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罪 第28話

【前回の話】
第27話 https://note.com/teepei/n/nd6c458cb3ff7

黒いドロドロという突拍子もないものに頼らなくても、十分に谷崎を仕留められる。
人工知能はそれに気付いている。
対する谷崎の身体能力は実際以上にはならない。
上の層では谷崎が盛り返し、かなり押し込んでいる。
だがここで敗れては意味がない。
さてどうする。
男は近づいてくる。
恐ろしい身体能力を潜ませながら。
待て、あせるな。
何だっけ、さっきアイツ、なんか言ってなかったっけ…
「俺とお前は物理的に繋がれていない。だから取り込むこともできない」
焦って、思い出したことをそのまま口走る。
だが思い出したぜ。
男が足を止める。
「何故繰り返す」
「ありがとうよ、お陰で切り札が分かったぜ」
人工知能は俺を取り込むことはできない、つまり俺の意識に介入できない。

しかし俺は。

男の、人工知能の目の色が変わる。
「ふん、気付きやがったな」
そう吐き捨て、谷崎はその場に胡坐を組む。
それは最も集中するときの姿勢だった。

そう、俺はお前に介入できるんだぜ。

多分。

男が駆け出す。
しかし谷崎は目をつぶる。


***

ほんとうに突然だった。
彼から癌に冒されていることを伝えられた。
そして余命は半年だ、って。
彼は日に日に憔悴していき、告知通り半年で死んだ。
何もできなかった。
ものすごい力で命が削られていくのを、ただただ見ているしかなかった。
ごめんね、何もできなかった。
そう伝えると私が握った手を少しだけ強く握り返し、彼は息絶えた。
一カ月前のことだった。
涙はだいぶ前から枯れ果ててしまって、もう泣き方も分からない。
ふと、罰を受けたのだ、と思った。
若い頃は遊び半分で大勢の男と付き合った。
また、自分と釣り合わない男をわざとその気にさせて、仲間と嘲笑うこともあった。
奢っていたのだ。
自分で言うのものなんだけど容姿もそこそこ良くて、学問だってスポーツだってそれなりにこなした。
学生の頃はクラスにいても自然と目立つ存在だったし、そうだと思ってた。
そんな自覚、今だったら思い出すだけでも恥ずかしいけど当時は違った。
変わったのは、そんなに前のことじゃない。
今の彼と出会うまでは、ずっとそうだったんだから。

私達は同僚だった。
同じ事業部で、彼は体が大きい割には無口で目立たなかった。
今まで付き合ってきた男たちのように、地位があったりお金があったりするわけでもない。
私が嫌いな『朴訥』なんて形容がぴったりくる、仲良くしようなんて絶対に思わないような人だった。
(続く)
【次の話】
第29話 https://note.com/teepei/n/nbdcd52af24c5

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