NUMBER GIRL BYE BYE

 2002年11月30日、NUMBER GIRLはメジャーデビューから3年というスピードで解散した。舞台となった札幌PENNY LANEはキャパ500人。その最後の勇姿を目撃できた人の数は非常に限られていたが、後にリリースされたライブアルバム「サッポロOMOIDE IN MY HEAD状態」を聴いてその凄まじさに打ちのめされ、「ああ、どうしてこのライブを自分は生で体験できなかったのだ」と涙で枕を濡らした人はきっと多かったのだろう。かく言う私もその一人である。
 それから20年という歳月が流れた2022年12月11日、横浜ぴあアリーナMMにてNUMBER GIRLは再び解散した。キャパ12000人。24倍。映画館で行われたライブビューイングも含めればその数は更に増える。ふえるわかめも普通そこまで増えんだろ。そんなわけで膨れがったわかめの一員として、繰り返される諸行無常の終わりを見届けてきた。
 開演前、客入れSEは無音。メンバーはそんなにJohn Cageが好きなのか?あんまり仲間同士で喋っている人もおらず、ぴあアリーナはライブ前のワクワク感というよりヒリヒリとした緊張感に包まれていた。
 会場から1時間、待ちくたびれた頃にお馴染みTelevisionのMarquee Moonが鳴り響きメンバーが登場。解散ライブは1stに収録された「大当たりの季節」で爽やかに幕を開けた。すると、2曲目で「透明少女」、3曲目「ドラムス、アヒトイナザワ」からの「OMOIDE IN MY HEAD」で畳み掛けるとド冒頭からのキメ曲の連続に盛り上がりつつもざわつく会場。え?もう終わんの?あまりにライブが素晴らしすぎて20曲分くらい記憶が飛んだのかと思った。24時間テレビ開始2時間でサライ歌いはじめたら戸惑うでしょ。その先も「ZEGEN VS UNDERCOVER」、「鉄風 鋭くなって」だからね。小学生時代の持久走で序盤にフルスロットルで飛ばし過ぎてすぐバテて追い抜かれまくっていた斎藤くんを思い出してちょっと心配になる。「NUM-AMI-DABUTZ」も割と早々に登場してしまい、ラストライブにして「人気曲ばっかりじゃなくてもっと良い曲もいっぱいあるんだぜ!」と言わんばかりの怒涛のマニアック選曲で後半を埋め尽くすキレキレのセトリと言うことなのか……と思っていたら例の「透明少女」乱れ打ちでPANIC IN MY HEAD状態。早々に披露した代表曲をその後も何度も演奏するのどういう意味?これが繰り返される諸行無常ってコト?いや、ビロリンマンで遊ぶ向井秀徳に意味を見出そうとする方が間違っていたのかもしれない。ただ身を委ねる、コレが正解。
 最近のライブで今をときめく世界的人気バンドThe 1975のフロントマンMatthew Healyはライブ中に煙草を燻らせて格好つけていたが、その斜め上を行くナルシシズム全開で煙草を次々に咥えながらチャッカマンでガンガン火を付けていく放火魔向井秀徳。アサヒスーパードライをライブ中に4缶空け、MCを「なんだっけ……」と一瞬飛ばしたり「福岡市博多区からやってまいりました」をひたすら繰り返す酔客向井秀徳。間奏中にギターやベースの音を勝手にカットするスイッチャー向井秀徳。考えるな。この自由さに身を委ねろ。飛ぶぞ。
 メンバーが一度退場したブレイクタイム(?)は過去の写真のスライドショーという言ってしまえばありきたりな演出だったのだがBGMが個人的に大好きな「Super Young」だったのが100億点でしたね……こういう演出で「Super Young」って選曲がベタ中のベタだったのだがそういうど真ん中直球なストレートさが似合うバンドでもありました。本音を言えば「Super Young」、エモい語り付き生演奏で聴きたかったけど……。オチの盛りまくったプリクラで全て許した。
 ところで今回チケットが1万円近く、もはや外タレの域で正直高えなと思ってしまったのだが、まさか3時間たっぷり31曲もやってくれたのは予想外というかアラフィフのメンバー達の腰が心配になるレベルだった(だからこそのブレイクタイムなのだろうが)。1曲辺り320円。ハイレゾ音源が1曲500円くらいなのでそれよりも安い。この価格で最高音質のNUMBER GIRLが聴けてむしろリーズナブルとすら言える。もっと払わせろ。向井秀徳はやりたい放題感のあるキャラクターではあるが、やはりサービス精神旺盛だよなと思った。再結成したばかりの頃インタビューでネット上の人気曲投票結果を見て「ちょっとマイナーコードの入った暗めの曲が好まれているんだと思ったね。『転校生』とか」(”地獄の自我”に突き上げられて––NUMBER GIRL解散から再結成まで、向井秀徳の心の軌跡 より)と語っていたのが印象的だったのだが、しっかり「転校生」、セットリストに組み込んでくれていたし。恐らく突発的だった、客殿をつけたままのWアンコールの4回目「透明少女」もそう。今回の再結成を自ら「思い出作り」「同窓会」「稼ぎたい」と緩いワードで茶化しながらも、ライブは一ミリの緩さも無く駆け抜ける向井秀徳……いや、緩さはあったな。緩急の付け方が上手いのだ。
 前回の解散は突然の中尾憲太郎脱退に伴う解散だったので、NUMBER GIRLというバンドのキャリアはどこか宙ぶらりんな印象だったのだが(実際向井秀徳は「ナムヘビ」後の構想もあったと話していた)、今回のセットリストが早々に「OMOIDE IN MY HEAD」、本編ラストが「I don't know」という前回の解散ライブを逆転させたかのような構成で、ヒラヒラとはためいていたNUMBER GIRLという切れ端がぐるりと円環を描いてガッチリ完結した印象を受けた。なのでローンの返済が滞ってまた稼ぎたくなったとしてももうやらないんじゃないのかなーと個人的には思う。終盤「TATOOあり」の最後の一滴まで絞り取ろうとするような鬼気迫る演奏を観てもそう思った。ここで終わってもこれでいいのだという雰囲気があったし、観客側も「やめないでー」というヤジを飛ばしつつもそれを受け入れている空気感があって、色んな人が書いていたように解散ライブ特有の悲壮感みたいなものが全くなかった。あっけらかんと各メンバーの今後の予定の告知をしてしまうのもそう。子供の頃、夕方たっぷり遊んだ友達と別れるように、明るくバイバイできる良いライブだったんじゃないかな。

追記:最後の最後に捌ける時にベースにガーンとぶつかってしまう田淵ひさ子がアニメの終わりに丸が縮んでいく演出を付けたくなるようなオチでとても良かったです。とほほ。

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