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美味し魚

「近頃は野菜の味が変わった」と言う声をしばしば聞く。
品種改良が進み、それまでの品種よりも苦みや辛味が抑えられ甘味が増した野菜が増えているのだと言う。トマトは甘くなり、キュウリは苦みが抑えられ、ピーマンやブロッコリーも以前より数段味が良くなった。
果物もまた然りで、例えばイチゴ。近頃出回っている品種は皆粒が大きい上にとても甘くて、そのままかぶりついても良い位に味が良くなった。
ワタクシが子供の頃はイチゴと言えば甘味と酸味が共にある果物で、コンデンスミルクや砂糖をかけて食べるか、煮込んでジャムにしてしまうのが一般的だったかと思う。
イチゴだけに留まらないが、これも偏に農業関係者の血の滲むような努力の賜物と言えるだろう。本当に頭が下がる。

他方、資源の大半が天然由来で、品種改良による味の改良が野菜・果物・畜肉ほど進んで居ないであろう魚介類が、子供の頃はあんなに苦手だったのにいつの間にか美味しく頂けるようになって、何なら近頃は肉より魚を食べる機会の方が多い気がする(但し貝類はアレルギーがある為今も食べられない)。
個人的には酒を覚えた事で、味の好みが変わってしまったのが大きいかなと感じている。

ワタクシが子供の頃、魚料理が苦手だった理由はもうひとつある。
ワタクシがまだ幼い頃から我が家では、魚を捌くのは父の仕事と役割が決まっていた。我が父は嘗て船乗りで、船上で賄いをやっていたらしく、その為か魚を捌くのが母よりずっと巧みだった(…いや、母自体料理は得意な方なのだが、魚だけは父が捌くと言う暗黙の了解みたいなものが我が家にはあったのだ)。流石に最近は高齢の為に手元が危ないので、切り身の魚に世話になる事が多くなった…とは言っていたが。

ただ、ワタクシが子供の頃に父が作っていた"魚料理"の一部には、所謂【男の料理】特有の大雑把さがあった。イワシやホッケのすり身を用いたつみれ汁のつみれには小骨が少なからず混じって居たし、サバの味噌煮は腹骨を梳いてないので、腹骨の部分を食べるのにかなり手間取った記憶がある(親父殿、ゴメン)。
子供は、食べる時にひと手間かかる食べ物を自ずと否むものだ。ワタクシも御多分に漏れず…であった。

今は子供の頃とは真逆である。鮭の切り身を焼いたものから小骨を取り除く事も、鮭のハラボ(三枚おろしにして身の部分を外した中骨の部分)を焼いたものを歯でせせって食べる事も、サンマのはらわたの苦い部分に大根おろしを乗せて醤油を垂らしてかぶりつく事も、全く煩わしいと思わなくなった。
鮎やニジマスの串焼きなど、子供の頃なら多分持て余していただろうが、今なら頭から尻尾まで残さず頂ける。
メヒカリ(アオメエソ)やハタハタに至っては食べる時に小骨を意識した事すら無い。特にメヒカリは骨が柔らかいので、頭から丸ごとムシャムシャとイケる。慣れとは恐ろしいものである。

最も、我が父はまだ足腰が達者な時分、共に入った海鮮料理屋でカサゴの丸揚げを注文して、頭も尻尾も残さずバリバリ食べて見せてワタクシを唖然とさせた人物でもある。
流石にワタクシには、カサゴの丸揚げを丸ごと貪るだけの膂力は無い。真の魚好きと言うのは我が父のような人物を指すのだろう。ワタクシはまだまだその境地には遠い。

そう言えば、平成以降は惣菜として販売される焼き魚や煮魚にも変化が見られるようになった。
加工の段階で骨を抜く加工所が増えたのだ。
コンビニ惣菜で売られている焼き魚や煮魚の中には、小骨を気にせず丸かじり出来る商品まである。賛否あろうが、ワタクシも味の良い商品であればたまに世話になる。

魚料理と言えば、酒を覚えた頃は刺身にもハマって居た時期がある。自分ではおろせないので魚屋さんで【造られた】ものを買うのが殆どだったが。
一番好きなのはカツオの土佐造り(所謂カツオのたたき)で、生姜・ニンニク・刻みネギをポン酢に混ぜたタレで良く食べたものだ。
鯛の刺身なんかは一部を【漬け】にしておいて、翌朝お茶漬けの具に使うとそれだけで幸せな気分になれたものである。

そんなワタクシが目下、食べてみたいと願っているのは川魚料理…特に鯉やナマズ(ニホンナマズ)である。
そう言えば、埼玉県川越市には昔から良い川魚料理が多数あると聞く。体が不自由じゃなければ是非行きたいところなのだが。
ナマズと言えば、近頃イオングループでは海外に専用の養殖場を作り、パンガシウスと言う東南アジア産のナマズを生産して店舗に並べるようになった。これはワタクシも数度食べた事があるが、癖がなく適度に脂が乗った白身魚と言った感じで大変美味だった。

但し、同じ川魚でもウナギを食べる事だけは自らに禁じている。
ウナギが乱獲の末にトキやジャイアントパンダよりも稀少な絶滅危惧種に指定されているのもあるし、また火防の神として心の中でウナギを信奉していると言うのが理由である(詳しくは過去記事【ウナギ食べません教】を参照あれ)。

近頃はサバやヒラメの養殖で、餌にハーブやミカンの皮の粉末を混ぜて魚臭さを軽減させ、ブランド化する動きもあると言う。
果たしてこの先、ワタクシが死ぬまでに、日本の魚食文化はどのように変遷するだろうか。

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