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「少子化対策」は必要ない◇大増税時代の予算配分を考える

基礎的な内容はこちらの記事にまとめてあるので、重複する内容は以下で省いていることもあります。

◆日本は緩やかな人口減少が望ましい

経済は外貨収入(貿易)によるところが大きく、現在では為替も重要です。高度経済成長時は、輸出品を製造するために労働人口が必要でしたが、バブル崩壊後に主要な製造拠点を海外に移してしまったので、もう経済と人口数は直接的な関係にありません。
むしろ輸入依存が強く人口過多の日本では、多子化や外国人労働者は、賃金水準を下げたり、デフレ、増税の原因になります。
パイのサイズは大きくならないのに、分ける人数は増えるからです。

日本では労働者が増えても輸出は増えないので、人口数が多いと輸入負担が増して貧しくなっていきます。

令和5年1月中 国際収支状況(速報)の概要 財務省

貿易収支(青斜棒)はかなり落ち込んでいます。
経常収支(黒線)をみても、第一次所得(黄棒)で持っている状況です。
第一次所得は、海外投資の金利などで儲けた利益のことです。

長期的には持ちこたえているように見えますが、利益率が下がっているのを投資額を増やして(増税で)カバーしているため、第一次所得が増えても国民は豊かになりません。

分かりやすく例えると、100円投資して10円の利益があったのが、今は1円しかないので、投資額を1000円に増やして「利益は10円のままで変わらないから心配するな」と国は国民に説明しているという状況です。
でも、投資額を10倍に増やした原資は税金なので、国民が10人だとしたら、元はひとり10円を徴税され1円を再配分されていたのが、今は100円を徴税されて1円しか返ってきていないことになります。


■ 日本の課題は「自給率の低さ」

主要国の一次エネルギー自給率比較(2019年)
農林水産省

日本は生活資源の少ない国で、自給率から推算する適正人口は6000万人、9000万人を超えると問題が出てきますが、現在は1.2億人います。

日本は先進国の中では自給率が極めて低い国です。
資源がないから単価の高い工業製品を売って経済基板を作ってきました。
現在でも輸出の6割は工業製品ですが、規模が縮小しています。
製造拠点を海外に移したことで電化製品のシェアを失ってしまったのが響いていて、実質的に輸送用機器(自動車など)頼みの状態です。

インバウンドは輸入依存も強めるので、他国と事情が違う日本で効率良く外貨収入を増やすのは簡単ではありません。
輸入(支出)を削減しなければいけませんが、既に日本は国内の食料需給に対して国内生産量では賄えなくなっていると言われています。

たとえばフランスは日本ほどではないにせよ自給率は低めです。
国土面積は日本よりやや広いくらいですが、人口は6000万人で日本の半分。
日本と国土面積が近い他の欧州国でも人口は日本の1割ほどです。
日本は国土面積に対しても、資源量からいっても、人口数が多すぎます。

そのため日本の場合は、支出を抑えるためにも緩やかな人口減少が望ましいとされてきました。
ただ、一気に減りすぎるとバランスが崩れるので、スピード調整の難しさが課題でしたが、結果的に程々のスピードで人口減少しています。
良い傾向にあるので、いま私達がすべきはこのペースを乱さないことです。


■ 緩やかな人口減少

合計特殊出生率と日本人人口 前年比@てこ

合計特殊出生率と人口の前年比推移をみると、1965年丙午の前後で乱れる以外は、わりと一定範囲で推移していることが分かります。
出生数が減る分だけ生存率も上がっているため(長寿化)、緩やかな人口増減になっています。

人口推移@てこ

「若い人が増えた方が良いのでは?」
という意見もあるでしょうが、日本は人口過多なので、国民は労働者というより消費者としての役割が強いため、年齢分布はあまり関係ありません。
ビジネスモデルの問題です。

90歳まで生きるとしたら、現在40歳の人はあと50年間も生きます。
若者だけに未来があるわけではありませんが、社会はまだ若者を通してしか未来を語れません。それはそれで古い感覚のような気がします。

現在は、若いうちに自由の少ない労働生活を送り、晩年になってからは孤独になって病気を患いやすくなるという社会システムになっています。
各世帯で世代間役割が成立していた時代には、生活負担も孤独も分散できていましたが、核家族化した現代では個人も人手不足を感じています。

世代で役割を区切るから生じる問題なので、欧州のように月・年単位で労働量を決めて、緩く長く仕事を続けていく方が良いのかもしれません。
半年働いて2か月休むとか、先に提案した「ハーフタイム労働の導入」のように、毎日フルで働かない選択肢があっても良いのではないかと思います。
若者も高齢者も、みんなが同程度働き、同程度休める社会です。

