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デジタル革命は印刷から物流の世界へ DXの秘訣は現場にあり!

シェアリングエコノミーで印刷業界に革命を起こしたラクスル。次に挑むのがいまだアナログによる業務が少なくない「物流」の世界です。パソコンやスマホアプリから最適なドライバーをマッチングして、荷物の配送予約から支払までをおこなえるネット運送・配送サービスハコベルを2015年にリリースし、業界全体を巻き込みながらデジタル化を推進しています。そんなハコベル事業を率いるのが、ハコベル事業本部ソリューション推進部部長の鈴木裕之さんです。

聞けば鈴木さんは、リクルートで住宅業界、エムスリーで医療業界の事業開発を担ってきたといいます。そこからなぜ物流業界に飛び込み、どのようにして物流の世界に革新を起こしてきたのでしょう。その歩みと事業推進の秘訣をお伺いしました。

ハコベルは物流の“次”を発明する

――最初に、ハコベルとはそもそもどういったサービスなのかお教えいただけますでしょうか。また、どういうビジョンや思いからサービスがスタートしたのでしょうか?

鈴木:ハコベルでは”物流の「次」を発明する”というビジョンを掲げています。20世紀に発明された「コンテナ」が物流を変えたという話はよく知られていますが、21世紀の現代、デジタルを通じてもう一度大きな発明が起ころうとしています。その中心的なプレイヤーになりたいという思いから、こうしたビジョンを掲げています。

ハコベルは、貨物利用運送事業としてサービスを提供し、受発注や運行管理のプロセスをデジタル化・プラットフォーム化しています。そのサービスの1つである「ハコベルカーゴ」は、物流のラストワンマイルを担うドライバーと荷主さんをマッチングするというものです。

また、2年前からは「ハコベルコネクト」も提供しています。

※「ハコベルコネクト」とは、
一般貨物の荷主と全国の運送会社をつなぐ物流プラットフォームです。WEBアプリケーション上で自社の車両、協力会社の車両を管理し、配車、請求管理を行う機能と、ハコベル配車センターへの配車依頼を行う機能を備えています。

こちらは、拠点間で一般貨物を運ぶBtoBの輸送のマッチングもおこなっています。一般貨物に関わる際は、詳しい人に来てもらって知見を少しずつデジタル化し、少しずつDXを進めてきました。「ハコベルコネクト」にはもう1つ、SaaS型の輸配送管理システム「TMS(Transport Management System)」としての側面もあります。マッチングサービスは無料で利用できるのですが、TMSとして使っていただく場合は有償となります。

――「ハコベルコネクト」は、デジタルを活用して「物流」をどのように変えているのでしょうか?

鈴木:自社内でTMSを使って輸配送の計画を立てる企業さまはいらっしゃるのですが、他社と連携する際はTMSが使いづらく、CSVと指示書をセットにしてメールで送ったり、紙に出力してファックスで送ったりすることが多いんですね。アナログなオペレーションが物流業界ではけっこう残っているんです。物流業界は、自身だけでなく相手にもシステムを使ってもらわないと効率化が進みません。これまでも一部業務をデジタル化する仕組みなどは存在しましたが、規模が大きい業務の置き換えは難しいんですよね。

――具体的にどういうところがボトルネックになっているんでしょう?

鈴木:物流におけるSaaS型サービスって「ハコベルコネクト」以外にもあるんです。ただ、荷主さんの運ぶものによって指示や条件が細分化しており、汎用的な仕組みが適さないんですね。それで、大手SIerさんが企業のニーズに合わせてカスタマイズして作っていました。荷主さんごとに使うシステムも異なるわけで、運送会社さんは荷主さんに合わせて何十個もシステムを使わなければいけないことになってしまいます。

「ハコベルコネクト」では、こうした事情から発生するメール・ファックスでのコミュニケーションも、ウェブやスマホアプリに集約することができます。我々はこれまでおよそ5000社のお客さまとやり取りしてきましたので、荷主さんからすると「ハコベルなら安心できる・使い慣れている」と思っていただけますし、運送会社さんからすると「荷主のA社さんもB社さんも使っているならやってみようか」と感じてもらえます。

――実際に使っている方からそうした意見をもらえるのはうれしいですよね。特に、これまでデジタル化が進んでいなかった世界ですし。

鈴木:そうなんですよ。物流業界では働き手が高齢化していることもあり、新しいことに対する抵抗感が強いというのもあります。ただそこは、開発・PdM(プロダクトマネジャー)が使いやすく仕上げてくれたおかげで、実際に使っていて困ることはないと評価していただけています。そういったよい声を聞くのは事業責任者である僕もうれしいですし、我々のやったことは無駄じゃなかったと思える瞬間です。​

いまは、人と人のつながりやネットワークの力でDXの最初の壁を乗り越えられたところだと思います。我々の事業はまだまだ小さいのですが、こうしたネットワークを広げて、物流全体のシステム標準化を目指していきたいと考えています。

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仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる!

