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【シリーズ第57回:36歳でアメリカへ移住した女の話】

 このストーリーは、
 「音楽が暮らしに溶け込んだ町で暮らした~い!!」  
 と言って、36歳でシカゴへ移り住んだ女の話だ。

 アパートのランドリールームの洗濯機と乾燥機は古いので、トラブルが頻発する。
 それに加えて、私もトラブルを起こす。
 一度は、ランドリールームへ行こうとして、インロックをし、真夜中に消防車を呼ぶ騒ぎになった。

 メインテナンスのチャールズだと思って電話をした相手が、ベースプレイヤーのチャールズだったこともある。(前回参照)

 ランドリールームは隣の棟にある。
 鍵、小銭(クウォーター:25セントコイン)、洗濯物、洗剤を持って、階段を降り、一旦ビルディングの外へ出なければ、洗濯ができない。
 冬はめちゃめちゃ寒い。
 十分なクウォーターがなければ洗濯をする実力すらない。
 不特定多数の人と、洗濯機を共有することも、気持ちいいものではない。

 不満というほどの不満ではなかったけれど、洗濯機が部屋にあれば嬉しいなぁ・・・と思い、常々脱水機能の付いた二層式洗濯機を探していた。
 部屋の中は日当たり、風通し良好だ。
 夏なら部屋干しで、2時間もあれば渇く。
 
 探し始めて、半年は経っていたと思う。
 ついに、150ドルで売りに出している人を発見した!

 やったー!!!

 さっそくピックアップに行った。
 意外と重かったけれど、積むことはできた。
 けれども、これを4階まで運べるとは思えない。
 よし!メインテナンスのチャールズに頼もう。

 同居人も頼めば手伝ってくれるに違いない。
 けれども、笑顔で手伝ってくれるとは思わない。
 笑顔になる必要はないのだが、嬉しそうに手伝ってくれると、私が嬉しい。
 しかし、彼は嬉しくもないのに、嬉しい顔をする人ではない。
 嫌なことに関しては、

 「嫌だっ!!!」

 と、非常にわかりやすい顔をする。
 わかりやすいけれど、私は、嫌な顔を見るのが嫌だ。

 ①嫌だけど手伝う
 ②嫌だから手伝わない
 ③嫌だけど好きなフリをして手伝う
 ④嫌じゃないけど、楽しいフリはしない

 うーん、・・・どれも嫌だ。
 
 喜んで手伝ってくれることのみを望む私に問題がある。
 けれども、まぁ、そういう理由で、あまり頼み事はしない。

 その点、チャールズは仕事なので、

 「オッケー!」

 と、快く引き受けてくれる。

いつも私に呼び出されるチャールズ

 アパートの裏口に到着すると、タイミングよく、チャールズが掃除をしていた。

 「チャールズ!この洗濯機、4階まで運んでもらってもいい?」

 「オッケー!」

 運び込まれた洗濯機を、ただちに設置する。
 本当はバスルームに設置したかったけれど、残念ながらスペースが足りなかった。
 洗濯の汚水を、キッチンのシンクに流すことには、抵抗があるけれど、チョイスはない。

 さっそく洗濯開始。

 便利だー😁😁😁

 部屋で用事をしながら洗濯ができる。
 洗濯物をかついで隣の棟まで移動する必要もない。
 途中で洗濯機が故障する心配もない。
 常に、クウォーターを準備する必要もない。
 その日はお天気で、部屋干しで、あっという間に乾いた。
 節約できる上に、洗濯物は日向のにおいがする。

 まさにいいこと尽くし💛

 ある日、真夜中に、洗濯をしながら隣の部屋で宿題をしていた。
 隣といっても、仕切りはないので、ひと部屋みたいなものだ。
 しばらくすると、パチャパチャと耳慣れない音がし始めた。
 
 「なんだ???」

 振り向くと・・・

 床上浸水だーーーっ!
 
 排水ホースをシンクにセットするのを忘れたらしい。
 ただちに拭き取ったけれど、大量の水が床下に吸収された模様。
 階下はどうなっているんだろう?
 数日はドキドキしながら過ごしたけれど、誰も何も言ってこない。
 ほっと胸をなでおろした。

 それからしばらくした、ある日の午後、キッチンに入って行くと・・・

 またまた床上浸水だーーー!!!

 同居人が、ホースをセットし忘れたらしい。
 二人で、掃除をしていると・・・・・

 バンッバンッバンッバーーーンッ!!!!!

 キッチンにある裏口のドアが激しく叩かれた。
 彼が扉を開けると、ものすごい勢いで白人の男が入ってきた。

 「おりゃ~!!!
 お前らいったい何しとるんじゃーーーっ!
 以前にもあったけど、なんで毎回10ガロンの水が天井から降ってくるねん!!!
 部屋中水浸し、キッチンの食料も全部びちゃびちゃじゃーーーっ!
 どないしてくれるんじゃーーーっ!」

 こんなに怒っている人を見たのは久しぶりだ。
 しかも、怒りの原因は私だ。
 相手が英語で良かった。
 怖さを感じないので、怒っている彼をぼんやり見ていた。
 すると、同居人がすっと前に出て、後を引き受けてくれた。

激怒する階下の白人

 男と共に、階下の様子を見に行った彼が戻って来て言った。

 「こらあかんわ。
 あの男が怒るんも当然やわ。
 壁も天井も水浸し、食べ物も水浸し。弁償やな」

 「・・・はーい・・・」

 そして、階下の男とマネージャーと、話し合いをすると言って、彼は再び飛び出して行った。
 なんだか楽しそうだぞ・・・。

 20分ほどで戻って来ると、ニコニコしながら言った。

 「もう大丈夫。
 下の男に食料の弁償と、迷惑料、150ドルだけ払ったって」

 「そうなん?あんなに怒ってたのに?」

 「もう怒ってなかったで」

 「ふーん・・・ありがとう」

 あんなに怒っていた階下の男の機嫌がなおった。
 しかも、たった150ドルで許してくれるとは驚いた。
 貧乏人が暮らすアパートだったので、150ドルでも結構ウハウハだったのかもしれない。
 マネージャーが、壁や天井の修理代を請求しなかったことも意外だ。
 黒人は器用だ。
 業者に頼まなくても、チャールズが修理できるのかもしれない。
 そして、楽しそうにトラブルを解決する同居人は、もっと不思議だった。
 ”解決”することが楽しかったのかな?
 理由はわからないけれど、同居人がいてくれて良かった。

 「笑顔で手伝えーっ!」

 なんて傲慢なことを思っちゃいけません。
 反省😊


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