見出し画像

罪 第19話


【前回の話】
第18話 https://note.com/teepei/n/n1861c6ecf205
          ***

『シャングリ・ラ 臨床試験中の事故により突然の操業停止 参加した被験者たちは未だ救出できず』

○○区○○の未来型体感施設シャングリ・ラで、休館日の昨日、新設備開設へ向けた臨床実験を行い事故が発生。休館日明けの本日も復旧のめどが立たず、操業の一時停止を決定した。臨床試験には十名の被験者が参加、試験の過程で仮眠状態に入っており、現在も意識回復の見込みが立っていない―

          ***

『シャングリ・ラ』に招集された本山は、プールの底に横たわる助手の菊池を見つめる。

研究者側からも被験者への参加が必要だと思うのです。

しっかりとそう答えた菊池の様子を、まざまざと思い出す。
やはり、止めるべきだった。
いや、そもそも技術提供を許可すべきではなかった。
プールに沈む菊池の周囲には、無数の通電経路の網が光を放つ。
網は何かの条件に反応してか、微細に変動している。
「被験者たちの容態は本当に安定しているのか」
本山の問いに、設備開発責任者の石田は緊張した面持ちで答える。
「はい、プールのなかにいる限りは。
ただしお伝えした通り、外部の人間がプールに侵入しようとすると、途端に不安定になります。そのため、今は静観することしかできません」
「異常が起きたときの状況は」
「はい、三回目の臨床試験で開始十二分後に突然プール周辺の電源が落ちました。予備電源の切り替えを行ったところ装置の管理権限を失い、ありえないことですが、機械が完全自走し始めました」
「完全自走、とは聞いていたが、それはどういうことなんだ」
「はい、私も結論として聞いたまでで、詳しくは技術者である日下部に聞いて頂ければと」
「その彼は」
「東校舎の管理室です」

本校舎を挟んで、プールのある西校舎の反対側に位置するのが東校舎だった。
そこは『シャングリ・ラ』の頭脳であり、心臓部である。
建物三階分すべてが設備管理用の機械で埋まり、一階に監視室と事務室、二階と三階に管理室が設けられる。
管理室の機械にはそれぞれ技術者が割り振られていた。
日下部は管理室主任として全体を統括する立場にあるため、普段は実働を行わない。
しかし新規装置の導入などに立ち会うのは日下部だった。
今回も装置を組み込むにあたりシステムを安定させるため、東校舎での管理、観察を続けていた。
「電源が復旧して、まず操作が無効になった。それからシステム管理モニタに、向こうからの通信文字が現れた」
「向こう」
「そう、完全自走し始めた、あいつだ」
(続く)
【次の話】
第20話 https://note.com/teepei/n/n8be768263971

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?