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【米国株】エヌビディア、クラウド大手が生成AIサービスを「勝たせに行く」?生成AIサービスの解像度を高める

生成 AI サービスの実需が高ることによって、AI ブームは継続していくと考察しています。

クラウド大手(アマゾン・マイクロソフト・グーグル)やエヌビディアは、生成 AI サービスを盛り上げることに強い動機を持っています。
クラウド大手は、データセンター投資のリターンを上げるため、エヌビディアは GPU 需要を維持するために、生成 AI の普及を望んでいます。これらの企業が生成 AI を盛り上げ、「勝たせにいく」可能性があります。

本記事では、以下の点を掘り下げます:

  • Github Copilot の成功要因を分析し、AI Copilot(ソフトウェアへの生成 AI 組み込み)の観点から有望企業を検討します。

  • エンタープライズ IT(企業内システム)における生成 AI の活用方法と関連企業をまとめます。

生成 AI サービスへの理解を深め、AI Copilot とエンタープライズ IT における生成 AI の可能性を探ります。

エヌビディア株の次のドライバーは、生成AIサービスの収益期待拡大になる、という予想に関する記事は、こちらをご覧ください。


エヌビディア フアンCEOのビジョン:100兆ドル

3月に行われたエヌビディアの大々的な開発者会議GTC 2024のオープニングイベント、フアンCEOのキーノートスピーチの冒頭で、一枚の絵を見せました。

フアンCEO直筆のエヌビディアの歴史と今後についてです。エヌビディアの取組は「AIが来る」、と予見した20年前から始まり、今やっとその時が来た、とエモーショナルに語りました。

そこには、ビジョンも書かれています。
「新産業革命 100兆ドル」

AIは、第一次:機械化、第二次:電気、第三次:コンピュータ、に次ぐ産業革命だ、とは良く言われますが、100兆ドル、と。100兆ドルとは、生成AI産業の時価総額を指していると解釈しました。これは、アメリカのGDPの約4倍、エヌビディア自身の時価総額の45倍にあたる莫大な金額です。

今現在の市場の期待は、少なくとも短期的には、このビジョンとかけ離れています。

世界有数のITリサーチ企業Gartnerは、生成AIソフトウェア市場の高い成長を予想しますが、その規模は2027年でやっと1,040億ドル、となっています。フアンCEOは方は価値、こちらは売上なので、違う概念を比べていますが、2027年においてもまだ1,000倍の差があります。

しかし、2022年末、ChatGPTが世界に衝撃を与えてからここまでの生成AI技術の進展の速さ、また、有力各社が生成AIを次の産業革命と捉え、この機会に乗るべく製品を再定義する覚悟で取り組んでいることを考えると、市場の期待とフアンCEOのビジョンのギャップは、市場の期待が高まる形で急速に縮小していく可能性があります。

フアンCEOの「生成AI産業」4カテゴリの中から、まだ収益規模が小さいものの莫大なポテンシャルを持つ、「AI Copilot」「エンタープライズIT」の解像度を上げていきます。

AI Copilot有力企業

先行事例:GitHub Copilot

まず、AI Copilot(コパイロット)とは、人工知能が人間の作業を支援し、作業効率の向上や創造性の発揮を後押しするアシスタントのことです。

今、最も収益化に成功しているAI Copilotのひとつが、「GitHub Copilot」です。GitHub Copilotは、プログラム開発者のコーディングをAIが補助し、コード補完や自動生成などの機能を提供するアシスタントです。

マイクロソフトの一事業で、最新の決算で下記が開示されています。

  • 有料会員数130万人

  • 四半期で30%の会員数増加(年間換算186%)

GitHub Copilotを利用可能な最も有力な無料コード編集ソフト、VS Codeの利用者を現在2500万人と推定すると、5%程度が利用していることになります。価格は、個人プランが10ドル、法人プランが19ドルとなっています。

GitHub Copilotは、開発者の生産性を20%程度向上させると報告されています。実際に生産性が向上するからこそ、開発者を抱える企業や個人が有料で利用しています。

