暮しの手帖とヴェネツィアと
亡き母は「暮しの手帖」の熱心な愛読者であり、この本は子供の頃から
いつも私のそばにありました。今の私のライフスタイルの原点といえる
ものかもしれません。
1969年発刊「戦争中の暮らしの記録」
1969年発刊の「戦争中の暮らしの記録」も、今も古びたまま実家に置いて
あります。はじめて読んだのは、中学生の頃でした。
戦争中の日々の暮らしの細かな描写や普通の人々の物語は、それまで見聞きできなかったことばかりで、興味は尽きず何度も繰り返し食い入るように
読みふけったものです。
集められた豊富なスケッチやイラストにも惹きつけられました。
戦争の悲惨さもさることながら、厳しい状況下で必死に自分らしく生きようとする人々の生活力や、物のない中でのサバイバルの工夫が鮮烈でした。
母から実際に戦争や当時の暮らしの体験を聞いたりするようになったのも、この本がきっかけだったように思います。
母は徹頭徹尾、反戦そして反核の人でした。
それが母が暮しの手帖の愛読者だったことと無関係ではないと気がついたのは、私が大人になってからでした。
3.11以降私がデモに行ったり、反戦反核の活動をしているのも、2011年の秋、自分の代わりに原発反対のデモに行ってきて欲しいと母に頼まれ、
代理のつもりで参加したのが始まりでした。
#私たちの人生の大半は日常でできている
私たちの人生の大半は日常でできています。日常生活の質を見直すことで、価値観や考え方が変わることもあります。むしろ難しい哲学や議論よりも、その方が確実でより多くの人に響くのではないでしょうか。
自分の日々の暮らしや大切な人を守りたいと願うからこそ、理不尽な社会に対して声を上げていくのです。
ふと、私がずっとやってきたこと、これからもやっていこうとしていることは、「ヴェネツィア的暮しの手帖」なのかもと思いあたりました。
暮しの手帖とヴェネツィア、私の人生を大きく変えたふたつの出会い。
それはいみじくも私の実母とヴェネツィアのマンマという、
ふたりの母が私に手渡してくれたものなのです。
#本当の豊かさを求める都市型スローライフ
2000年に追い立てられるように本を書いたのも、2010年にブログを始めたのも、多くの人たちと都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」の価値観を共有したいと思ったから。
そして何ということか、2015年に私はふたりの母をいっぺんに失ってしまいました。今また、ふたりの母から受け継いだものを、どのように伝えていこうかと考えています。
本当の豊かさとは何か、自分らしく生きるとは何か、を探りながら、
よりよい生活者でありたいと思っています。
デザイナー、美術家、料理家。イタリアはヴェネツィアに通い、東京においても小さなエネルギーで豊かに暮らす都市型スローライフ「ヴェネツィア的生活」を実践しています。ヴェネツィアのマンマから学んだ家庭料理と暮らしの極意を伝えます。