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国際政治経済学講義ノート (マルクス主義についての補足)

マルクス主義についての私の説明がまずかったらしくて、よく理解できない人が多かったようです。そこで少し補足しておきます。

前回の講義で述べたように、マルクスの第一の主張は単純明快でほとんど説明を要しません。このようなものでした。

人間が歴史をもつためには、まず存在しなければならない。存在するためには身体の物質的必要を満たさなければならない。

より具体的には、生命を維持するために人間は労働します。でも労働してばかりでは死んでしまいます。そこで食事をしたり、休んだり、睡眠をとったりします。でも、人間は不死身ではありません。そうしていても死んでしまいます。だから生きてるうちに性交によって生命を再生産しないとなりません。

より身近な例を挙げましょう。あなたが毎日やっていることを考えて見てください。それはまさにマルクスが示唆するようなことです。働く。食う。休む。寝る。異性を口説いてデートする。あなたの人生・生活の大半はそういうことのために費やされていますね。というよりも、それが生きるということであり、生活することですね。

いや、しかし、人生はそれだけじゃない。自分は本も読んでる。勉強もしている。芸術も鑑賞してる。いや、勉強や芸術こそが自分の人生そのものである。だから、マルクスは間違ってる。そういう人もいるでしょう。

自分はときどき学生さんたちにこういう質問をします。

「なぜあなたは国際政治経済学(政治思想でも人類学でも何でもいいんですが)なんていう役に立たない学問を今勉強しているのか」

彼らの答えはだいたい同じです。

「だってやらないとならない。単位を取らないと卒業できない。卒業できないと大卒になれない。大卒にならないと仕事が見つからない」

そこで自分はさらにこう問います。

「なんで仕事なんて見つけないとならないんですか」

そうすると彼らは当然憤慨しながらこう答えます。

「だって、見つけないと飢え死にしちゃうじゃないか!」

そこで、同じような問いをマルクスの言うところの資本家にしてみましょう。

「あなたはなぜ労働者を搾取するんですか?」

彼らの答えも一様です。

「だって、そうしないと私の会社が倒産してしまう。家族ともども路頭に迷って飢え死にしちゃうじゃないか!」

同じような問いを労働者にしてみましょう。

「あなたはなぜ革命を起こすんですか?」

彼らの答えも一様です。

「だって、そうしないと家族ともども飢え死にしちゃうじゃないか!」

じゃあ、今度は政治家にこのように問うてみましょう。

「あなたはなぜ戦争をするんですか」

彼らの答えまた一様です。

「だって、そうしないと私たちの国が亡びるじゃないか!」

この世のなかには「やらないとならない」ことがたくさんありますね。だけどもどうしてなんでしょうか。それは究極には私たちが生命を維持し再生産したいからです。そのためには物質的な必要を満たさないとならない。私たちが「なぜそれをするか」と問われて「だってしないとならない」というときに、「だって自分は死にたくない、生きたい、生きて生命を子々孫々に繋ぎたい」、こう言っていることになります。

この物質的必要を満たす行為がすべての歴史的変化の基礎である。これがマルクスの史的唯物論の主張です。まだ信じないという人がいれば、自分の毎日をふり返ってみてください。私たちのやることのほとんどは、「やらないとならない」からやるものです。なぜ「やらないとならない」かというと、生きたいためです。子を残さずに死にたくないからです。

私たちはみんな人間ですから、だいたい同じ物質的必要を感じます。だけども、社会分業においてどのような位置を占めるかによって、異なる社会階級に属することになります。生産手段を保有していれば資本家です。保有していなければ労働者です。

資本家であれば、労働者を搾取して資本を蓄積し「なければなり」ません。労働者であれば革命を起こして生産手段を奪い返さ「なければなり」ません。だから資本主義の興隆もその崩壊も、人間の物質的必要を満たす必要から生じます。戦争もまたそうです。

この物質的必要を満たそうとする努力が人間の歴史全体において最も重要なものであり、これを考慮に入れずには歴史上の出来事を説明することも理解することもできない。それは私たちがどのように物質的必要を満たしているかを考慮に入れずには、私たちの生活も人生も理解できないのとパラレルです。

これでもう少しマルクス主義の言いたいことを理解してもらえたでしょうか。

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コーヒー一杯ごちそうしてくれれば、生きていく糧になりそうな話をしてくれる。そういう人間にわたしはなりたい。とくにコーヒー飲みたくなったときには。