国債「60年償還ルール」延長論の問題からみる財政破綻と戦争への懸念
◆ 60年償還ルールとは?
政府が発行した長期国債を、60年かけて償還できるとした日本独自のルールです。減価償却の仕組みと同じで、年間1/60ずつ返済していきます。
■ なぜ60年なのか?
国の予算を国債で調達することは禁止されていますが例外規定があります。
第四条の但し書きで認められているのは「建設国債」です。
国の予算を借金で調達してはいけないけど、モノなどに対する投資を国債で行うなら良いという規定です。
生活費は借金ではなく稼いで調達しなければいけないが、住宅ローンならOKみたいな意味です。
公共施設の耐用年数を60年と見積もっているため、「建築国債」もそれにあわせているということですが、1951年の基準であり、1998年には鉄筋コンクリート造の耐用年数は47年に改正されています。
短縮することはできても、延長はできないということです。
一度許されると政府は必ず図に乗って多用するため、理屈の通らないことは認めない方が良いです。
◆ 延長論が出てきた理由と問題点
60年を80年に延長すれば、毎年の歳出を抑えられるという理屈のようです。
自民党の萩生田光一政調会長が、増税に変わる延長論として検討しているようですが、増税も延長も認めない方が良いです。
償還費の10倍の借換債を発行しているので、ひと月あたりの償還費が減っても国債残高は減りません。
将来負担が重くなるだけであり、他にも色々と問題があります。
①国債整理基金の問題
償還(元金の返済)は国債整理基金を通して行われるので、償還にあてるためのお金は、一般会計から国債整理基金に入りますが、足りなければ一般会計から補てんするという仕組みになっています。
一般会計から補てんするなら、一般会計から必要な償還費を出せば済むので、国債整理基金に一旦お金をいれる必要がありません。
国債整理基金に入るお金は、定率繰入という方式をとっています。
国債残高に対して「1.6%」をかけた額が繰り入れされます。
年々国債残高が減っていくとしたら、1.6%にあたる金額は少なくなっていくので、繰り入れ金だけでは期間内に返済できません。
最初から一般会計で償還するつもりで、不自然に国債整理基金に一旦いれているということです。
そのうえで、歳出の倍額の新規国債を歳入にいれているので、国債残高が増えていくことはあっても減らすのは難しいです。
1.6%では償還額の一部しか返還できませんが、国債残高分が増え続けることで国債整理基金に入るお金は増えていきます。
国債整理基金の繰入金は、将来の償還費として積み立てられるため、実質的に国家予算として使えないお金になります。
そのぶん税収が減っているのと同じです。
予算が足りないから増税すると言っているのに、使えないお金を増やしていくというのは矛盾しています。
②60年償還ルールの拡大適応の問題
60年間という期間を見直すなら短縮する方が整合性はとれますが、それ以上に問題なのは「建設国債」にだけ適応されるはずのルールが「特別国債」にも適応されていることです。
国債で調達している予算(新規国債)の8割が「特別国債」です。
これは都度必要に応じて制定されている特例公債法によって発行が認められる赤字国債ですが、毎年の財源として組み込まれています。
第五条の但し書きにある「特別の事由」にはあたらす、第四条の但し書き「公共事業費、出資金及び貸付金の財源」にもあたりません。
復興債は別にあるため、それ以外の緊急性がある支出が対象で、どうしても税収では足りない場合に発行が可能という性質のものですが、通常の財源化しているうえ、60年償還ルールまで適応されています。
③海外保有比率の問題
安倍政権以降、「異次元の金融緩和」を行っていますが、日銀は国から国債を買うことはできないので、民間を介して満期の国債を短期の「割引国債」に借り換えています。
「割引国債」は先に利子分が割引されているので、満期時に元金のみが返還されます。
日銀は、満期の国債を満期1年以内の「国庫短期証券」に借り換えて、また新たに国債を買うということを繰り返しているため、日銀が国債を買い続ける限り、利子分の支出は発生せず、国庫予算を自転車操業で無限に調達できるようになっています。
では日銀が買い続ければ問題はないかというと、そうとも言い切れません。
同時に海外保有比率が上がっていて、10年間で倍ほどになっています。
この3年間の時世時世もあって多少は抑制され、2021年の8%をピークに現在は7%台で前後しています(短期含めると13%)。
