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寒空が何も言わないのは

寒空が何も言わないのは、貴方と過ごしたあの冬が、もうずっと前のことだからです。

寒空が何も言わないのは、もう貴方と悲しくなったりどこかに逃げ出したくなったりしないからです。

貴方の背中を思い出して、クスッと笑うだけ。

思い出になってしまった事を、恨んでくれたらいいなあ。

優しいだけがつまらないなんて、私はよく言ったもので。貴方に傷つけられた部分だけが、本当のさいわいの匂いがするの。

平和ボケしたマゾヒストなのね。貴方は私のつけた傷を、どう捉えているのだろう。

空を見ては心が刺すような気持ちで居てくれていますか。寒さだけじゃない何かが、するどく抉って不快でいますか。

きっとそんなことは無いのでしょう。きっと貴方の寒空も、きっと私の顔をしてはくれない。

そっちの方が悲しいのよ。私は私として生きていくけれど、貴方は貴方のままでいるのがたまらなく嫌なの。

そんな私はもうとっくに、貴方と出会う前の私で居られていなくて、貴方が居ない人生ですら、貴方が居なかったことなんて無い。

私の中に貴方の居場所がある。だから貴方の中に、私を一番不愉快な特等席に座らせていて欲しい。

結局寒空が何も言わないのは、私がまだとんでもなく煩い心の中に居るからなのね。

思い出にすらならなくなって、貴方がつけてくれた傷も分からなくなったら、

その時はきっと、新しい誰かを私は思い出すの。

こんな寒くてどうしようもしたくない今日みたいな日に、貴方以外を思い出すの。

悲しい、悲しいわね。新しい出会いなんて無くなってしまえばいい。貴方も私も、ずっと繋がっていればいい。

そう思ったから結ばれたのよね。そう思ったから、そこから離れたのよね。

永遠は呪い。

それでも時間は過ぎる。

貴方はきっと、新しい誰かと幸せになるのね。

寒空が何も言わないのは、貴方と過ごしたあの冬が、ずっと前のことだから。


最低なことして最高になろうよ