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「天地人が注目する今月の宇宙ニュース ~ 衛星通信編~ Vol.10」

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。

天地人が注目した4つの海外ニュースを紹介します。
今回は、
・衛星通信の鉱山採掘への活用
・中東発の衛星対応5Gバックホールの実証
・SpaceXが天文学への配慮を約束
・Lynk Globalによる2つの衛星打ち上げ
を取り上げました。

それぞれについて、天地人の専門家が、ニュースの注目ポイントや今後の動向を解説します。


天地人が注目したニュース4選!

ニュース1:衛星通信が鉱山採掘の生産性、安全性、環境への影響を改善

Space & Satellite Professionals International(SSPI)は、IoTデバイスと通信衛星との接続を通して、世界中の鉱業会社の運用の自動化、鉱山の廃棄物管理方法の改善を目指す。建物や橋からポケットの中の携帯電話まで、現代の生活はあらゆるものに鉱物が使われている。生活を豊かにしていくために、鉱業の安全性、効率、生産性の向上に注目が集まる。
出典:”SSPI’s Better Satellite World video reveals connectivity for IoT makes mining more productive, safer and green”, satnews, 9 Feb 2023.
 SSPI’s Better Satellite World video reveals connectivity for IoT makes mining more productive, safer and green – SatNews

ニュース2:アラブ首長国連邦、中東初の衛星対応5Gバックホールの実証に成功

アラブ首長国連邦の大手通信事業者であるエミレーツ統合電気通信会社(EITC)の傘下企業のduは、SESの中地球軌道(MEO)衛星を利用して、中東で最初の衛星対応5Gバックホールの実証に成功した。これにより、SESの現在のO3bコンステレーションの5Gの網羅率を拡張し、信頼性が高く、単位時間あたりの実効伝送量を増やし、低遅延のネットワーク接続が実現される。duの顧客には国外の発電所等がおり、遠く離れた顧客にも通信をサポートしていく。
出典:”du and SES Demo First Satellite-enabled 5G Mobile Backhaul Network in the Middle East”, Market Screener, 10 Feb 2023.
du and SES Demo First Satellite-enabled 5G Mobile Backhaul Network in the Middle East | MarketScreener

ニュース3:SpaceX、天文学への配慮を約束

SpaceXは、Starlinkサービスを提供するために打ち上げられた通信衛星が、天文学の観測に悪影響を及ぼすのを防ぐために、米国国立科学財団(NSF)との新しい契約に署名した。Starlinkに用いられる人工衛星による天文学への影響は天文学者から長らく批判されていた。2019年には、CEOであるイーロンマスクは、SpaceXのStarlinkが天文学の発見に重大な影響を与えないことを保証すると述べ、国際電波天文学保護基準を満たすことに同意した。今回の協定ではさらに、人工衛星が反射する光が7等級(*)より暗くなる様に設計変更に取り組むことを約束した。

 *天体の明るさの指標。数字が小さいほど明るいことを示す。人間の肉眼の暗さの限界は約6等級であり、7等級というのはそれより少し暗いことを意味する。7等級という値は、天文学への影響を考慮してNSFが提示している推奨値。

出典:Johnna Crider,”SpaceX signs agreement with US National Science Foundation to prevent Starlink’s interference with astronomy”,TESLARATI, 10 Feb 2023.
SpaceX signs agreement with US National Science Foundation to prevent Starlink's interference with astronomy (teslarati.com)

ニュース4:Lynk Globalが2つの衛星を打ち上げ、現在は軌道上に3つの衛星を持つ

Lynk Globalは、モバイルネットワークが存在しない遠隔地における通信網羅率を拡大するために、通信衛星を介した携帯電話サービスを提供する企業。同社は2022年、最初の Lynk Tower 1衛星を打ち上げた。今年1月にはさらに2基の通信衛星の打ち上げに成功した。今後、地球上の既存の標準的なモバイルデバイスと軌道基地局(通信衛星本体)を接続することにより、携帯電話への2G、4G、および5G接続サービスを提供する。
出典:Dan Swinhoe, “Lynk launches two more satellite-to-cell orbital base stations”, DCD, 10 Feb 2023.
Lynk launches two more satellite-to-cell orbital base stations - DCD (datacenterdynamics.com)


天地人はこう読む

以下では、本記事で紹介した4つのニュースがなぜ注目されているか、どんなトレンドが今後起こりそうかなど、天地人の専門家の見解を記します。
ニュース1は、「天地人において通信衛星向けAIプロダクトの開発マネージャーである木村」の見解を記します。

ニュース1:衛星通信が鉱山採掘の生産性、安全性、環境への影響を改善の解説

鉱業とは地球の資源である鉱物を探索し、採掘する産業を指します。鉱業で扱われる鉱物には、主に3種類あります。

  • 金鉱、銀鉱、銅鉱、鉄鉱等の金属

  • 石灰石、ドロマイト等の非金属

  • 石油、可燃性天然ガス等のエネルギー

どの鉱物も、私たちの生活には欠かせないものです。

鉱物は鉱山から採掘されますが、鉱山がある場所は都市部からは遠く離れ、地上の通信ネットワークからは隔絶したところにあります。
一方で、鉱山作業における自動化・効率化は日々進化しています。自動運転トラックや自動ドリル、トンネル内の大気状況の自動モニタリングや、作業箇所のカメラによる監視等が行われ、鉱山作業で使われる機材とその機材を管理するセンター間で、通信をすることが欠かせません。
鉱山のような地上の通信ネットワークがないところで、機材やセンター間での通信に利用されているのが、衛星通信です。このニュースで取り上げられているのは、Speedcastという衛星通信サービスを提供している米国の通信会社ですが、鉱業分野での衛星通信サービス提供に力を入れています。
鉱業における自動化・効率化が進展することで、この10年で、鉱山作業者の作業時間は7%増加しましたが、作業者が巻き込まれる死亡事故は20%減少しました。

鉱業で活用されているのは通信衛星だけではありません。SAR(合成開口レーダー)衛星を活用したリモートセンシング技術も利用されています。
鉱山での採掘作業により、地盤の変化が起きることで、不測の事故や自然災害の影響を受けることがあります。
Synspectiveでは、2020年より Land Displacement Monitoring (LDM) サービスを開始。このサービスでは、SAR衛星の画像を解析することで、ミリ単位での地盤変動のモニタリングを行っています。

参考文献
https://www.nittetsukou.co.jp/about/mining_industry/
https://www.sspi.org/cpages/smarter-mining
https://www.speedcast.com/about-us/what-we-do/
https://synspective.com/jp/usecase/2022/ldm9/



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この後もニュース2,3,4それぞれに対し天地人の専門家の解説を記します。
ニュース2は、「パリに拠点を置き、天地人事業開発マネージャーである浦部」の見解、ニュース3は、「宇宙物理を専門とする学生インターンである井上」の見解、ニュース4は「JAXAと天地人を兼業する通信衛星開発・運用エンジニアである稲岡」の見解を記します。

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