【エッセイ】水害は悲劇だと改めて知った日
9/8の夕方から夜にかけて、私が暮らす福島県いわき市を大雨が襲った。
台風の直撃によるものではなかったが、東北地方では初めての線状降水帯が発生し、とんでもない豪雨が街に降り注いだのだ。
小さな川が氾濫を起こしたため、地区は限定されたものの、1,000戸を超える住宅に床上・床下浸水の被害が発生してしまった。
目の当たりにした水害
今日から市のボランティアセンターが動き出すと聞き、私も初日の活動に参加してきた。
水害ボランティアでは、参加者が3人ずつチーム分けをされて、被害を受けたお宅へ派遣される。
私はふたりの男性と一緒に、もっとも水害が酷かった地区へ行くことになった。
もともと、ボランティアに参加した話を、このエッセイに書くつもりはなかった。
東日本大震災のときに思ったことだが、被災地には酷い現実と同時に、災害を乗り越えようとする人間の強い力が存在する。
私が今回、下手に水害の悲惨さや辛さを発信することで、その強い力を覆ってしまうのは絶対に避けたかった。
しかし、今回の水害を目の当たりにして、強く感じた。
被災はまだ現在進行形で、浸水した家のあちこちには水が溜まり、畳や壁がぐっしょりと湿っている。
一刻も早く片付けなければ、家が駄目になるだけでなく、暮らす人の健康も損なわれてしまうだろう。
だから今日は、私が見た水害を、そのまま書かせていただくことにした。
「捨てていいです」
私が行ったお宅は、高齢の方がひとりで暮らす一戸建て住宅だった。
一階が床上浸水に見舞われてしまい、押し入れ半分の高さまで水が上がったという。
最も酷い和室の片付けと畳上げ、家の前に溜まった泥の撤去が、本日の依頼内容だった。
家の前の泥は、大雨から3日目だというのに、コンクリートを流したかのように通路を分厚く覆っていた。
長靴を履いていても、気を抜けば滑ってしまう。
慎重に足を上げ、作業すべき和室へと土足で入る。
仕方がないこととはいえ、靴を脱げないほどの被災に心が痛んだ。
畳を上げる前に、部屋にあるものをすべて片付けることになった。
お仏壇の下にしまわれたお線香も、家族の笑顔が詰まっているであろうアルバムも、愛用していたに違いない座椅子もすべて泥だらけ。
引き出しも箱の中も、物が入っているところは水でいっぱいだった。
もう使えないと分かっていても、捨てるには家主さんに「どうしますか?」と確認しなければならない。
ついこの間まで使っていたものを「捨てていいです」と言う苦しさを思い、私はこぼしてはいけない涙をぎゅっと堪えた。
畳の重さと水害の重さ
部屋にあったものをすべて片付け、やっと畳上げまで進んだが、これがとんでもない難関だった。
水をめいっぱい吸い込んだ畳を、男性ふたりがバールで上げ、私も手を出して三人で家から運び出す。
濡れた畳は、想像のかなり上をいくほど重かった。
どうにかこうにか畳を出し、家の壁に立てかけるのだが、1枚運ぶだけで腕や背中が疲れてしまう。
たった6枚の畳上げに、体力と労力を大きく持って行かれてしまった。
水を吸った畳の、とんでもないあの重さが、そのまま水害の重さなのだろう。
家主さんの力ではどうすることもできない、日々の暮らしをがらりと変える強烈な重さ。
神様なんかいるもんか、そう強く感じるほどの絶望的な重さ。
低気圧だか線状降水帯だか知らないが、こんなことはもう、二度と起きてはならない。絶対に起きてはならないことだ。
濡れた畳を乗せていた床板は、非常にもろくなっており、最も体格の良い男性が踏み込んだだけで割れてしまった。
床板の下には、茶色く濁った水がたくさん溜まっている。
これでは蚊が大量発生してしまうと思ったが、とても人力で汲みだせる水量ではなく、この時はどうしてあげることもできなかった。
ボランティアということ
令和元年東日本台風の水害の際、私は事情があって、どうしてもボランティアに行けなかった。
次に災害があったときには、絶対に参加しようと思っていたのだが、その考え自体が無知の罪だったと今更ながら思う。
もしもあのとき、災害を目の当たりにしていたら、次とは絶対に考えなかっただろう。
だが、令和元年より規模が小さいとはいえ、水害に見舞われた地域の酷さは変わらない。
濡れた家財道具を片付けるのも、泥を掻くのも、畳を上げるのもすべては人の手だ。
もしも「ボランティアに行こうか、どうしようか」と考えている方がいらっしゃったら、ぜひ一歩踏み出していただきたいと願っている。
※いわき災害ボランティアセンターHP
https://www.iwaki-shakyo.com/volunteer/saigai-volunteer-2.html
そうは言っても、誰しも仕事や家庭、用事があるのだから、それを後回しにしてボランティアに行くのは不可能だろう。
もちろん、体力を削がれすぎないことも重要だ。
私も、決して無理をしない範囲で日にちを選びながら、続けて参加しようと思っている。
(本日はセンシティブな内容のため、コメント欄を閉じさせていただきます。ご了承くださいませ)
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