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アドバルーン

その昔、土曜日は毎週昼まで授業があった。嫌なことだ。
当事者としてはプラス思考で、“はよ帰れる”と、むしろ楽しい日だった。

給食はどうなるかというと、うちの地域ではなんと牛乳のみが出ていた。まあいろんな大人の事情があったのだろう。ときどきテトラパックのオレンジジュース(濃縮還元なので“果汁”と呼ばれた)の時があって、少し嬉しかった。子どもって純粋だなあ。

牛乳を飲むという義務を終えて、晴れて自由の身になる。今日の昼ごはんは何だろう。
地元のデパートが正午のミュージックサイレンを鳴らす。物憂げな童謡『花嫁人形』のメロディーがかすかに聞こえ、土曜の昼ののんびりした雰囲気を演出している。

帰り道、晴れた日は遠くの空に丸いアドバルーンを見つけた。目をこらしてぶら下がっている文字の解読を試みると、どこかの家具屋のお知らせだった。妙に明るい女性の声で何かをアナウンスしながらゆっくり飛んでいく飛行船もあった。これらは絵本から出てきた未知の生き物みたいで、かわいいような少し怖いような魅力があった。

私は、土曜の午後は習い事に使っていた。二歳下のいとことピアノ教室に行って、その帰りに送迎ついでの母親たちの買い物に便乗するのが楽しかった。

そうこうするうちに夜になりTVを見る。土曜の夜といえば、うちはまんが日本昔ばなし→クイズダービー→ドリフの流れだった。ドリフが終わってしまい加トちゃんケンちゃんへ変わったのをリアルタイムで見た世代だ。
そして風呂に入り寝る。
週休1日だと夜更かしできるのはたった1日だけ。もっとテンション上がりそうなものだが、小学生の頃なんて健全なもんでさっさと寝ていた。

それにしても大人目線だと「週休1日でやってたんか~」とそのバイタリティに感心する。
だって毎朝早起きして、6連勤(勤務じゃない)だよ!?中学高校になって部活や塾なんかもすると、オーバーワーク(仕事じゃない)でしょ!?と心配になる。
夏休みなどの長期休暇ボーナスや、家事はほぼ親任せというのを差し引いても6日連続で学校ばっか行ってるなんて改めてすごい。そこは若さで乗り切ってたんだろう。

あの土曜の昼の爽やかな解放感は、果てしなく伸びやかな未来につながっているような気がしていた。パラレルワールドはどこにあるのだろう。

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