要因を有している。

DCF分析:アップサイド13%🟢
売上成長率はアナリスト予想を使用。他2社と同じく、2025年に成長が見込まれており、天然ガス価格の上昇を織り込んでいる点には留意。

PER:先の利益を使うと割安水準に低下🟢
12ヶ月後予想ベースでは割高。先の利益ベースでは割安水準に低下。

アナリスト評価:アップサイドなし🔴

ファンド・株主動向:最大株主が持ち分減少👀
最大株主(インデックス等を除く)

コモデティとのパフォーマンス比較:割高感あり🔴

テクニカル👀

すでに重要なブレイク、上放れ。プルバックして反発するか、更に上のレジスタンスラインのブレイクなど、次の買いシグナルをウォッチ。


まとめ

米国の天然ガス価格は、バイデン政権の再エネ政策と過去2年間の暖冬による在庫の積み上がりを受けた低迷を抜け出したように見えます。そして、以下の3つの理由から、短~中期の投資機会となる可能性があります。

  1. データセンターなどによる電力需要の増加

  2. 2024年大統領選挙でのトランプ氏再選の可能性

  3. 米国からの輸出増加による米欧天然ガス価格差の縮小

この投資テーマを捉えるには、天然ガス先物ETFよりも天然ガス生産者株を選ぶことが望ましいとのことです。ローゼンシュワグ氏は、埋蔵量の質・量から判断して、レンジ・リソーシズ(RRC)、EQT(EQT)、アンテロ・リソーシズ(AR)の3社を推奨しています。

ただし、現在の株価には天然ガス価格の上昇期待が既に織り込まれている可能性があること、長期的には再エネへのシフトが進むことには留意が必要です。タイミングを見極めながらのポジション構築が肝要と言えるでしょう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?