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助詞「は」の不自然さを解消する(2)

こんにちは、よんのすけです。
「は」を使った訳文が不自然にならないようにするためのテクニックの2つ目です。前回は、「は」の使用時に格関係が不明確にならないようにするという注意点についてお話ししました。

今回は、「は」を伴う名詞を動詞から離しすぎないようにするという点について述べたいと思います。

〇動詞から遠くわかりにくい

訳文のレビューをしていると、「は」を伴う名詞は文の前の方に置かれることが多いように感じます。もしかすると、訳者が英語の語順を無意識にそのまま維持しているのかもしれません。これまでに説明したとおり、「は」の有効範囲は広く、文末の動詞にかかっていくと予想されるため、「は」と動詞の間に他の要素が挟まっていても基本的には問題ありません。
しかし、「は」とそれを受ける動詞があまりにも離れすぎると、相互の結び付きが不明瞭になります。そのため、両者が離れているようであれば語順を変えてみて、わかりやすい並びに変更した方が良さそうです。
次の例をご覧ください。

(1)Xサービスは、お客様が自社の環境においてサーバーを常に稼働させていなければならない場合に、特に役に立ちます。

「Xサービス」と「役に立つ」が遠いので近づけてみます。

(2)お客様が自社の環境においてサーバーを常に稼働させていなければならない場合に、Xサービスは特に役に立ちます

こちらの方が読みやすそうですね。少し並べ替えてみるだけで簡単に修正できます。

読みづらく感じるのは特に、「は」を伴う名詞と動詞の間に「主語+動詞」の構造や「目的語+動詞」の構造が入り込んでいる場合です。また、そういった入れ子になった構造に多数の修飾語がぶらさがっている場合はなおさら読みづらくなります。英語をただただ素直に訳していくだけだと、互いに関係を持つ要素が離れてしまったり、修飾語が多くなりすぎたりして、格関係が把握しづらい、わかりにくい訳文ができあがってしまうことが多々あります。翻訳者は訳文を作る際に、原文の文要素どうしの関係を解きほぐし、整理したうえで、理解しやすい語順で日本語にしてあげなければなりません。

例(1)をあらためて見てみると、「は」を伴う名詞と動詞の間に、主語、動詞、目的語その他を含んだ節(条件節)が挟まれています。このように条件節を主節中に挿入するのは避け、前に出す方が理解しやすくなります。文中に現れる主語+動詞構造や目的語+動詞構造が複数になる場合、各構造がなるべく入れ子にならないようにし、相互の関係が明確になるように注意することをおすすめします。

とはいえ、語順を決めるときには、前の文からの流れも考える必要があります。前の文が次のようであれば、「Xサービス」を次の文の先頭に持ってきてもよいかもしれません。

(3)Y社は、パフォーマンス、拡張性、効率性のすべてに優れたXサービスを提供します。

前の文が上記のようであれば、その新情報である「Xサービス」を次の文では旧情報として先頭に持ってくるのが情報提示の観点からは自然です。

(4)Y社は、パフォーマンス、拡張性、効率性のすべてに優れたXサービスを提供します。Xサービスは、お客様が自社の環境においてサーバーを常に稼働させていなければならない場合に、特に役に立ちます。

これは、2文目の主語が「Xサービス」ではなく「このサービス(this service)」になっているような場合も同様です。

(5)Y社は、パフォーマンス、拡張性、効率性のすべてに優れたXサービスを提供します。このサービスは、お客様が自社の環境においてサーバーを常に稼働させていなければならない場合に、特に役に立ちます。

「この」が指す指示対象が近くなるので、2文の流れがよくなり、誤解の余地がなくなります。
しかしそれでは元の木阿弥、主語と動詞が離れたままになってしまうので、可能であれば次のように変えてみます。

(6)Y社は、パフォーマンス、拡張性、効率性のすべてに優れたXサービスを提供します。Xサービス(or このサービス)が特に役に立つのは、お客様が自社の環境においてサーバーを常に稼働させていなければならない場合です

この変更はもちろん一例にすぎず、コンテキスト、文章で伝えたい内容、後続文とのつながり次第で元のままにした方がよいかもしれません。
とにかくここで大事なのは、原文の文意の伝達に支障がない範囲で、「は」を伴う名詞と、それに結び付く動詞とを離さないようにすること、そして「旧情報→新情報」の流れに注意して、指示語と指示対象を近づけてみることです。

※格助詞「が」の位置

余談ですが、格助詞「が」を伴う名詞も英語の語順に引きずられてか、文頭に置かれることが多いように感じます。「が」の場合も「は」と同様に、必ずしも文頭に来る必要はないので、動詞との間に長い要素がないかチェックする癖をつけたいものです。

(7)All the operations of a VM are intercepted to ensure that the VM can only access the allocated disk space.
(7')VMが割り当てられているディスク領域にのみアクセスできるよう、VM の操作はすべて捕捉されます。

このままの訳だと「VMが割り当てられている」のように読めてしまいます。誤読の余地がなくなるように、「VMが」が本来結び付くべき「アクセスできる」の前に移動させましょう。

(8)割り当てられているディスク領域にのみVMがアクセスできるよう、VM の操作はすべて捕捉されます。

これで読み間違いが起きることはなくなりました。

ここまでのまとめです。

● 翻訳では、英語に引きずられて「は」が文の前方に配置されやすい。
「は」を伴う名詞は必ずしも文頭に配置する必要はない。
●  動詞と離れている場合は、近づけることができないか一度検討してみる。
●  その際には、「旧情報→新情報の流れ」や「指示語と指示対象の距離」も併せて考慮する。

参考になったでしょうか?
「は」の有効範囲は広いため、主語と動詞の間に文要素が挟まっていても問題ないケースもありますが、まったく意識していないと読みづらい訳文になってしまう可能性があります。これを機に、名詞と動詞の距離に注意を払ってみてはいかがでしょうか。
次回は、「は」を使ったために主語と述語がねじれてしまったケースについて説明します。よろしければ引き続きご覧ください。

その3はこちらからどうぞ↓


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