ノンジャンル・マイベスト 2024
今年触れた色んな作品の中で良かったものを共有します。
必ずしも2024年リリースというわけではないです。
ちょっとずつ感想も挟むのでネタバレも含みます。
スコット・ピルグリム テイクス・オフ
カナダの漫画『Scott Pilgrim』のNetflixアニメ版。主題歌がなんとネクライトーキー。実写映画化もしていてその邦題は『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』で、このタイトルからどういう雰囲気なのかは察してもらえると思います(映画版とアニメ版でストーリーはかなり違うのですが)。
正直言ってクライマックスの盛り上がりに物足りなさを感じてはいるのですが、自分が見たいマジックリアリズムをドンピシャでやってくれたのでそれだけで大満足です。ラストのラモーナの台詞も優しくて好きだしね。
邦訳漫画が欲しい……絶版でプレミア価格なのが悲しい……。
ロボット・ドリームズ
孤独に一人暮らす主人公が通販のロボットを購入して友情をはぐくむ物語
予告編だけで何となく想像がついて「そういう感じね~……」と思いながらもEarth, Wind & FireのSeptemberが流れていたので観た。
観たら、「そういう感じ」をゆうに超えてきました。
どんな感動も過去になるし、1日の事件が364日の日常に埋もれていくのは不思議でもなんでもないという重み。
幼馴染やごく一部の親しい友人とばかり付き合ってばかりの自分が、果たしていつかの別れにこんな風に出来るかなと考えてしまいました。
Thisコミュニケーション
突如現れた謎の怪物『イペリット』によって滅びに瀕した世界で、食料を求めるうちに秘密の研究所に辿り着いた軍人デルウハ。そこでは不死身に改造された少女たちがイペリットと戦っており、デルウハは彼女らとともに戦うことを決める……
というのがあらすじですが、これだけでは到底説明にならない魅力にあふれる作品です。
合理と不運によって目くるめく展開をしていくストーリー、様々な別ジャンル(主にホラー)の典型を流用したコミカルな演出は興奮必至。特に46話を読んだ時は興奮おさまらず六内先生の過去の読切を漁って徹夜をして熱を出しました。
しかし何より自分は、この作品に通底する、コミュニケーションというものに対する深い愛憎にこそ惹かれます。
所詮虚構だという皮肉は全く正しく、しかしそれは目の前に対峙するあなた、言葉を積み重ねるまさに今この瞬間、そこにあるコミュニケーションの方がよほど強力なのだと。
対外秘
90年代初頭の韓国における議員選挙を舞台にした政治・クライム映画です。悪人伝の監督ですね。アクションはあちらのほうが好きでしたが、こちらは役者とキャラクターのハマり具合がたまりません。清濁併せ呑むを体現したかのような主人公ヘウンや狸の黒子らしい敵役スンテ、短慮なヤクザのピルドといった主役たちはもちろん、下衆な小物たちが良い味出してます。
小粒の汚職公務員ムン本部長のあの野心など持たず唯々諾々と安きに流れる顔つき、好きですね……。
ハンモ社長の先の見えない功利主義者っぷり、結局権力に縋る所も含めて好きですね……。
Sifu
カンフー!ひたすらカンフーです。ただカンフー。
2023年にSteamで配信された時に一度クリアまで楽しんだゲームではあるのですが、今年になって再熱。闘技場コンプ含めトロコンまでやりました。意識的にトロコンを目指したのはもしかしたら初めてかもというくらい楽しかったです。
ハイスピードかつ高難易度なソウルライクでありながら、攻撃から防御・防御から攻撃のキャンセルが易しく言い訳がききやすい。これによってソウルライクにありがちなただ難易度だけ上げて相手ばかり楽しそうという場面が少ないのが素晴らしい。ステージ制で戦闘だけに集中できるのも嬉しいところ(本家ダクソの探索も好きなのですが)。
