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ハイチュウを噛み締める。10年ぶりに。

深夜、コンビニへ行った。
コンビニレジ前の棚には、「ピュレグミ」や「果汁グミ」といった定番の商品たちが並べられている。だが今日私が求めているのは、彼らではない。
私が求めている商品は、彼らに隠れるように棚の最下段に配置されていた。

ハイチュウだ。
深夜0時ごろ。きっかけもなく唐突に、ハイチュウが食べたくなった。
最後に食べたのは10年以上前だろうか。私は知らない間にハイチュウを卒業していた。小さい頃はあれほど食べていたのに。

大人になるにつれ、グミ系の素直な食感を求めるようになり、ハイチュウの独特な食感を敬遠するようになっていた。
それなのに今は、あのネチョネチョした、歯にまとわりついてくる食感が恋しくなっている。

葡萄味とレモン味のハイチュウが売られていた。
ハイチュウのスタンダードは葡萄味だろう、ということで迷わず葡萄味を手に取り、会計を済ませた。
10年以上他のグミなどに浮気していた私を、果たしてハイチュウは受け入れてくれるのだろうか。

包装を丁寧に外し、一粒手に取ってみる。この肉厚な見た目が大好きだった。10年経ってもこの見た目は変わっていないようだ。

一粒口に放り込む。
少し力を入れて噛むと、ジューシーな甘みが口の中全体に広がった。噛めば噛むほど甘みが広がる。この歯にまとわりつく独特の食感も懐かしい。ガムほどしつこくはなく、グミほどあっさりしすぎていない、ハイチュウ独特の心地よい食感だ。

包装紙に目をやると、何か書いてある。

ハイチュウは君を裏切らない
僕をかみながら泣いてもいいよ    
(ハイチュウ)

ハ、ハイチュウ...?
10年以上も君を食べてやらなかった私を、許してくれるのか...?

甘さがあるから辛い一歩も踏み出せる
やまない雨はない かめないハイチュウもない
(ハイチュウ)

ハ、ハイチュウさん...

ハイチュウの名言は止まらない。

楽しい顔で食べればハイチュウ1粒でもパーティーだ
つらいことはハイチュウでリセットしよう
(ハイチュウ)


名言を噛み締めながら、ひたすらハイチュウを口に運ぶ。
10粒以上あったハイチュウがいつの間にか、全てなくなっていた。

ハイチュウを一口噛むたび、小さい頃の思い出が蘇ってきた。
市民プールの帰りに友達と一緒に食べたハイチュウ、お母さんからご褒美に買ってもらったハイチュウ、初めて自分のお小遣いで買ったハイチュウ…
小さい頃の思い出は常にハイチュウと共にあった。
私はいつの間にか、ハイチュウだけでなく思い出も噛み締めていた。




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