上限を20%としてもまだ余裕があると解釈されていますが、一度崩れるとあっという間に上限がなくなる可能性もあります。
「日銀乗換」は、日銀が「借換債」を引き受けることで成立していますが、海外の投資家はそこまで協力的ではありません。
昨年、欧米は急激なインフレを抑えようと金利を上げました。
日本は、ゼロ金利政策のもと日銀が市場に介入して金利を0.25%になるように調整してきましたが、海外投資家が一気に円を売り始めました。
金利が1%あがるだけでも評価損は28兆円になりますが、日銀の準備金等は11兆円しかありません。
金利をあげなければ空売りが止まらないので、0.5%を許容範囲として事実上の利上げを行いましたが、断続的な売りが続いています。
かといって金利をそれ以上あげれば財政破綻もあり得ます。
④その先にある戦争とインフレの問題
第二次世界大戦時、国は日銀に国債を大量発行させて軍事拡大し、インフレを招きました。
その失敗を教訓に、日銀と国の直接的な売買が禁止されています。
ところが昭和後期になると、財政制度審議会は「高齢化と社会変化に対応するために財源が必要」として、「60年償還ルール」を「特別国債」にも適応すべきだと主張を始めました。
今では当たり前になっている消費税ですが、平成元年から導入されたわりあい新しい税で、当初の導入目的は赤字財源を減らすことでした。
消費税導入と「60年償還ルール」の適応もあってか、平成初期の3年間は赤字国債依存を解消できましたが、財政制度審議会は「国債残高が減るまで続けるべきだ」と主張し、禁じ手の「借換債」まで可能にしてしまいました。
それまで「特別国債」は現金償還のみだったので、発行しすぎても償還できませんから、赤字国債を抑制することができていました。
でも、財政制度審議会が「60年償還ルール」と「借換債」を適応してしまったことで、大量発行を止める装置がなくなってしまいました。
それ以降は案の定、国債残高はどんどん増えていきました。
国債残高を減らすための適応、将来に赤字を残さないための消費税導入であったはずですが、結果的に今の債務残高にまで膨れ上がっています。
元凶は、財政制度審議会が数字上の予算を増やすことに終始したことです。
経済の基本は貿易収支です。
先行きが不安なら、外貨収入を増やす政策に投資しなければいけません。
実態が伴わない金融政策でも、副次的な支えにはなりますが、貿易経済のうえで成り立つもので、単独では意味を成しません。
お金はモノを売買するためのものなので、売買するものが無くなると価値がなくなってしまいます。
政治家や役人が金融政策による錬金術に目を眩ませている間に、日本は生産力の低い輸入依存の強い国になってしまいました。
禁じ手を使っても、消費税を導入しても、増税しても、借金は増えるばかりで、やっていることは戦時中と同じです。
問題なのは「まるで戦時中」という感覚が感傷表現ではないことです。
グラフの赤いラインが日本の政府債務残高です。
国債に対して政府が手をいれ、消費税を導入した1989年以降からどんどん債務残高は増えていて、過去にこの水準なのは第二次世界大戦時です。
戦時中はどこの国でも債務が増えますが、現在はそれすら超えています。
戦争だけでなく、オイルショック(1970年代)やリーマンショック(2008年)、経済危機などが起これば財源調達のために国債が発行されますが、特に2000年(平成12年)以降は直接的な増加原因ではなさそうです。
国は昭和時代から「高齢化社会」への対策として、国債ルールを変えたり、消費税導入、増税などを繰り返してきましたが、団塊世代(1947~1949年生まれ)の退社時期である2012~2019年(退社年齢を65~70歳とした場合)の前から債務残高は増え始めています。
2011年の東日本大震災よりも前から増加傾向に転じています。
時期的に直接的な原因は「バブル経済の崩壊」です。
バブル後の不景気は、投資や政策の失敗によって生じたものです。
これを期に、国民の反対を押し切って国産企業が製造拠点を海外に移転しましたが、その結果、日本経済の2本柱のひとつであった電化製品の国際市場を失いました(もうひとつは自動車)。
そういった国・経済界・投資家らの失敗を「社会保障問題」にすり替えて、財政悪化させている状態が続いているということです。
それを可能にしているのは、バラ蒔きを歓迎する国民でもあります。
危惧する要素は多々ありますが、目下の注意は防衛費拡大です。
防衛費のために「60年償還ルール」の延長論まで出てくると、さすがに戦時中の軍事拡充とは目的が違うという言い訳もできないと思います。
よろしければサポート宜しくお願いします。励みになります。