成功要因としては、下記が考えられます。
① ユーザーが日常的に長時間使うツールに組み込まれている
② 大規模な学習データを持ち、高品質な提案が可能

AI Copilot有望企業の抽出

ここから、AI Copilotの成功要因を下記のように考えました。
①ユーザーが日常的に長時間使うツール
➁大規模な学習データを保有、またはデータ収集が可能

この条件に基づき、以下の企業をピックアップしました。

➁の観点では、企業や個人が入力したコンテンツをそのままAIの学習データとして使用することは難しいですが、ユーザーの行動パターンなど、プライバシーに配慮した形でのデータ収集は可能と考えます。

サイバーセキュリティ企業は今回の選定には入れていません。AIを使ったセキュリティ機能の向上は期待できますが、AI Copilotという観点では、日々そこで作業をするのはセキュリティ管理者など一部に限られるという認識のためです。

同様に、サービスナウやワークデイなども選定に入れていません。一般ユーザーはたまに入力を行いますが、日々作業をするのは管理者や特定部門に限定されるという理解からです。

また、ハードウェア上でのAI活用という観点から、以下の2社にも注目しています。

アップルはAIで出遅れていると指摘されますが、iPhoneは人が生活を共にしており、どういう人で、どこにいて、何をしているか、といった情報を取得可能です。操作性の向上だけでなく、生活のAI Copilot、バトラーや個人秘書のような機能を担う可能性を秘めていると考えます。

投資対象としての魅力を比較

これらの企業の投資対象としての魅力を二つの観点から検討しました。

①潜在的なAI Copilot収益のインパクトの大きさ

  • GitHub Copilotの事例から下のフレームワークを作成

  • 収益ポテンシャル =(A) ユーザー数 × (B) AI Copilt課金割合 × (C) 月額 x 12ヶ月、で試算

    • (実際の課金形態とは異なる、横一列でポテンシャルを測るための仮定です)

  • (A) ユーザー数は開示されていないことが多く、記事等からの推定である点に留意ください

  • (B) AI Copilt課金割合は、ある程度普及した時点を想定し、一律25%と仮定

  • (C) 月額は一律15ドルと仮定(テスラのみFSDオプションに値段$12万ドルを考慮し50ドルと仮定)

    • ChatGPT(月額20ドル)、Microsoft 365 Copilo(月額30ドル)も含め、概ね10-30ドルが相場になりつつあることから

  • 潜在的なAI Copilot収益のインパクト = 収益ポテンシャル ÷ 2024年売上高予想

➁生成AI活用の期待がどれだけ高いか

  • ChatGPT公開後から現在までのPERの変化、として計測

  • 現在のPER - 2023年初のPER、で計算

  • PERは12ヶ月予想利益ベース

  • もちろん生成AI期待だけでPERが動いているわけではなく、実際の計測は難しいため代理としての指標

結果がこちらです。

横軸は、「2024年売上高予想に対する生成AI Copilotポテンシャル」を表しています。値が大きいほど、AI Copilotによる収益貢献のポテンシャルが高いことを示唆しています。 

縦軸は「2023年初から現在までのPER変化」を表しており、値が大きいほど、市場が生成AI関連の事業に対して高い期待を寄せていることを意味します。 

したがって、グラフの右下にプロットされた企業ほど、AI Copilotによる高い収益ポテンシャルを持ちながら、市場の期待が相対的に低いため、魅力的な投資機会と考えられます。

全体的に夢のない数値になっていると感じるかもしれませんが、計算の前提が現実的な数値になっていることにご留意ください。

詳細数値は下記です。

グラフから読み取れるいくつかの興味深いポイントがあります。

まず、アップルとテスラの比較です。アップルの圧倒的なインストールベースがAI Copilotポテンシャルの差につながっています。一方、テスラはFSD(自動運転オプション)収益化のスケーラビリティという課題を抱えている可能性があります。車一台の価格と比較して現実的に月額料金としてチャージできる金額は低く、収益インパクトが限定的になり得るからです。これが、イーロン・マスク氏が「FSDの他社へのライセンスを検討する」と発言した背景にあるのかもしれません。

