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【連載小説】夏の恋☀️1991 シークレット・オブ・マイ・ライフ㊻

 起きて。

 元気になっていた。咳と痰はでるけど、洟水も。おれはとりま、部活に行くことにした。妹に小遣い(20円)を渡し、ファミマでハンバーガーと冷やし中華を買いにやらせた。それをたべた。自転車に乗って、学校に行った。

 朝もはやくから、グラウンドには阿保みたいに人がたくさんいる。ほかにやることないのかねえ、折角の夏休みなのに、と思う。オナブ(同じ部活)の人たちも結構いるので、きょうは正二十一角対称面に並び、練習をした。

「いくぞ」「おう」「はい」「ほいっと」「はいつぎ」「そらよ」「さて」「さてやさてや」「おらよ」「はい、おぎー」「よっちゃ」「ほいほい」「うんとこ、さ」「どっこいしょ」「さー」「ゆいゆい」「せいっ」「あーりらん」「さーりらん」「どっこい」「いきてる」「てんてん」「てんか、ない」「いなかっぺ」

 ひと三にん増えてね?みたいな。病み上がりなので中々本調子とはいかないが、病み上がりにしては悪くなかった。来月の次、再来月のその次の月には新人戦がある。楽しみ。そう。部員としてのおれは、じつは結構もう回復していたのである。色々な自分というのがいる。別に桃子がいなくても、平気なおれはいるんだな、と。

 体を動かすのは、やっぱいいと思う。健全な肉体でないと、結局3Pとか4Pとかもできないし、たぶん。なにが、桃子だよ。女なぞ、それこそ星座の、座の、その座と同じ数だけいるものだ。普通にかんがえれば分かること。アディオス、桃子。とおれはひとりでに、もう済ましたような気にさえなって、別にもうどうでもいいかと感じたのである。

 青春の汗をながして、グラウンドの周りにある植え込みに横になった。夏の雲。島の雲は近い。うごいている。

 色即是空ということばはきらいだ。むかしから。そんなの、当たり前じゃん。言われなくても分かってます、と思う。いちいち言うなよ。しかし、それにつづく、空即是色ということばはおもしろい。まず、どういう意味かよくわからない。そこが魅力。どういう意味?とむかしから思ってる。

 雲がうごく。雲というのは不動の逆の性質をもっており、とどまるためしがない。つねに変化している。ひとくちに雲といって、入道雲とか鰯雲とか雨雲、はるがすみ、積乱雲などというが、一瞬として同じではないので、どれがどの雲なのか、確定のしようがない。

 うごくものなので、形をさまざまに変えつつ、印象としては人体内に固定されてゆく。雲はやっぱり、桃子になるわけだな。そうなんだよなあ。

 桃子、と思う。そうなる。

「よ、」

 といって頭上に桃子がにゅっと顔をのぞかせる。

 空即是色。


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本稿つづく 

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