乾いた人生があった
夜の中をひとり歩いていると、出会いたくもないものに出会う。空気はじっとりと重くて、熱帯夜なんてけったいな名前がついている。
愛を振り撒いてた男に、私は何もしなかった。傲慢に隣で微笑んで、知らんぷりしたのだ。好意も、行為も、強引に。
その見返りがこちら、本日の孤独。
急な豪雨に見舞われたサラダに、着信拒否53件のスープ。彼らが私と住むはずだった賃貸マンションの広告がメインディッシュ。デザートには詭弁。
もう誰も居ないな、つまらない人生だ。そう思いながら私の人生はただ黙々と進む、仕事をする手が進む。
有難いほど通知欄がすっからかん、誰も私を愛していない証拠がズラっと並んでいる。
そんな夜を歩くにつれ、寂しさなんだか気だるさなんだか心情はずっしりと重い。きっとこれは誰かの思い。
朝日は上りたがらないで地続きの夜を重ねる。
肌の色は形容し難い色になるのは月の向こうの太陽のせいだ。誰かが私に恋焦がれたせいならいいのに。
誰かひとりでも、私も愛せたら良かったのに。
人を愛することがこんなにも難しいのは自分のせい、そんなことはよく分かってる。
彼らの愛が無償であればいいのにと願っては、なるべく知らんぷりをした。だって有限なんだもの。私のこと、きっといつか好きじゃなくなる。
そんなもの怖くて要らなかった。有限なのを隠して耳元で囁くことが、許せなかった。だからいいの。
無償の愛は存在しないから、要らないの。貴方の好意も、私の好意も、全部、恥から恥まで必要ない。
嫌という程じめったい私に蓋をしたら、乾いた人生だけが残った。唇の皮が剥けるほど、冷房をつけすぎた夏の部屋だ。
熱帯夜なんてけったいな名前。怖くて窓を閉め切って、快適な暮らしを望んだ罰みたいな暑さ。
そんなの、眠る時くらい知らずにいたいじゃない。
急にふと、君を抱いた夏の気温を思い出して噎せた。
最低なことして最高になろうよ