現在の出生数が少ないというより、「団塊世代」「団塊ジュニア世代」の出生数が多かったといえますが、「高齢化問題」はベビーブームで生まれた子が高齢者になって起こっている問題なので、多産化すると問題を先送りするか悪化させます。

人口数が減っていくとどうなるかというと、国民幸福度の高い欧州国くらいの人口バランス(年齢分布)になります。
ここで無理に人口・労働者を増やさなければ、団塊ジュニア世代がいなくなる頃には、人口バランスが改善されて暮らしやすくなる基盤ができます。


■「高齢化」と「少子化」は別問題

出産・子育て支援などの支出は原資がないため、多産化すると歳出面でも負担が重くなります。

「少子高齢化」はまとめて語られることも多いですが、高齢化は高齢者の人数が増えることなので「誰が介護をするのか」という問題が発生します。
でも、少子化は子どもの人数が減るので、保育士不足を解消できたり、保育所などの増設・維持に対する国庫負担を軽減できます。
高齢化と少子化は、社会保障面からいえば真逆の問題であり、支出が減る少子化は歓迎されてもおかしくありません。

真逆である理由は、少子化は「将来の消費者・納税者の減少」という経済課題であり、社会福祉の問題ではないからです。
少子化という経済問題を、国は社会保障を充実させることで(少子化対策)解決しようとしていることに大きな問題があります。

ちなみに、今でも労働者は6000万人いて、介護士は200万人くらいです。
これまで労働人口は十分にいましたが、人手不足と言われてきました。
人手不足の原因は人口数ではなく労働の仕組みにあるということです。
多少人口が減っても、福祉分野の労働人口以下にはならないので、福祉職を担わせるために子どもを増やす必要はありません。
どこに人を配置するかという問題なので、労働改革が急務です。

未来予測2040

リクルートワークス研究所は、2040年に1100万人の労働者不足になると推算していますが、原因は経済成長の鈍化と地方の過疎化です。
都内で起こる問題ではないというのがシュミレーション結果です。
対策として、やはり柔軟な働き方や自動化をあげています。

どちらも根源には既得権益によって地方創生が進まないことが原因としてあり、何十年も前から求められている改革が遅れていることの結果です。
未来予測2040でも指摘がありますが、出生数や外国人労働者を増やせば解決する問題ではありません。
出生数を増やしても成長すれば都心に出てしまいますし、外国人タウンができれば地域ごと外資に買収されます。参入と買収は大きく違います。
高齢化などは一時的に発生する問題なので、人を増やすなど、後に負の遺産を残してしまうようなやり方は避けた方が無難です。

何かを背負わせるために生まれてくる人を増やすという発想自体が非人道的なので、そもそもあまり良い思考傾向ではないと思います。

少子化は経済問題だと説明しましたが、それも事実ではなく、そう考えている層がいるだけです。それは消費者や納税者を増やしたい層(政治家・行政・経営者・投資家など)で、国民が貧しくなっても消費者を増やして利益を維持したいというのが意図であり、せいぜい格差拡大によってこの層の景気が良くなるだけです。

「消費者が減少すれば不景気になるのでは?」
「将来の納税者を確保するために少子化を解消すべきでは?」
という意見をよく見かけますが、景気は格差が生み出すものなので、内外での差額で儲けるなら良いですが、それなら日本の中で消費者を増やす必要がなく、内々で動くだけなら人口数にかかわらず再配分で十分です。
税収は税率によるところが大きいです。

一般会計税収の推移

令和3年までの決算額をみると、税収は過去最高になっています。
2014年に消費税が8%に増税され、2020年には10%に増税されたからです。税収は人口数よりも税率によって大きく変わります。

「少子化が進めば、それこそ増税されるのではないか」
と思うかもしれませんが、年収は人口数が少ない方が上がりやすいです。
国内循環するお金を頭割りする人数が減るというのもありますが、人口が多いと税金の種類が増えるため増税傾向になります。
税制度が複雑になるため、事務手数料も膨らみやすくなります。
人口が少なければシンプルな税制度を運用できます。

10人が10万円ずつ納税するのも、100人が1万円ずつ納税するのも税収は同じですが、バラ撒き&増税を続けると、結局は100人でも10万円を払うことになっていきます。