――ラクスルでは印刷事業が有名ですが、2つ目の事業としてなぜ「物流」に目を付けたのでしょうか。

鈴木:ラクスルでは、「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というコーポレートビジョンを掲げています。古い仕組みによって費用がかさんだり生産性が上げられない業態に着目して、そこをデジタル化・DX化して問題を解決していこうというものです。そうした視点から見て取り組んだ最初の業界が印刷であり、次が物流だったという話です。

――物流業界におけるDXの難しさはなんだと思いますか?

鈴木:やはり関係者が多いこと。1つのものを運ぶにも、倉庫を運営する人、メーカーさん、卸さん、運送会社さんが関わってくるため、関係者が多い業界なのです。

自社だけならDXはできますが、他社を巻き込むのが難しい。「合成の誤謬」と言いますか、全体最適をしようとすると、自分の部署や会社だけ「ちょっと不利益を被るのでは?」と感じる人が出てきます。実際はそんなことないんですが。皆さんを口説いて、同じ方向を向いてもらう必要があります。この企業間連携の難しさが、物流業界におけるDX推進の障壁となっています。

データの扱い方にも注意が必要です。住所、取引先、商品名……どの情報を誰になら開示していいのか、ダメなのかをしっかり管理できないといけません。商慣習を捉えてシステムに反映させないといけないのが難しくて、DXをやり切れる企業さんが少ないんじゃないかと思っています。

また、どの企業さまも物流費は大きな負担となっており、これまで何度も改善に取り組まれています。なので、「DX」というよく分からないもので、本当にこれまで以上の改善を見込めるのだろうかと疑問を抱く企業さまも多いです。

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 土手のビジネスがおもしろい。だからラクスルに来た

――鈴木さんのご経歴について伺ってよろしいですか。どういう経緯でラクスルに来られたんですか?

鈴木:東京大学文学部を卒業してから、新卒でベネッセに就職しました。在籍していた、なんて言うと怒られるくらい期間は短かったんですが(笑) 次のリクルートには2006年11月~2015年の4月くらいまで居ました。リルートの中でSUUMO(リクルート住まいカンパニー)を担当し、2年目まではフリーペーパーを担当していて、3年目以降は新規事業開発部に所属、離れるまでの2年は同じ部のマネージャーに就いていました。2015年5月からはエムスリー。子会社のマネジメントや、新規事業開発で医療画像のAIに関するプロジェクトを起ち上げ、子会社の代表も務めました。
2019年の10月からラクスルのハコベルに所属しています。​

――そうそうたる企業で活躍されていますね。リクルートからエムスリーに移られたのはなぜなんですか?

鈴木:リクルートのSUUMOを担当するなかで、住宅産業の新規事業はある程度できるようになりましたが、リクルートは事業ドメインに対する知見がもともとあったから実現できたことなのではと疑問に思ったんですよね。リクルートで身に付けた新規事業に関するスキルは、別のドメインに移っても通じるポータブルスキルなんだろうか――それを確かめたくて、エムスリーに移りました。息子には「そんなことで辞めたの?」と言われましたが(笑)​

エムスリーで医療業界の新規事業に挑戦し、自分のスキルは通じると実感できましたね。エムスリーでの経験は本当に勉強になりました。社長の谷村さんが天才で……。週一で社長に会って経営観点、M&Aや事業投資などの事業運営手法、いくつも存在するマネタイズ手法などを教えていただいた。感謝してもしきれません。普段口にはしないので、こういう記事で伝わればいいなと思います(笑)

エムスリーは事業としても非常に面白かったのですが、医療の業界はプレイヤー数が多くないですし、医療業界のバリューネットワークが見えてきたので、違う業界に行ってみようと思いました。

――そこで物流業界に目を付けたわけですね。しかし、どうしてまた物流だったんでしょうか?

鈴木:自分の中で社会人としてのサブテーマとして「先端技術の社会実装」を設定しているのですが、医療や製薬の世界では、基礎研究で大きな発明があっても、その技術がコンシューマーに届くまですごく時間がかかるんですよね。その点、物流はデジタル化技術の実装がスピーディに実現できる領域のため、興味を引かれました。​

それと、ナショナルクライアントから運送会社さんまで多種多様なプレイヤーさんとパートナーになりプロジェクトを実現するのは、医療に関わる領域ではなかなか難しくて。それが実現できる物流業界に面白さを感じたのも、フィールドを変えた背景にあります。​

