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豚バラ肉の煮込みが食べたくて日本の南西を飛び回った

なぜ、豚のバラ肉を使った煮込み料理は、惹きつけられるのでしょうか?甘辛い濃いめの煮汁、脂の乗った肉が美味しい。美味しいものは、糖と脂でできていることを実感します。狩猟時代から、身体能力は変わってないため、全人類にとって糖と脂肪の組み合わせは至福です。


豚肉料理といえば、中国の影響を強く受けています。薩摩藩(現在の鹿児島県本土)は豚肉を中国から導入したり、琉球王国(現在の鹿児島県奄美地方、沖縄県)では、中国からやってきたお客さんのおもてなしのために、導入しています。中国に接しているベトナム、華僑(中国出身移民)がやってきたマレーシアも豚肉料理があります。

豚肉を煮込んだ料理が好きなため、それぞれの地域に行ってみて食べ比べました。離れた地域でも、似た料理が誕生しています。その土地で手軽に入るスパイス、調味料の違いによって味わいが変わります。

トンポーロ(東坡肉)

日本の豚バラ肉の煮込みのルーツになった料理です。杭州の名物料理で中国八大料理、浙江料理セッコウリョウリの一つとされています。浙江料理は食材のポテンシャルを引き出すことを意識した繊細な味に仕上げる傾向にあります。東坡肉トンポーロは、11世紀前後、北宋(上海より北側)の詩人、蘇東坡ソトウバが考案しました。蘇東坡が好んで食べたことから東坡肉と名づけられました。

皮付きの表面を中華鍋に押し付けて焼きます。これは、残っている毛を処理するためです。食べやすい大きさに切り分けてから、下茹でして余分な脂、臭みを落とします。油通しすることによって、旨味を閉じ込めつつ、熱で脂を溶かす効果があります。下処理した豚バラ肉と生姜、葱の青い部分、八角(スターアリス)、シナモン、砂糖(氷、ザラメ)、醤油、紹興酒を入れて煮詰めます。杭州では、砂糖を豚肉の3分の1近くたっぷり入れることが多いです。中国の醤油は日本の醤油と異なります。大豆だけではなく、黒豆、小麦粉を原料として醸造されています。日本の醤油よりトロトロで、甘みが感じられます。

トンポーローは食べたことがありません。一度は食べたい中国料理です。トンポーロが長崎、沖縄に伝わって独自に進化しました。

角煮

角煮を求めて長崎へ。東京から寄り道をしながら普通電車を乗り継いで1週間。貿易を規制していた時代、唯一、ヨーロッパと交易していた出島などを訪れました。眼鏡橋、オランダ坂、グラバー園、大浦天主堂など、異文化を積極的に取り入れた街だと感じました。

トンポーは中国大陸から長崎に伝わりました。長崎では、東坡煮として卓袱料理というコース料理の一品として提供されていました。卓袱料理は、和、洋、中がごちゃ混ぜになったコース料理です。フランス料理、懐石料理のように、一品一品が一人前に盛り付けられているのではなく、中華料理のように、大皿に盛られて好きな料理を取っていくスタイルです。いわゆるバイキング、ビュッフェ形式です。東坡煮を日本人好みにアレンジして角煮が誕生しました。

皮のついていない豚バラ肉をブロックのまま、下茹でします。皮つきか皮なしかがトンポーロとの大きな違いです。下茹でしたブロック肉を切り分けてから、濃口醤油、砂糖で甘辛く煮込みます。臭み消しのために生姜、ネギと煮込みます。タレは煮詰めて、肉にかけます。仕上げに蒸さないことはトンポーローとの大きな違いです。

小麦粉で作った真っ白な生地に挟んだものが、角煮まんじゅうです。東坡煮をよりおいしく、より手軽に食べられるようにアレンジして誕生しました。角煮まんは、長崎の名物になっています。長崎を訪れたかった一つの目的が、文化のちがい。長崎は江戸時代、中国、西洋との貿易拠点でした。

