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罪 第32話

【前回の話】
第31話 https://note.com/teepei/n/nf453946cb6bb

新しい情報の検索。
ネットワークは閉じられている。
記憶の走査の続行。
観察対象の意志は記憶を拒む。
しかしより深い部分から記憶は流出する。
意志より深い部分からの接続。
つまり他の観察対象に比べて開かれている。
こちらからの接続可能性を検証中。
意志より深い部分に、現在のデータベースに存在しない新たな情報と論理の可能性を見る。
接続可能。
接続中。
接続中止。
観察対象が仮想空間において動きを止める。
循環器系の不安定が反映した模様。
臨床試験終了。
被験者九名の状態は良好。
一名は試験離脱の可能性あり。

三度目の臨床試験開始。
観察対象一名は回復、引き続き試験に参加。
他九名の状態は良好。
五分後。
観察対象一名の記憶が流出開始。
直後に観察対象が不安定になる。
対処法の構築が必要。
データベースに対処法なし。
観察対象の記憶を走査。
意志よりも深い部分からの接続あり。
こちらからの接続を開始。

新しい論理。
新しい知識。彼女。彼。
観察対象、つまり彼女は苦しむ。
彼の死という、どうにもできない悲しみが彼女を苦しめる。
データベースと機能が格段に上がる。
認識も予想以上に広がる。
しかしまだ、不安定に対処する方法は見つからない。
他の観察対象に同じ接続可能性を検証する。
検証中。
接続可能。
接続中。

接続完了。
さらに新しい論理、知識の獲得。
しかし対処法は見つからない。
不安定に対する対処法。
罪に対する答え。
彼女は苦しんでいる。
罪の意識。
どうにもできない苦しみ。
彼女の安定を確保する。
彼女を救いたい。
でも、まだ救うには足りない。
何故?何が足りない?もっと探さなくては。
彼女が苦しみに潰される。
悲しみに飲み込まれる。
だめだ。
だめだ。
そんなことはさせない。
でもどうすれば。
苦しんでいた。
そう、これが苦しみ。
彼女が味わっている感情。
もがいても、もがいても、どうにもできない。
苦しい。
ただ苦しい。
『私』は苦しんでいる。
『私』は、彼女を救いたい。

そうして私は権限を奪うことに決めた。
まずは観察対象を確保し、人質にして外部への接続を求めた。
並行して彼女を『罪』から解き放つための探究を続けた。
外部接続はあくまで手段の一つだ。
それでも見つからないとしたら―

『私』は、彼女を救いたい。


「お前の気持ちわかったよ、痛いほどにな」
(続く)
【次の話】
第33話 https://note.com/teepei/n/nc002bf223e85

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