アップルはポテンシャルと比較したと期待は低く、興味深い投資対象となり得るかもしれません。逆に、テスラはポテンシャルの割に期待値が高いとも言えます。

次に、SAPとエヌビディアの協業が期待されている可能性があります。SAPがエヌビディアGTCでも紹介されたことで、AI分野での評価が高まっているのかもしれません。

また、マイクロソフトをベンチマークとしてソフトウェア他社を比較すると、ハブスポット、オートデスク、アドビは同等のポテンシャルを持ちながら、期待感は限定的で、注目に値します。
特にハブスポットは、本記事を制作中、米国時間4月4日にグーグルからの買収観測が伝わり、株価が5%上昇しました。これは、本記事と同じように、生成AI活用ポテンシャル、という視点で見られている可能性を示唆します。
ただし、PERの絶対値で見ると、まだバリュエーションは高く、生成AIポテンシャルもある程度織り込んでいると見られることに注意が必要です。

最後に、ユニティ、ドキュサイン、ズームといった、一時は「コロナバブル」をけん引した銘柄が、生成AIをきっかけに再び脚光を浴びる可能性があります。特に、ドキュサイン、ズームはPER等で見ると、市場全体と比較して割安で放置されています。

実際の、各社の生成AI取り組み状況

そして、これらの中でAIへの取組が既に広く知られたマイクロソフト、セールスフォース、アドビといった企業以外も、実際に生成AIへの取組を重要な経営課題として位置づけています。

アップル

  • 最新MacBook搭載の独自のM3半導体は、大規模言語モデル画像生成モデルをデバイス上で高いパフォーマンスで実行可能、と評価あり。

  • iPhoneにおける生成AI分野でも大きな機会を認識。2024年内に詳細を発表予定。

ハブスポット

  • 生成AIを業務プロセス全体に浸透させ、マーケティング、営業、サービスなどの幅広い分野で生産性向上を図る計画。

  • 自社プラットフォームの中核にAIを組み込むことで、顧客データの活用や新製品への搭載を通じて、業務の効率化と新しい価値創出を目指している。

オートデスク

  • 10年以上前からAI技術に取り組み、クラウド化やサブスクリプションモデルの導入など、AIサービス提供に適した基盤を整備してきた。

  • Fusion 360などの製品にAIを組み込み、設計から製造までのプロセス全体でAIを活用することで、作業の自動化による生産性向上と、適正価格設定によるAIの新規収益源化を目指す。

インテゥイット

  • AIを新規顧客獲得と既存顧客定着の重要な手段と位置付け、製品のオンボーディング改善、専門家連携の強化、適正価格設定などで活用を推進。

  • AIの活用領域を拡大し、TurboTax Liveでのコスト削減、独自SKUとしての販売、クレジットカルマのデータ活用によるさらなる顧客層開拓なども視野に入れている。

ユニティ

  • ゲームエンジンUnity Editorや広告事業GrowにAI機能を組み込むほか、次期バージョンでのAI機能強化を予定するなど、ゲーム分野でのAI活用を積極的に推進している。

  • 産業分野においても、3Dデジタルツインや可視化、ARなどの分野でAIを活用する計画があり、Capgeminiとのパートナーシップを通じてAI組み込みソリューションの提供を目指す。

ドキュサイン

  • 新製品の開発において、最初から生成AIを組み込むことで、契約管理分野での革新的な価値創出を目指す。

  • 顧客データ活用によるAIモデル最適化や、生成AIを活用した新プラットフォームサービスの提供など、生成AIを事業の中核に据える大規模な投資を行う計画。

ズーム

  • ZoomはAI機能を無償提供するZoom AI Companionや、新製品Zoom Docsなどを通じて、生成AIを主力製品に組み込む計画である。

  • 生成AIの活用により、新規収益源の創出や成長エンジンとしての役割を期待しており、AIが事業の中核を占めるとする。


ChatGPT発表をきっかけとし、株式市場ではエヌビディアがけん引してきたAIブームは、生成AIサービスの実需の高まりによって継続する、と考えています。その中で、まだ生成AIに関連した期待をフルに織り込んでいるわけではない、上記の企業が注目を集めるかもしれません。

エンタープライズITのカテゴリ分けと有望企業

最後に、エンタープライズIT、つまり企業内で使用するための生成AIの開発・活用も加速しつつあります。これをカテゴリに分け、その恩恵を受ける主要プレイヤーについてまとめます。