あともう1つ。リクルートのときは営業の部長や役員さんが間に立ってくれていたので、プロジェクトのプロマネ・営業をするという意識はありませんでした。ところが、エムスリーに入ったら全部自分で実施する世界で、営業に立つ機会が多かったんですね。そこで、お客さまと一緒になにかを作っていく楽しみを知りました。この経験で得たスキルや体験を、今度は物流の世界で試してみたいって思ったんです。

――物流業界では佐川急便やヤマトホールディングスのような超大手もありますが、そのなかでハコベルを選んだ理由はなんだったんですか?​​

鈴木:谷村さんは「土手のビジネス」と言っていたのですが、佐川さんやヤマトさんのような物流の本流より、本流のビジネスをサポートしエンパワーメントする横側が面白いんじゃないかと。そういう視点で見たとき、僕にとっていちばん面白そうだったのがラクスルのハコベル事業本部だったんですよね。​

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失敗の原因は「現場に行く量が少なかった」から

――「いまの自分を作っている過去の失敗談とそこから得た学びについて教えてください」という質問を用意してきたんですけれど、鈴木さんのお話を聞いていると、失敗のご経験なんてぜんぜんなさそうですよね(笑)

鈴木:いや、そんなこともないですよ。一番しんどかったのはリクルート時代で事業開発に関わっていたときですかね。2年くらい鳴かず飛ばずの状態で、自分で作ったサービスが全部ダメ。ヒットしませんでした。当時のグループ社長に「本気なのか?」と言われたくらいで(笑)

――いまの鈴木さんからすると信じがたいですね……。なぜうまくいかなかったんでしょうか。

鈴木:いちばんの反省点は、現場に行く量が少なかったこと。ラクスルの行動指針の1つに「Reality(高解像度)」を掲げていますが、まさにこれが足りなかったんですね。現場に行く量が少ないと、現場の人・経営者に響かないサービスができてしまう。

――それまではあまり現場には行っていなかった?

鈴木:それが行ってたんですよね。それまでもフリーペーパーの企画で現場に通っていたんです。それで自分では「現場によく行っている」と思っていたんですけれど、新規事業となるとそれではぜんぜん足りないことが分かりました。そこに気付くまでに2年を要しましたね……。

――気付くきっかけはなんだったんですか?

鈴木:これはもう、3年目にいい先輩、いいプロジェクトと出会えたのが大きかったです。クライアントに直接出向いて作業するクライアント留学を経験して、このときはじめて「この人たちをなんとかしたい!」という気持ちがわいてきたんです。それで、現場の人に響くよいサービスが作れて、プロジェクトではよい成果も残すことができました。

このプロジェクトで、現場に行く量が圧倒的に大事だと体感できたんですよね。この経験がなかったら、よくいる頭でっかちな経営企画の人になっていたと思います(笑)

――なるほど、これはDXでも同じことが言えそうですね。

鈴木:そうそう。結局、現場の人に響かなければ使ってもらえませんからね。

DXの秘訣は「よく知る、好きになる、あきらめない」

――これからDX推進に奮闘する方に、効果のある手法や心持ちなど、ひと言アドバイスをいただけないでしょうか。

鈴木:「よく知る、好きになる、あきらめない」ですかね。「よく知る」は、先ほどの解像度の話につながります。物流でいえば、運送会社に所属するDX担当者は荷主側の業務はよく分かっていないでしょうし、最初からすべての業務を知っている人はいないはずです。なので、「よく知る」ことで現場の解像度を上げていかないと、いいサービスは作れない。

2つ目の「好きになる」は、業界そのものや現場にいる方たちのことが好きになるということ。好きにならないと、その業界をDXでチェンジを担う人にはなれません。ぜひ好きになってほしいです。

最後の「あきらめない」は、そのままで精神論になってしまいますが、DXに気乗りしない人たちとも根気よく接していくこと。

この3要素は、リクルート時代の尊敬する営業部長がおっしゃっていた言葉なんですけれど、DXで業界を変えていく人には、この3つの要件が欠かせないと思うんです。もちろん、技術の勉強や営業をやるのは当たり前としてね。

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住宅・医療から物流の世界に移り、着々とデジタル化を進めつつある鈴木さん。その秘訣はどうやら「現場を知る」ことにありそうです。DX推進に悩む皆さんも「よく知る、好きになる、あきらめない」の言葉を胸に、現場に飛び込んでみてはいかがでしょうか。
鈴木さん、ありがとうございました!

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鈴木 裕之 氏
ラクスル株式会社 ハコベル事業本部 ソリューション推進部 部長。1981年生。東京大学大学院工学系研究科都市工学専修修了。リクルート(現株式会社リクルート)、エムスリーを経て現職。テクノロジーの社会実装をサブテーマに新規事業を手掛ける。運送マッチングにテクノロジーを導入するプロジェクトなど、物流×テクノロジーの事業化に取り組んでいる

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