狙われた弁当

夏頃の話である。
その頃、ちょうど職場が変わった。職業柄、数ヶ月から数年で、色々な場所で働く。
働く場所が変わるたびに、新しいランチ場所を探すのが楽しみである。

今までよりも、少し都心寄りなので、外食が高くつくことが多い。なので、少し安い弁当を注文し、外の公園で食べていた。

そこの公園では、屋根がついているテーブルスペースがある。最初の頃は空いていないかったのだが、少し涼しくなってくると、空いてきて、そこで食べることが多くなった。

最初のうちは、特に問題はなかったのだが、徐々にアリが寄ってきていることに気づき始めた。昔から、体質なのかよくわからないが、少し草むらなどに入ると、アリが手の甲を歩いていたり、どこからきたのか、首元になぜかいるということが多かったので、今回もそういう感じだろうということで、気に留めなかった。

そのうち、カラスが寄ってきた。屋根や近くの木から遠目で軽く見られている感覚を覚えた。ただ、もともとその公園一帯には、カラスが飛び交っており、いつでも鳴き声が聞こえていたので、あまり気にしない。

次は、スズメがテーブルの上に乗ってきた。普通なら、弁当のおこぼれを、それを食べた人間が去ってから、よってくるものだが、ここのスズメは一味違う。目の前でつぶらな瞳を輝かせて待っているのだ。少し、たじろいだが、き、気にしないぞ。

最後に、猫が足元に寄ってきた。基本的に私は猫からは嫌われる体質で、まあ、もともと家にいついて、主人に対しても澄まし顔の印象の猫ではあるが、それでも嫌われる。近所で、よく発情している凄まじい鳴き声を聞いていたり、野良猫には餌をやってはいけないという厳しい家訓?があったのも大きく、猫に対しては嫌悪感を抱くことの方が多い。それでも、その猫は私の足元にやってきて、じっと私を見上げている。数分経っても、あたりをウロウロ回っていても、私への目線は外さない。しっかりとつぶらな瞳で、少し目を潤ませながら、懇願の眼差しをしっかりと、着実に私に向けてきて、気分が変わるのをじっと我慢強く待っているのだ。

この攻撃には、流石に少し心が揺らいだ。ちょうど、骨つき鶏肉を食べていたので、その骨をあげても良いかなとか、少しくらい肉を食べそびれて落としたことにしても良いかなと様々な想像をしてしまった。いや、だめだ。使った座席は、いつも以上に綺麗にして返そうという思いも手伝い、何も残さずにその場を去った。色々な意味で後味が悪い。

アリに集られ、カラスに睨まれ、スズメに泣かれ、猫に懇願される。

最近では寒くなり、屋外で食べることはほとんどなくなってしまったが、少し懐かしく思い始めたのであった。

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