同じ開発元が今度はサッカーゲームを作るとのこと。TPSアクションとしてのサッカーゲームを寡聞にして知らないのですが、ソウルライク的な近接格闘アクションにおける間合いやタイミングの取り方、立ち回りはサッカーとの相性がよさそうで今から楽しみです。
ファミレスを享受せよ
出ることのできない不思議なファミレスで悠久の時を過ごすゲーム。
2023年リリースですが今年プレイ。ゆったりとした時間とユーモラスな会話がとにかく心地よく、ずっとプレイしていたくなるゲームでした。
少しの表現でキャラクターやあの世界への愛着が増していくシナリオライティングの上手さが素晴らしい。
変に細かいところを例に挙げてしまうのですが、不思議なファミレスに何万年といてもまだ幽霊が怖いガラスパンが、ファミレスの奥まったほうにある部屋を指して「ツェネズの部屋の前とかも怖くてあまり近寄りたくないよ」と言うくだり。
ワンクリックで視点が移動していくゲーム内にもきちんと空間と光量があって、それぞれの視界があることを意識させられます。なんというか、上手くそう演出してやろうと狙ったかはわかりませんが、ゲーム画面に収まらない範囲まで想像が行き届いてないと出てこないセリフだなと感じて好きです。
未解決事件は終わらせないといけないから
引退済みの警官がある未解決事件について、様々な人の証言を思い出しながら記憶を結びなおすゲーム。
記憶の断片をつないでいくうちにいくつかの物語が浮かび上がっては少しずつ修正され、徐々に明瞭になっていく様をコンパクトでスマートなデザインに落とし込んだ名作。その物語については触れられませんが、最後に出てくるメッセージがやはり好きです。
ああいう優しいメッセージを発信しようという人がまず好きで、それに触れたくて色々な作品を鑑賞しているのかもしれない。
白・架・祝・幻(アイドルマスターシャイニーカラーズ)
幽谷霧子というアイドルのシナリオの一つです。ブライダルキャンペーンの撮影に際して、人と人が結ばれるように過去と今、今と未来を結びなおし、祝福する物語。詳しい感想は以下に書いているので省略します。
これの前の窓・送・巡・歌というシナリオでも思ったことですが、アイドルモノの宿命である成長と解決の少し外、ちょっとの気づき、その人の心のわずかな動き一つでこれだけ描けるよう積み重ねてきた霧子の豊かさがそもそも嬉しいですね。
批評について 芸術批評の哲学
批評家の大家ノエル・キャロルが著した批評入門本。作品ではないですね……。でも面白いので。
批評とはなんであるか、その要件とは、手段とは、丁寧に説明してくれるので参考になります。自分自身もろ手を挙げて賛同というわけではないものの、何かを議論するときの土台の一つとして読んでおいて損はないんじゃないかと思います。
というだけでなく、想定される反論とそれに対する反論をこれでもかというくらい列挙していくのが単純に面白く、なんというか、筆者の戦歴を感じます。そしてここで挙げられる反論たちは今のSNSのそれを指しているわけでもないのにどこかで見覚えのある感じ。オタク文化にある程度馴染んでる人たちはそれだけでも楽しめる本だと思います。
マリウポリの20日間
これまで挙げてきたものと同列に「良かった」と評するのは憚られるのですが、心を大きく動かされた映像であり、忘れられないことも応援の一環という意味で共有します。
自分自身、報道や各種国際政治学者をベースに多少情報は追っていてその悲惨さは承知していたはずなのですが、報道というどこか遠くの”情報”に感じさせるフィルターが外れた途端、戦車砲がこちらを向いているその恐ろしさが初めて自分の目に現れるように感じました。当然ながら街の作りは日本と違うものの、そこがなんてことのない生活の場であることは見て取れるわけで、そこが蹂躙される様に心が冷えます。
ここで詳しい情勢に触れることは避けますが、彼らが願う形で平和が訪れることを祈るばかりです。
以上、マイベストの共有でした。