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サンドイッチかごはんか

4、5歳の頃通っていた保育所の昼食は、給食とお弁当の日があった。お弁当の日、いただきますの前にみんなのアルミのお弁当箱の蓋についてるドラえもんやキティちゃんやアニメキャラなどの絵をそれとなく眺めるのが好きだった。特に兄や姉のいる子はお弁当箱がおさがりで、ちょっと前のリアルタイムで見たことないアニメの絵がついているとレア感があってじっと見つめてしまった(内気なので「見せて」とは言わない)。

それにしても1982年頃のお弁当のおかずってどんなだっただろう。今ほど冷凍食品が充実していなかったので親は面倒だったと思う。定番のおかずといえば卵焼きやウインナー、ミートボールくらいか。あとは残り物を詰めたり、手間だが朝手作りしてくれていたのだろう。私はしそごはんが大好きだった。おかずの印象よりしそごはん。こんなこと言うと母はがっくりするだろう。

子どもたちがお弁当箱の蓋を開けると、その家ごとの匂いがする。うちの母のお弁当はうちの家庭で作られた独特の匂いがあった。今、自分で作るお弁当を開けても不思議とあの匂いはしない。家庭ごとの使う食材というより、作る人によって違ってくるのだろうか。

話を保育所に戻すと、昼食は机をグループ単位でくっつけて食べていた。ある時グループの中で仕切りたがりなマナブくんという子が、今日のお弁当がサンドイッチ派かごはん派で多い方が勝ち、という遊びを始めた。単純なことだが子どもは純粋なので、はじめのうちはなかなか盛り上がっていた。せーので蓋を開けてカウントし、「ごはんの勝ち―!」とか言うのだ。
こ憎たらしいことにマナブくんはいつも勝ちの方だった。そのうちゲームはエスカレートし、普段から他の子をいじめたりすることがあったマナブくんは少数派に向かって「サンドイッチのお前とお前は仲間はずれ~」とか言い出した。次第にみんなの心に共通する気持ちが芽生えていった。

(『こいつ、負ければいいのに・・・!』)

そしてその時はやって来た。
せーの、で蓋を開けると、なんとマナブくんだけサンドイッチだったのだ。
みんなの願いは叶ったが、意外な結果に心の準備ができておらず誰一人言葉が出ない。
(『どう出る!?マナブよ!!』)

気まずい空気が流れた次の瞬間、とんでもない言葉を耳にした。
「オレ以外みんなナカマはずれー!!」

その日以来このゲームはなくなった。
お弁当の時間に再び平和が訪れたのは言うまでもない。

人生わずか4年目にして子どもたちは、マナブによって弁当とともに生まれて初めて“理不尽”というものを味わったのだった。

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