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罪 第16話

【前回の話】
第15話 https://note.com/teepei/n/n41597d2f5ab4

装置の精度は飛躍的に向上し、人間同士による行動の同調に成功する。
東京・シアトル間で行われ、同時に右手を上げ、立ち上がり、同じ歩調で歩くことができたのだった。
その後もさらに複雑な行動を反映させることに成功し、イメージの共有を行えるまでに至った。
簡単なイメージではあるが、例えば一方にリンゴをイメージしてもらい、もう一方に今浮かぶイメージを尋ねたところ、それがやはりリンゴであれば成功。
イメージを変えて二十回行い、そのうち十七回が合致に成功した。
技術開発が進み、さらなる精度を提供される。
行動の同調率は九割九分まで達し、イメージの伝達実験もすべて合致、簡単な会話まで可能になった。

「それで、記憶とか思考はどうなんだ」
丸々とした手に電極のひとつを取り、しげしげと眺める。

「能動的にイメージしたものをかろうじて写し取ることができるくらいだ。
リンゴを思い浮かべるのとそう変わらん」
「進展がないんだな」
「そうだ」
研究主任の本山が後ろめたさも見せずに言い切る。
骨ばった体に白衣をひっかけ、両手をポケットに突っこんだままガラスの向こうを見ている。
そこでは今なお進行中の実験が行われていた。

「なるほどな」
手から離れた電極が、繋がれた機械にぶら下がって揺れた。

「では、それでいい」
第二事業部の部長である森野は、作業台越しに本山の背中を見据える。

「正直なとこ、俺にはこの研究のことなど分からん」
森野もまた言い切る。

「だが、『シャングリ・ラ』に必要かどうかの判断はできる」
「本当かよ」
皮肉な笑みを浮かべ、ようやく本山が振り返る。
スーツに包む丸々とした森野の体格は、背の低さを感じさせない貫禄を備えていた。

「そういうことになってんだよ、だから権限がある」
それから目の前の作業台に、パンフレットと報告書らしき紙束を投げ置いた。

「今や下火の医療機器開発部で、久々のヒット商品が生まれそうでな」
促されて、本山は節くれだった手にパンフレットを取る。
『高機能媒介水』。
パンフレットには他に謳い文句もなく、淡々としている。

「そいつは一見、水のようだが違う。
奴らが言うには、プログラムによって動く、いわば極小の機械装置の集まりだそうだ」
既に報告書を手に取り、所々の情報を搔い摘む。

「…これを、頭脳間接続に応用しろ、と」
(続く)
【次の話】
https://note.com/teepei/n/n21218280e907

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