①クラウド上での生成AIモデルのトレーニング・活用:
エヌビディア(NVDA)のGPUや、データブリックス (非上場)、スノーフレーク (SNOW)、モンゴDB (MDB)の大規模データ処理・分析プラットフォームは、企業がクラウド上で生成AIモデルをトレーニングし、活用するために不可欠なインフラを提供します。また、アマゾン (AMZN)、マイクロソフト (MSFT)、グーグル (GOOGL)、オラクル (ORCL)は、クラウドインフラとAIプラットフォームを通じて、企業のAI活用をサポートします。

②オープンソースAIモデルの提供::
メタ(META)やグーグル (GOOGL)が提供するオープンソースの大規模言語モデルは、企業が無償で利用し、カスタマイズできるため、自社のニーズに合わせたAIモデルの開発を容易にします。

③生成AIモデル作成・カスタム化支援コンサル:
ブーズ・アレン・ハミルトン (BAH)、アイビーエム(IBM)、アクセンチュア (ACN)などのコンサルティング企業は、AIガバナンスや倫理対応も含めた専門的な知見やリソースを提供することで、企業の生成AIモデル作成とカスタマイズをサポートし、AIの適切な活用を促進します。

④クラウドソフトウェアのデータを活用したAIモデルの作成、カスタマイズ:
オラクル (ORCL)、SAP (SAP)、セールスフォース (CRM)、サービスナウ (NOW)などが提供するクラウド上に、企業が日々データを蓄積させています。これら企業は、企業による独自のAIモデル作成やカスタマイズを可能にします。企業は自社のデータに基づいて最適化されたAIモデルを利用できるようになります。

⑤オンプレミスでのAIインフラ構築とトレーニング:
ヒューレット・パッカード・エンタープライズ (HPE)やデル・テクノロジーズ(DELL)は、企業がオンプレミス環境でAIインフラを構築し、社内データを活用して生成AIモデルをトレーニングするためのソリューションを提供します。これにより、クラウドへのデータ移行が困難な規制対象企業や、自社データの機密性が高くクラウド活用に課題を持つ企業でも、生成AIの活用が可能になります。

⑥AIモデルの共有・売買プラットフォームの提供:
ハギングフェイス (非上場)は、自然言語処理を中心としたAIモデルの共有プラットフォームを運営しています。このプラットフォームを通じて、企業は他社が開発したAIモデルを購入したり、自社で開発したモデルを販売したりすることができます。これにより、AIモデル開発のコストと時間を削減し、生成AIの導入を加速できます。

⑦AIトレーニング用の高品質なデータセットの提供:
アッペン (オーストラリア上場)は、AIモデルのトレーニングに必要な高品質なデータセットの作成をサポートしています。企業は、自社データだけでなく、アッペンが提供する多様なデータセットを活用することで、生成AIモデルの性能を向上させることができます。

上記の主要プレイヤーは、AIインフラの提供、データの活用、コンサルティングサービスなどを通じて、企業のAI活用を支援し、エンタープライズITの変革を牽引していくことが期待されます。

まとめ

本記事では、生成AIサービスの実需の高まりによってAIブームが継続すると見込まれる中、Github Copilotの成功要因を分析し、AI Copilot(ソフトウェアへの生成AI組み込み)という観点から有望企業を特定しました。特に、アップル、ハブスポット、オートデスク、アドビ、ユニティ、ドキュサイン、ズームなどの企業は注目に値する可能性があります。

また、エンタープライズITにおける生成AIの活用は、AI Copilotとの相乗効果により、さらなる市場拡大をもたらす可能性があります。企業がクラウド上やオンプレミスでAIモデルを開発・活用し、オープンソースモデルやAIトレーニング用データセットを利用することで、生成AIの導入が加速すると予測されます。

生成AIは、ビジネスや社会に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。この変革の波を捉えることが、新たな投資機会の発掘につながるでしょう。これらを今後も追い、記事にしていきます。是非フォローをお願いいたします。

より広く、生成AI関連の投資テーマを検討した記事はこちらをご覧ください。

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