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塩辛いオレンジ

どうも最近、過去の名盤が次々とMP3化されているらしい。近年流行の楽曲に馴染めないワタクシとしては嬉しい話である。

その日、MP3販売サイト【Music.jp】で検索をかけていたワタクシは、表示された検索結果に我と我が目を疑った。

検索候補は【Han-na】。
嘗て(確かワタクシが高校生位の頃)北海道を中心に活動していたバンドの名である。当時としては珍しく(…そうでもないかな)、ヴォーカル担当のみ女性で他のメンバーが男性と言う構成だった。
詳しいバイオグラフィーはワタクシも把握していないのだが、随分昔にラジオで聴いたこのバンドの曲のひとつが、何十年もの間ワタクシの記憶に残ったまま消えていなかったのだ。

曲名は【暗くなるまでまって】。

良く言えば情熱的なラヴソング、明け透けな言い方をすればかなり【オトナの匂い】がする一曲である。
同曲の歌詞を抜粋させて頂く。

今夜のあたしは何も考えれない
悩むには適当な夜じゃないから
テーブルの真ん中にあなたという名の
スープを並べて飲みほしたら

ロウソクの灯りを指で包んで
ヤケドした心を暖めなおすの
食後のデザートにあたしという名の
しおからいオレンジを食べてみてよ

いずれも【暗くなるまでまって】より

いつだったか、知人とこの曲について語らった事がある。ワタクシが「この歌をこのまま時代の彼方に埋もれさすには惜しい、誰かカヴァーして再び世に出してくれないだろうか」と熱を込めて語ったら、相手はゲラゲラ笑って全否定した。

「こんなド直球でセンシティブな歌詞の曲をイマドキの若いアイドルとかにカヴァーさせるとか、拷問に等しいでしょ」


ワタクシはこの曲の歌詞を「オトナの匂いがする」とは思ったが、露骨にセンシティブとは感じなかったので、相手の反応に少しばかり新鮮味を覚えた。そうか、聴く人によってはそう言う受け取られ方をしてしまうか…と、ワタクシは価値観の相違を面白く思った(同時に「深読みし過ぎじゃねぇ?」とも思ったが)。

そんな思い出の歌が長い年月を経て、MP3形式で販売されたのである。検索した自分が一番意外に感じたが、その数秒後には購入ボタンをクリックしていた。

アセクシュアルなワタクシが斯様なラヴソングを聴くのは傍から見たらおかしな話かも知れないが、ワタクシは自身が恋愛及び性愛に興味がないだけで他人の色恋沙汰を物語として楽しむのは寧ろ好きな方だ。
この曲はワタクシにどんな物語を幻視させてくれるのだろうか。眠れぬ夜のお供が、またひとつ増えた。
今夜にでも早速寝床で聴いてみよう。
曲のタイトル通り部屋を暗くして…流石にロウソクを炊いたりそれを手で覆ったりはしないけれど。

附記
記事を書いた後で気になって少しだけWikipediaで調べてみたら、嘗てHan-naのヴォーカルを務められていたシンガーソングライターの倉本ひとみさんが、2021年に肝臓癌で逝去された旨を知った。
余命宣告を受けた後も新しいプロジェクトを立ち上げ、命尽きる寸前まで精力的に活動されていたらしい。まさに音楽と共にあった生涯。
心より哀悼の意を。

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