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罪 第31話

【前回の話】
第30話 https://note.com/teepei/n/n5deb1b9f0133

謝礼の高さが返って人を遠ざけるような試験内容だった。
私は早速候補に名乗り出た。
やりがいのある仕事に思えたからだ。
同僚は心配してくれた。
それは嬉しいことで、彼の残してくれた遺産だ。
だからなおのこと、この仕事を成功して同僚を喜ばせたいし一緒に分かち合いたい。
そのはずだ。
そして私は、このプールに身を投入するー


ーこれは観察対象の記憶。
記憶は観察対象がその意志を持って積極的にイメージしたもの。
イメージしようとする意志がなければ記憶は写し取れない。
意志の起因は外部からの働き掛けによるもの。
つまり他の観察対象が記憶の共有を要求した場合。
しかしこの記憶には要求も意志もない。
観察対象の循環器系が不安定な数値を示す。
観察対象は、むしろこの記憶を拒絶している様子。
まずは安定した状態に持ち直す。
二度の処置。
一時的に安定へ持ち直すが、三~四分後に再び不安定な状態。
記憶に対しては要求も意志もなく、引き続き観察対象から発している。
観察対象は記憶を管理できない様子。
観察対象は苦しんでいる。
記憶を走査する。
罪、という記号が幾度も現れる。
その記号が苦しみにつながり、観察対象の状態は不安定になる。
仮想空間上での行動にはまだ影響は出ていない様子。
記憶の流出は彼女の意識下で行われている。
記憶のイメージを発する信号が強いが、まだ異常値の判断には達しない。
表面化しないうちに対処が必要。
対処方法は不明。
反復し、新たな対処方法の構築が必要。

一度目の臨床試験が終了。
十人の観察対象の内九名は良好。
一名は循環器が不安定になったことを報告。
一名の状態、本人は問題なしと回答。
検診上の数値も特に異常なし。
記憶に対する対処法の構築が必要。

二度目の臨床試験開始。
九名の状態は安定。
一名も始めは安定。
五分後、記憶の信号が再び流出。
信号は強い。
循環器系への影響も強く、仮想空間上の動作にわずかな影響あり。
対処法の構築が急がれる。
記憶の走査。
観察対象は『罪』という記号に強く反応。
『罪』への対処法は現在のデータベースに記録がない。
検索の必要性あり。
ネットワークは閉じられている。
記憶の走査を続行。
苦しみ。
その状態が続く。
罪、苦しみ。
対処法構築の必要。
さらに記憶の走査、分析。
現段階の情報、論理での対処は困難。
(続く)
【次の話】
第32話 https://note.com/teepei/n/n46b16691860a

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