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罪 第29話

【前回の話】
第28話 https://note.com/teepei/n/nc2653c34fe4e

彼も私があまり好きじゃないように見えたし、付き合うようになった後で、やっぱり最初は好きじゃなかったことを教えてくれた。
私は組織で上を目指す自信もあったし、彼は相手にならないように見えた。
他の人に対してもそんな風だったから、多分、いや絶対周りを見下していたんだと思う。
割に合わない仕事は他の人間に押し付けて、評価の高く効率のいい仕事を選んでこなした。
そのお陰で会社からの評価は上々だったけど、同僚たちの不満が高まっていたことには気づかなかった。
いや、気付かない振りしてた。
今は同僚だけど、いずれ下になる人間達だ。
不満に対処する時間があれば上を目指す。
上に行けば、結局不満も届かなくなるし、私と横並びに働いていたことが自慢にだってなる。
そんな風に思ってた。
当然、同僚の不満は爆発した。
彼らは私に抗議し始めた。
今まで何も言えずに仕事を押し付けられていたYちゃんが、
「もういい加減にして」
と、仕事の依頼を跳ね返してきた。
同僚の中では、私からYちゃんへの押し付けが最も見かねる行為だったらしい。
Yちゃんが跳ね返す様子を、私以外の全員が見守っていたことに気付いた。
私は、一人になってしまった。
それからは私の仕事は断られるようになった。
私の傲慢さを正面切って指摘する人間も出始めた。
そして、私の関わる仕事がうまく回らなくなった。
そもそも誰もが自分の仕事に手一杯で、他を手伝う余裕なんてない。
そんな中、とうとう私がミスを犯した。
たった一つの伝達ミスで、催事にもっとも必要な展示物が届かず、延期になるかもしれない。
損害は決して無視できないものになる。
私は上司に叱られ、必ずミスを取り戻すことを誓わされた。
みんなの前で罵倒され、初めて惨めな気持ちを仕事で味わった。
そしてどうしていいかもわからない。
みんな、この様子を小気味良いと思って見てるんだろうな。
そんな風に思いながら、呆然と席に着いた。

「手伝うから、詳しく聞かせろよ」
そう話しかけてきたのが彼だった。
私は何も言えず、ただ彼を見上げた。
その大きな体が、それ以上に頼もしく思える。

「お前だって手一杯じゃねえか。また上に叱られんぞ」
そんなことを彼に言って、同僚が一人やってくる。
「お前が手伝うなら、俺もいけるよ。この前助けてもらったしな」
(続く)
【次の話】
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