根津美術館おみやげ『琳派コレクション』 伊年印を愉しむ
すこし前、東京青山の根津美術館で夏から秋への移り変わりをイメージした展覧会『夏と秋の美学』を鑑賞しました。
(※この展覧会はもう終了しています。展覧会レビュー記事もどうぞ)
展示物は季節感あふれる草花図が多く、とくに琳派の草花図屏風の優品が並んで素晴らしかったので「図録欲しいな!」とショップを覗いてみたのですが…おや、図録がない。
そうだ、根津美術館は通常の企画展では図録が発行されないんだった。忘れてた…
というわけで、収蔵品を手元でじっくり眺めたいと思ったときは、公式が定期刊行しているテーマ別の作品集を見るのが最も適切なのです。幸いにも琳派は知名度が高いため『琳派コレクション』なる作品集が出ていました。
表紙は尾形光琳の国宝『燕子花図屏風』を元にしたデザイン。金色部分が2色のマス目で塗り分けられているのがおしゃれ。
伊年印の草花図屏風
展覧会では特に作家名『伊年印』という奇妙な作品に心惹かれました。
What's 伊年印?
調べてみると、俵屋宗達とその工房で押されたブランドロゴのことなんだそうです。へぇ
参考資料:大和文華館 美のたより 1990年 夏(Vol.91)
[琳派研究ノート] 俵屋と伊年印について
今回展示されていたのは伊年印の『夏秋草図屏風』、夏草と秋草を六曲一双で描き上げた、淡彩と薄墨による装飾的な描画が美しい作品です。もちろんブックレット『琳派コレクション』にも収録済み。
同じく伊年印作品としては他に屏風二双と、伊年印の中の人とされる画家・喜多川相説による一双が載ってました。『四季草花図屏風』という金地に華やかな季節の草花を縦横無尽に散らした美しい作品は、根津美術館が誇る伊年印の基準作品だそうで、フルカラーで描いた花の細密描写が素晴らしい。
墨をベースに葉を塗り、淡彩で透明感のある色調を重ねた『草花図屏風』、『夏秋草図屏風』とはまた別系統の作品ですね。ボタニカルアートとも日本画とも少し違った、独特の風情を感じます。是非、実物をチェックしたいところ。
伊年印屏風は根津美術館の学芸員の方々の間でも研究テーマになっているのか、巻末に数ページある解説文でも大きく取り上げられていました。
伊年印屏風、他の美術館にも収蔵されているようなのでそのうちまとめて一括展示されないかなぁ
琳派コレクション@根津美術館
根津美術館の琳派コレクションには酒井抱一こそほぼ含まれませんが、俵屋宗達とその工房、尾形光琳・乾山兄弟の屏風と焼物、鈴木其一の『夏秋渓流図屏風』、円山応挙の『藤花図屏風』など、非常に質の高い作品群を有しています。一度に全てを見るのは難しいですが順々に展示に出てくるので何回か訪問すると色々観覧できそう。
ちなみに燕子花図屏風は毎年5月、美術館の庭でカキツバタが花盛りの頃に展示されます。興味のある方は次の5月に是非どうぞ。