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vol.36 気持ちを伝えるぽちぶくろ【手紙の助け舟】

こんにちは。
喫茶手紙寺分室、むらかみかずこです。
年末から冬らしい天気が続いています。今年のお正月はどのようにお過ごしでしたか。
お正月といえば、おせち料理、お雑煮、年賀状や箱根駅伝のほかに、お年玉もあげられますね。今回はそのお年玉にちなみ、ぽちぶくろについてお話ししてみます。


■ほんの気持ち、心づけ

ぽちぶくろは、いわゆるミニサイズのご祝儀袋のこと。折った紙幣や硬貨を入れて手渡すときに使います。「ぽち」には小さいもの、可愛らしいものという意味があるほか、ほんのわずか「これっぽち」という控えめな表現から、この名がついたと言われています。

ぽちぶくろのルーツは、明治時代、粋な遊び人たちがひいきの役者や芸者に心づけ(ご祝儀)を渡すときに使われた鼻紙(今でいうティッシュ)だとされています。鼻紙で包むから「おハナ」。歌舞伎の花道は、役者がひいき客から贈られる「ハナ」を受け取る場所であるから「花」道という名になりました。

時代はめぐり、令和に生きるわたしたちが心づけ(ご祝儀・おハナ)を渡す機会は決して多くありません。
さらに、欧米と違い、日本にはホテルやレストランでチップを渡す習慣がないため、わたしたち日本人はお金を手渡しするという行為にあまり慣れていませんね。

心づけやチップは堂々と気前よく渡すのが「粋」だと思うのですが、慣れていないがゆえに、なんとなく遠慮して戸惑い、渡すタイミングを逸してしまうこともあります。

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■照れを<遊び>に変える心づかい

ぽちぶくろは、このお金を渡すときの遠慮や戸惑いを隠すためにも使われました。
どういうことかというと、その袋のデザインに趣向を凝らし、中身(お金)以上にデザインを楽しみ、渡す相手に喜んでもらうという<遊び>を加え、照れ隠しとしたのです。
しかも、できるだけサイズを小さくして、奥ゆかしく、それでいて個性やセンスが発揮されるようデザインのバリエーションに工夫を持たせ……。

なんとまぁ、日本人ならではの美意識の高さがうかがえますね。
その証拠に、言葉の面においては、お札をむきだしのまま渡す際に、
「裸ですみません」
「裸のまま失礼します」

という日本語ならではのへりくだった表現も残っています。

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掲載写真はすべて「古書籍・版画 大書堂」(京都市中京区)で許可を得て撮影したものです。ネット掲載も許可をいただきました。
ガラスケース越しにシャッターを切ったため少し見づらいですが、歌舞伎の役者絵、木版刷り、裸女、鶴のデザインなど、どれも目を見張りますね。

■ぽちぶくろ使いの達人に

ぽちぶくろは、借りたお金を返すときにも使えます。たとえば、仲間と乗り合わせたときのタクシー代や、飲み会で千円札の持ち合わせがなく誰かに立て替えてもらったとき、洒落たぽちぶくろに入れて返すと、「ごめんね」の気持ちが「うわ、すてき!」という驚きや喜びに変わりそうです。

わたしは先日、友人にマンションの合鍵を預けるときに使いました。(注:いわゆる女友だち。鍵を失くしたとき、部屋に入れないと困りますので、ね。)

なかなか出番がなさそうに思えるぽちぶくろですが、弊協会(一般社団法人手紙文化振興協会)の講師のなかには、カバンにポストカードや切手と合わせてぽちぶくろを忍ばせ、外出時のちょっとしたとき、手書きで「〇〇様」「感謝」「ありがとう」などとしたためてから渡す達人もいます。

みなさんも、どうぞお気に入りのぽちぶくろを見つけ、使いこなしてみてはいかがでしょう?
きっと「できるな」「行き届いているな」と感心され、一目置かれる人になるはずです。


参考書籍『貴道裕子のぽちぶくろ』(スーパーエディション刊)

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むらかみかずこ | 喫茶手紙寺分室 note ライター
一般社団法人手紙文化振興協会 代表理事
歌とお酒とワンコ好き。京都在住。
夢は2030年までにイタリアにオペラ留学すること。
むらかみかずこの手紙時間ブログ 


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