前者の所得税が2割なら各人の収入は50万円なので可処分所得は40万円、後者の所得税は1割でも収入は10万円なので可処分所得は9万円です。
物価が違うとしても、4倍以上に跳ね上がるまで前者の方が得です。
しかも、9万円では生活できないので、社会保障負担が上がります。
消費税などが増税されることで、9万円分の買い物もできなくなります。

損得問題で語ることを嫌う人もいますが、予算配分は人の命に直結します。
増税されても多くはインフラ整備を介した再配分になるため、大部分は組織や富裕層へまわります。
お金を余らせた富裕層は海外投資などを行って円を流出させるため、国内循環するお金が減り不景気になります。
増税で経済回復することはできず、むしろ貧困層は拡大します。


■ 出生数は「戻っている」

我が国人口の長期的な推移
出生数・出生率(人口千対)・合計特殊出生率・出生性比の年次推移 明治5年~令和元年

行政が少子化を語る時は、出生数がピークであった1947年(昭和22年)を出発点としたグラフをよく使いますが、長期推移をみると分かるように、現在の出生数は明治時代に近づいていて、適正値に戻る過程にあります。

歴史をみても、国が出生数をコントロールしようとするとろくなことにならないので、自然増減にあわせた社会体制を造っていく方が良いと思います。

少子化対策は本当に子供達(未来)のための政策なのか、という点もよく考えなくてはいけません。
子育てに対する協力を義務のように求めたり、支援のために増税をすれば、その負担は子供達が大人になった時にも背負わなければなりません。
子供を産まないと損をする条件付きの未来にしてしまいます。

「大人ファースト」なら、子供もいずれ成長して恩恵を受けられますが、「子供ファースト」だと成長することに希望がなくなります。
人生は大人として生きる時間の方が長いので、大人になった時に幸せを感じる社会でなければ国民の幸福度は上がり難いです。

また、こういった取り組みは以前からありますが、全く効果がありません。

「大人」というと「親」に、「女性の社会進出」は「子持ち女性」に話がすり替えられてしまいますが、本来は特定層を指すわけではありません。
子供の有無や年齢、性別を問わず、公平な社会保障や投資を受けられる社会が望ましく、少なくとも今は少子化対策に注ぎ込む時ではありません。


◆ 少子化対策は経済回復後で良い

基本的に少子化対策は必要ありませんが、リスクを負ってでも多子化したいというなら、エネルギー政策に目途がついてからの方が良いと思います。

前回の記事に書いたように、少子化の根本原因は産業構造の変化ですから、経済システムを修正せずに出生数だけをコントロールするのは難しいです。

すべてにおいて国債で帳尻合わせをすれば良いと考える人もいますが、国債は安全な買い手が減ると政策に組み込み難くなります。
これについては、「アベノミクス」「5か年計画」などの問題点とあわせて、記事を分けて説明したいと思います。

社会保障支出のような予算のカラクリは至る所にあり、国債も同じです。
毎年度の予算は国債整理基金が将来の償還金として積み立てに回していて、償還にあてられているわけではありません。


■ 自給率を上げるのが先

日本の場合、まずは自給率をあげなくてはいけません。
自給率が高ければ、輸入を減らせるはずなので、インバウンドによる外貨獲得も効率が良くなります。

でも国は、輸入量を維持するために、家畜の殺傷処分を促しています。
通常は、余った分を国が買い取って配給しますが、殺処分に助成金をあてています。

元農水省官僚は、バター不足の際に国内で乳牛を増やしたのが元凶で、国際社会と価格競争をさせるべきだと言っています。
時には競争が改善の特効薬になることもありますが、世界中がエネルギー高騰で苦しんでいるなか、輸入依存を強める案は納得し難いです。

農水省は輸入量についてWTOとの義務(カレント・アクセス)と説明していましたが、努力目標のようなものであり、日本政府の一存で、他国と比べても異例の全量輸入を行っているようです。

この項の冒頭で「輸入を減らせるはず」と書いたのは、輸入を減らすことはできますが、政府がしたがらないため結果的に出来ていないからです。


■ 国産品を最優先で保護すべき

国産も輸入も乳製品価格は上がっていますが、背景には飼料価格の高騰があります。酪農家に身を削らせる前に、なぜ農水省は国産飼料を増やしてこなかったのかという問題があります。
現在の飼料自給率は25%(濃厚飼料87%輸入)です。

牛乳乳製品の国内生産量、輸入量及び消費量の推移/農林水産省

乳製品の国内生産量は、1995年(平成7年)あたりから落ち始めています。
消費量は上がっているのに、その分を輸入で補っている状態です。
更に国内生産量を減らすために国は家畜を殺処分しろと言っています。

