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「いい意味で〇〇」の鼻につくポジティブ感


「いい意味で〇〇」という言い回しは、日常生活で非常に使い勝手の良い言葉である。

若干回りくどい印象は与えるものの、〇〇に「いい」とは対極的な意味合いを持つ言葉を当てはめることでその言葉を簡単にポジティブに変換することができる。

例をあげるとラストでどんでん返しがあった映画を観た後の「いい意味で裏切られたね」とか、天才的な能力の持ち主に対して「いい意味で変態だね」と褒めるのが正しい用途であり、かなり汎用性も高い。


今日の朝、私の家にはいい意味でまともな食糧がなかったので、いい意味でご飯に塩をかけただけの物体を食べたのだが、このように「いい意味」をマイナスイメージを持つ言葉の前につけてあげるだけで、あたかも私が最高の朝のスタートを切ったかのような印象を受けるのだ。


すごい、魔法の言葉である。〇〇にどんなネガティブな言葉を入れてもポジティブな意味合いに解釈することができるのである。

例えば、

「いい意味で口が臭い」

なんてどうだろう。

餃子を食べたのかニンニクを食べたのか、コーヒーを飲んだ後の口臭なのか、この世に生を受けて以来歯を磨いたことがないという特異な人間なのか、とりあえずお前の口が臭い。でも円滑な人間関係を構築する上で、あなたの口が臭いですよ、とは決して言えない。そんな時は「いい意味」を付けてあげればいい。


相手方の拡大解釈の拡大ぶりによっては、シトラスの香りやシナモンの香り、より調子に乗った場合は「ははん、俺の口臭はカモミール・ジャーマンやローズ・アブソリュートの香りなんだな」となる。褒められたと勘違いして気分が良くなったそいつは「お茶でもしない?コーヒー奢るよ」と言ってくるだろうし、完全にそいつの口臭の深みを増すイベントの緊急発生ではあるが、人の金で飲むコーヒーは旨いので良しとする。


そこまでいかなくても、「あぁ、なんか独特の香りで万人受けはしないかもしれないけど自分はその匂い好きだぜっていうアピールね」という前向きな解釈をされて、あなたと会う前には必ず王将で餃子を食べ、八百屋でニンニクをかじってから来るようになる。とても強固な信頼関係を構築できて、そいつはあなたが困ったときにはいつでも助けてくれるようになるだろう。必ず口は臭いけれど。


まさしく魔法の言葉。一切の死角なし。


では、これはどうだろう。

「昨日さ、家にさ、いい意味でゴキブリが出たんだわ」

間違いなく、聞き手は「ああたしかに、ゴキブリって益虫だもんね」となる。なんなら「それは君に幸運がおとずれる前兆だね」まで言うかもしれない。言っている自分も「ああああああ、なんで今まで出てこなかったんだ!!」ぐらいのボルテージに達して、家中のホイホイを窓からポイポイ投げ捨てる。聞き手が「自分もなるはやで出したいな」と言って来たら、「部屋を汚くしておけばいいよ」ってアドバイスをサラリと贈る。

もし、あなたに話術があれば「ゴキブリが元々住んでるところに引っ越せばいいんじゃない」という着地点まで誘導し、2人で不動産巡りをして絆を深めればよい。


そうなんです。このnoteっていい意味で無益なnoteですよね。

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