#02 韓国のカフェをめぐった時のこと 前編 【喫茶 手紙寺分室ができるまで】
こんにちは。手紙寺発起人の井上です。
みなさんは韓国を訪れたことがありますか?
韓国といえば、焼肉や買い物、近年では音楽やファッションが若い人を中心に人気があります。
実は韓国は「カフェ先進国」とも言われていることをご存知でしょうか。
喫茶 手紙寺分室を作る上で、韓国で体験したカフェのあり方は大きな参考になりそうです。
そこで何回かに分けて、韓国のカフェについて私が感じたことを書いてみようと思います。
私が最初に韓国を訪れたのは今から20年ほど前でした。ソウルで働く友人が就業時間を終えるまでの間、近くのカフェで待つことにしました。
東京では当時、街の中心から独立系のカフェを見かけることが少なくなり、すでにファーストフード系のカフェが全盛でした。
私もマクドナルドやファーストキッチン、少しゆっくりしたい時にはウエンディーズのようにカフェを使い分けていました。
同じ時期のソウルには独立系のカフェが多く、店主の趣向を凝らしたカフェは、滞在するだけでとても新鮮でした。
特に私は韓国語が全く分からないので、隣の話声もBGMのようで気にならず、自分の世界に入ることができました。
知らない土地のカフェという非日常空間に身を置くことで、日頃は忙しく忘れがちなことを考える時間を取ることができました。
私は亡くなった父に手紙を通して対話をすることがあるのですが、韓国のカフェでは自分自身に手紙を書いて日常の自分を省みたり、未来のことを考え続けていました。
考えが行き詰まったときには便箋と筆記用具をリュックに入れてお店を出て、数時間歩きながら考え、素敵なカフェが見つかればまた数時間滞在
することを繰り返していました。
そのときに偶然入ったソウル郊外の公園に面したカフェのテラス席がとても素敵で、今でも探しているのですが、もうたどり着くことができずにおります。
人の気配が作る、柔らかい空気。
時代が飛びますが、2019年に「手紙寺カフェ」という名前で銀座にカフェを開く予定がありました。その見学を兼ねて久しぶりに韓国のカフェを訪ねました。
今回は事前に韓国の友人に現在の韓国カフェ事情を尋ねてから訪れました。
ソウルの中心部は不動産の急激な高騰により独立系のカフェが減り、新たなに家賃の安い倉庫街や、アクセスがいいとは言えない町外れの商店街で新たにカフェ街が生まれつつあることが分かりました。
実際に倉庫街のカフェを訪れてみると、もう使わなくなった倉庫や工場などを活用した物件なのですが、いわゆるリフォームをあまりせずに廃墟のような状態をそのまま活かした作りのカフェが目立ちました。
店内はリノベーションしすぎない、コンクリートがむき出しのインダストリアルな雰囲気で、日本で人気のきらびやかなカフェとはまったく違うおしゃれさがありました。しかし、不思議と落ち着きを感じられる空気があり、だれもがゆったりとそこでの時間をすごしていました。
初めは、そのお店の無造作感に戸惑いましたが、穏やかな店内は本当に居心地が良く、すっかり気に入ってしまいました。
この空気は、いったいどのように生まれたのでしょうか。
それはきっと限られた予算でお店をつくりたいという願いと、古くからある建物をうまく活用して、残していこうというオーナーの想いが生んでいるのだと思います。
古い建物は、もちろん経年劣化による汚れや使いにくさもありますが、新築には作り出すことのできない"人の気配"というものがあるように感じます。
以前は、そこで人が働いていた。同じように椅子に腰掛けて、窓の外を眺めていた。その気配が、意識的に作ることのできない温かく穏やかな空気を作っているのではないでしょうか。
なによりも、その空気を残そうとするオーナーの想いが、お店の温かさや優しさにつながっていると思います。
ここはソウルの中心地、江南からタクシーで15分ほどなのですが、20代から30代の女性が数名で訪れてゆっくり過ごしているようでした。
元工場という利点を活かしてフードも敷地内で製造しているようで、とても充実していました。
次は、ソウルの町外れの商店街に生まれつつあるカフェ通りを訪れました。
それはまた、他の機会にお話しようと思います。
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井上 城治 | 手紙寺 発起人
1973年生まれ。東京都江戸川区の證大寺(しょうだいじ)住職。一般社団法人仏教人生大学理事長。手紙を通して亡くなった人と出遇い直す大切さを伝える場所として「手紙寺」をはじめる。趣味は、気に入ったカフェで手紙を書くこと。noteを通して、自分が過ごしたいカフェに出会えることを楽しみにしています。
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