こういった傾向は、牛豚やエネルギーなどでも見られます。

国産と輸入原油供給量の推移/経済産業省 資源エネルギー庁
国産と輸入原油供給量の推移/経済産業省 資源エネルギー庁

現在では極度の輸入依存になってしまっています。

日本も災害の多い国なので、まったく輸入しないのも危険ですが、さすがに輸入に9割依存となると、危機感を持たない農水省に疑問を感じます。

日本の酪農にも課題はあります。
海外では乳用牛として役目を終えれば肉牛となりますが、日本は酪農家と肉牛農家が別れているため、オス牛が生まれると殺処分しているようです。
ただこれも農水省が仕組みを作ることで解決できる問題のように感じます。

お米も、小麦や大豆への生産転換を促しています。
田んぼの使用率を下げさせるやり方が正しいかは別として、日本人はお米よりも小麦をよく食べるようになっているため、シフト自体は需要の変化に伴ったものだと思います。
ただし、小麦の輸入量を減らす目的が前提になければ意味がありません。

飼料用米について、令和6年産 から一般品種の支援単価を段階的に引き下げるなどの見直しを実施。

令和5年度予算のポイント

予算の捕捉書きをみると、問題に対して取り組む姿勢を示しているようにも見えますが、実態は少し違います。
たとえば飼料用米は、米の減産を促しつつ家畜用の餌は増産させるという政府方針をとった際に支援を厚くしたので、それを削っていく方針です。
よく言えば調整ですが、農業や畜産などはシフトする際に投資をしていますが、補助金は投資額の半分程度であるため、短期間で二転三転すると大赤字になります。
補助金や支援単価などが個別制度で運営されているなど、参入業者の方で微調整がしにくい仕組みになっているのなら改善した方が良いと思います。


◆ 予算配分は正しいのか

2023年4月に発足するこども家庭庁、一般会計で1兆4657億円、特別会計も含めると4兆8104億円が計上されました。

NHK「子ども・子育て支援の充実」

国は少子化対策(子育て支援など)に約5兆円の予算を組んでいます。

「経済成長につながる予算」は合計5000億円程度とされ、内「航空各社への支援/500億円」(なぜか引き続き収入減を補償)です。

子育て支援の個別予算で大きいのは、「妊娠・子育て相談支援と10万円相当の経済支援」に割り当てた増額分370億円(+約1500億円)。
自治体が“創意工夫”して支援するための予算だそうで、以下抜粋です。

②大阪府大阪狭山市
面談へ確実につなげる観点から、妊娠届出の面談実施後に出産応援ギフト以外に「妊産婦タクシーチケット」を配布、妊娠8か月頃の面談実施後に「育児パッケージ」を配布
⑤山口県防府市
アンケート回答、面談予約や情報発信に母子手帳アプリ「母子モ」を活用。出産・子育て応援ギフト は市内の取扱店舗で利用できる「ほうふっ子出産・子育て応援クーポン券」を支給

出産・子育て応援交付金事業の特徴的な創意工夫の取組

当事者ではないので何ともいえませんが、これが10万円相当の経済支援?という印象です。国民の望む支援はこういうことなのでしょうか。

「35人学級化」「教科担任制」などに割り当てた増額分も201億円と大きめで、教員給与など1.5兆円とは別に「教員の働き方改革/91億円」の予算が組まれています。

エネルギー対策費は8540億円(+前年約2.5兆円)、食料安定供給関係費は1.3兆円、重要先端技術の研究開発は1.5兆円。
エネルギー対策費は殆どが脱炭素関連予算で、今後は更にGX経済移行債で1.6兆円を調達する予定です。
移行債は脱炭素用の借金ということになっていますが、使用目的を限定した環境債ではなく、多目的使用が可能な移行債であることに注意が必要です。
多くは次世代型原発(革新軽水炉など)の建設費にあてられる借金です。

出産・子育て支援は約5兆円ですが、エネルギー関連は無駄なものや予定を含めても3兆円くらいです。
脱炭素政策も問題があるので、エネルギー対策費が増えれば良いという話でもありませんが、現時点でこのバランスは正しいのでしょうか。
自給率改善やイノベーション予算・政策内容は、詳細をみると国民が求める内容とはかなりズレがあるように感じます。
出産・子育て支援の多くも、地方交付金に含まれるような内容であり、環境整備などにあてられるため直接個人を支援するものは少ない印象です。

少子化対策は必要ありませんし、行うとしてもこの内容で良いのか議論が必要ではないかと思います。どちらの面からみても、現在の少子化対策の大義は絵空事のように感じられます。


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