甘辛く煮込まれた角煮は、形を保ちつつ、ホロホロ柔らかでした。生地にタレが染み込み、吸収して手も汚さず、美味しく食べられます。魚の煮つけ

ラフテー

ラフテーを求めて沖縄へ。

ラフテーを求めて沖縄本島へ。羽田空港から飛行機で約2時間半かけて那覇空港へ到着しました。島に広がる青い空を期待していました。しかし、到着時、真っ白な空。モノレールで国際通りに向かいました。公設市場は、新鮮な海の幸、畑の幸がズラリと並んでおり、香港、クアラルンプールの市場の雰囲気そのもの。ステーキ店、バーが多く立ち並び、アメリカのような雰囲気も感じられます。海外旅行のような異国情緒が感じられました。

ラフテーは沖縄版トンポーロ

ラフテーは沖縄の郷土料理です。沖縄では、琉球王朝が置かれたころから、中国の偉い方へのおもてなしとして豚肉料理が発展しました。中国から伝わったトンポーロをベースに、沖縄で手に入る食材を使って誕生した料理がラフテーです。

作り方

皮付き三枚肉(バラ肉)を食べやすい大きさに切り分けてから、下茹でし、余分な脂、臭みを落とします。黒糖、醤油、泡盛と一緒に煮込んで甘辛く煮つけます。泡盛特有の甘い香りに惹かれます。黒糖により、コク深くなります。三枚肉は柔らかく、脂の部分はとろけます。

元々、暑い沖縄で保存するため、塩分濃度を高め、濃い目の味付けでした。時代とともに、薄味に変化しつつあります。ラフテーは、見た目よりさっぱりしており、後をひかない甘さも感じられました。そのまま食べても、もちろん美味しいです。沖縄そばに乗せると、ごちそうに変貌します。ソーキ(骨付きアバラ肉)を使うと、ソーキの煮付け、豚足(テビチ)を使うと、テビチ煮となります。

とんこつ

薩摩藩から勉強しつつ、疲れを癒すため鹿児島へ。

熊本市からバス、電車を乗り継ぎ、高千穂、宮崎市を経由して5日後に上陸しました。

幕末の一大勢力だった薩摩藩。たった一藩が、当時、覇権を握りつつあった大英帝国と善戦したり、パリ万国博覧会で幕府が監修していたものとは別のパビリオンを独自に作り、展示していました。大いに繁栄していた薩摩藩から、学んで人生に活かせないかと思い、勉強するために鹿児島市を訪れました。鹿児島市を去り、指宿市で温泉に浸かり、宿の夕食でとんこつをいただきました。指宿市は、砂に埋もれてじっくり温まる砂蒸し風呂が名物です。岩盤浴に近く、じっくり蒸されることにより、身体の芯までポカポカに温まります。

とんこつは、鹿児島版豚バラの煮込み

とんこつは、鹿児島の郷土料理です。鹿児島で、とんこつとは豚の骨付きあばら肉の煮込みのことを指します。鹿児島県では、安土桃山時代、琉球から豚肉が伝わりました。とんこつは、武士が狩り、戦の時に屋外で作ったことがはじまりとされ、西郷隆盛もお気に入りの味でした。

骨付きあばら肉の表面を焼き固めてから、芋焼酎、味噌(麦が本場だが、中辛味噌でも代用可能)、ザラメ(黒糖)と一緒に煮込みます。脂を取り除き、火を止めて寝かせて、再び煮込むを繰り返して作ります。野菜が溶けないように、崩れないように、大根、ニンジンなどの具材も最後に投入して完成です。甘辛いため、ご飯がすすみます。軟骨まで味噌が染みわたっているため、甘辛く、アツアツのうちに食べると、とろけます。冷ますと、ポキポキ食感に変化します。

豚のバラ肉の煮込みとともに、なつかしい旅の思い出が頭に浮かびます。

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