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罪 第15話

【前回の話】
第14話 https://note.com/teepei/n/nd29ea8ebf05f

つまり、万に一つでも屋上から離れようものならばすぐに命が絶たれてしまう。
見えない牢獄に囚われて、息苦しく暮らす彼らの活動は残念ながら弱い。
それでも熱帯環境を仕上げるには十分に役立っている。
鬱蒼とした植物を抜けると現れる、高いビル群。
見上げるようにして、ここがビルに囲まれた一角であることを、改めて知るのだった。


幾つかの研究開発が『シャングリ・ラ』を生み出す要素を提供していることはすでに述べたが、その中でも頭脳間接続技術の研究が一つの鍵を握っていた。

研究は長い間行われていて、脳神経細胞間で発生する電気信号の測定と正確な脳内地図の把握から始まった。
微細にわたる電気信号の判別、強度、変化の測定。
影響を与える部位と、その部位の役割。
それは同時に、測定装置の進歩と出力装置の開発を求められることでもあった。
『電気信号を正確に測定し、取り込んだ数値を電気信号としてもう一方の脳の正確な部位へと出力する』。
その相互作用が、当初に見ていた頭脳間接続の構図だった。
あとは極限まで精度を高めればいい。
方向性はすでに決まっていて、膨大なデータの蓄積と目覚ましい技術の革新を待つばかりに思えた。

その過程で、コンピュータによる脳への接続技術が仮想空間開発に大きく貢献する。
研究の精度を求める傍らで、装置の簡易化も進められた。
最低限の精度ではあるが、電極につないだバンドを額に巻く形にまでたどり着く。
すでに開発されていた薄型最軽量のヘッドマウントディスプレイにその技術が組み込まれた。
電気信号測定の蓄積と脳内地図の把握は、簡単な運動や感覚であれば、電気信号の数値化、再現、出力が可能な段階にまで至っていた。
仮想空間映像の体感には、十分に対応できる。
数値化された体感が盛り込まれ、こうして『シャングリ・ラ』の体感型仮想空間が公開されることになったのだ。


開業して一年がたち、盛況に陰りは見えず、それどころかチケットは半年先まで取れない。
その状況下、体感型仮想空間を次の段階へ進める計画があがる。
それまで単独でしか体感できなかった仮想空間だったが、他者を認識できるようにして相互にコミュニケーションを図れるものにする、という内容だった。
相手の位置を捉え、近づき、触れる。
会話を交わすことができ、相手に許可を得れば記憶や思考を共有することも可能。
それは、頭脳間接続技術がさらなる研究成果を挙げたことによるものだった。
(続く)
【次の話】
第16話 https://note.com/teepei/n/nd0e2cc95cdef

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