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バイデン大統領が一般教書演説で"Made in America"を強調したワケとは

現地時間7日、バイデン大統領は毎年恒例の一般教書演説(State of the Union Address)を上院下院合同会議で行った。

1時間超のスピーチの中で、"Made in America"という言葉が何度も議事堂に響き渡った。これはバイデン氏の「アメリカの製造業雇用を取り戻す」という選挙公約のスローガンとなった一言であり、国外からの輸入品や海外への生産拠点移行によって大打撃を受けたアメリカ製造業の復活を訴えるメッセージが込められている。

また同スピーチ内では、公的インフラ整備に用いられる建設用具を全て国内製とすることを義務付ける新基準も発表された。バイデン氏がここまで"Made in America" 政策に熱を入れているのには理由がある。


時は2016年、トランプ氏は混戦と化した共和党予備選を勝ち抜いた。総選挙を前に彼は「ラストベスト(Rust Belt、かつて鉄鋼業や自動車産業によって栄えた中西部の地域 ) の製造業雇用がメキシコや中国に送られた」、「TPP(環太平洋経済連携協定)やNAFTA(北米自由貿易協定)を推し進めた自由貿易主義者たちのせいでかつての偉大なアメリカの製造業が荒廃している」と中西部の有権者に訴えかけ、ブッシュ・オバマ政権に一貫していた自由貿易主義的政策を痛烈に批判するとともに、衰退した製造産業によって痛みを被った人々の苦しみに寄り添った。

共和党の伝統的な自由貿易容認の立場を覆したトランプ陣営は、"America First"の一環として自国の産業に不利な貿易を許さない保護貿易主義を追求することを明確にした。

トランプ氏は民主党の地盤であった中西部において白人労働者層から絶大な支持を勝ち取り、前馬評に反して大統領選に勝利した。これまで大統領選において「ブルーウォール」と呼ばれるようになるほど民主党候補支持を貫いてきた地域を失ったことは民主党陣営にとって激震となり、党全体の方針が抜本的に見直されるきっかけとなった。

その時の反省を活かし、バイデン氏は2020年の大統領選でアメリカの製造業を復活させることや労働組合に対する支援政策を前面に押し出した。選挙前から製造業界に4000億ドルを投資し、オフショアイング(生産拠点を海外に移す行為)を行った会社には10%の追加課税を行うというトランプ氏顔負けの産業保護政策を次々と発表した。

これが大統領選において激戦州となる中西部の有権者を意識した戦略変更であることは間違いない。中国に対抗する意味でも国内の二次産業の活性化がますます重要になる局面を迎えている中、"Made in America"を来年の大統領選の公約の中心に据えようとする意図が見て取れる演説だった。

民主・共和両党が自由貿易主義から距離を置き、産業の「アメリカファースト」政策を推進するようになった点は、トランプ大統領がアメリカ政治界に残した大きな爪痕として如実に現れている。

山田 優

Photo credit: NOS news / AFP

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