消えた伯父さん_20230904
父の兄、いわゆる伯父さんが十数年失踪していた。
理由は分からないが、僕が生まれる前から失踪していることだけは知っていた。
父には兄妹がたくさんいて、末っ子だった故に兄弟とはあまり仲良くなかったらしく、父もどこにいるか詳しく知らなそうだった。
そんな中で、祖母だけはどこにいるか知っているようだった。(祖父は父の若い頃に亡くなっている。)
そんな伯父さんが、僕が大学生の頃に突然現れた。
祖母と実家で住んでいるとのことだった。
何で戻ってきたかは今でもよく分からない。
祖母の家、父の実家は東北の方にあるため、関東から遠く、なかなか行けない。
なので伯父さんには出現からしばらくしてから祖母の家で会った。
これが伯父さんとのファーストコンタクトである。
どう接したらいいか分からなすぎて、ろくに話すことはなかった。
てか話さなかった気がする。
得体がしれなすぎて、ちょっと怖かったのかも知れない。
その日は祖母の家で発掘した父の高校生の頃の生徒手帳を見つけて、ずっとそれを弟と見てた記憶がある。
生徒手帳には連絡ページみたいのがあって、そこには父が"自転車がパンクし遅刻"を何回も繰り返していたことが記録されていた。
1000%嘘だなと思った。
父はなぜか誇らしげだった。
………
祖母の家に行ってから、少し経ち、祖母が腰の骨を痛めた。
それが原因でみるみる弱り、そして亡くなった。
亡くなったのが、僕が大学を卒業して、入社する2日前だったため、どうしても葬式には出れなかったが、お別れはできそうだったので再び東北へ向かった。
あまり詳しく覚えていないが家族葬だったと思う。
斎場で納棺の儀式とやらに参加した。
納棺師の方が、幼い頃の記憶とは異なる姿の祖母に、着付けや化粧などの身支度をしてくれた。
不必要に祖母の肌をこちらに見せることなく、目の前で着付けを完了させたプロ技に驚いた記憶がある。
そのあとお坊さんが来た。
隙あらば葬儀費用の話をしてきたのを覚えている。邪念マシマシじゃんと思った。
儀式を終えた後、その日にやるべきことは特になかった。
合間合間に祖母の仲良かったご近所さんが何人か来て、話をしたりした。
東北の訛りが強すぎて正直何言ってるか分からなかったが、なんとか気合いで会話を成立させた。
直前にニューヨークに行っていたから、その経験が活きたのかも知れない。
ちなみにずっと関東圏に住んでいる母はプチパニックになっていた。
はじめて息子が誇らしいと思ってくれたかもしれない。
記憶が正しければ、ご近所さんの一人から昔お小遣いをもらったことがある。
その時の経験は、「何言ってるか分からなかったけど、なんか2000円もらった経験」として今でも胸に刻んでいる。
そんなこんなで夜を向え、斎場の睡眠スペースで寝た。
僕は気づかなかったが、その晩、伯父さんが尋常じゃないくらい泣いていたと母から聞いた。
自分のせいだと思ったらしい。
これに対しては何も言えない。
そして、朝を向え、僕は家族別れ、東北を一人で後にした。
………
その後、すぐに伯父さんは亡くなった。
これまた理由はよく分からない。
まだ60前くらいだったんじゃないかと思う。ただ、自死ではないのは確からしい。
結局、伯父さんが本当はどんな人間なのかは分からなかった。
なんで僕がロクに話したことのない伯父さんのことを思い出すのか、話したい。
それは僕と伯父さんがかなり似ている人間だったからだ。
伯父さんは大の映画好きで、某芸大に行ってたいたほどのエリートだったらしい。(残念ながら僕は頭が良くない)
その後、就職がうまくいかずで…みたいなよくあるストーリーだと聞いた記憶がある。
人付き合いがあまり上手くなかったのかもしれない。
でも本当にそうだったかは分からない。
祖母と伯父さんが亡くなり、祖母の家の取り壊しが決まった。
このタイミングで再度東北に戻ることになる。
最後に祖母の家に行った時、僕は伯父さんの部屋に入った。
映画のポスターがたくさん貼ってあった。
マジで僕と同じじゃんかと思った。
その後、色々と探検した後、祖母の家を後にした。
自分の育った家が解体される父の気分がどんなだったのかは想像もできない。
祖母の家はかなり古かった上、ぼっとん便所だったため、正直あまり好きではなかったが、そんな僕でも切ない気持ちになった。
それからは東北に行く機会もなく、もう何年も訪れていない。
………
伯父さんのことを思い出すことは稀だし、何度も書くがロクに話したことはないので、思いを馳せることもない。
ただ想像以上に似てる部分があったから、どんな人間だったのかは気になってしまう。
身内からは「伯父さんみたいになるなよ」みたいなことを言われた記憶があるが、本当にダメな人間だったのだろうか。
昔会った時に話せていれば、なにか分かり合えたのかしれないと思うと、少しやるせない気持ちになる。
伯父さんの分も生きるなんてことはしないが、たまに思い出して、天に状況を伝えたいと思う。
取り急ぎ、「未だにインディ・ジョーンズは冒険をしてる」ことを伝えておこう。
では、また。