(1)接続詞と階層構造:基本のはなし
こんにちは、株式会社テクノ・プロ・ジャパンの法務翻訳担当です。社名からはちょっとイメージしにくいのですが、弊社の専門分野の1つに「リーガル翻訳」があります。このコラムでは、法務系の翻訳に関するあれこれを書いていく予定です。よろしくお願いいたします。
さて、法律系の文書を書くときに真っ先に挙げられることが多いのが、接続詞の問題です。具体的には、「及び」「並びに」「又は」「若しくは」の使い分けです。既にさまざまな書籍、サイトで取り上げられている話ではありますが、軽く整理してみましょう。
注:上の例はいずれも2つのものを並べていますが、A, B and Cのように、並べる要素が3つ以上になる場合には、最後の2要素の間に接続詞を入れます。つまり「A、B及びC」となります。
こんな面倒なルールが存在する理由は、「条文構造を明快にし、内容をすばやく把握できるようにする」ことにあります。たとえば、以下の例文を見てみましょう。「又は」が3箇所使われていますが、それぞれ何と何を並べているか、すぐにわかるでしょうか。
1つめの「又は」が並べているのは「障害児」「重度障害児」「特別障害者」、2つめは「医師」と「歯科医師」です。ここまでは良いでしょう。では3つめの「又は」は? ちょっと骨が折れたのではないでしょうか。
実は、上の例文は引用元の条文があります。ただし、引用にあたって一部の接続詞を改変してありました。具体的には、「若しくは」を「又は」に変えてあります。正しい条文はこちらです。
3つめの「又は」が並べていたのは、以下の2つでした。
障害児、重度障害児若しくは特別障害者に対して、その指定する医師若しくは歯科医師の診断を受けるべきことを命じ(ることができる)
当該職員をしてこれらの者の障害の状態を診断させる(ことができる)
最初の例文のように、「若しくは」が全部「又は」になっていても、どうにか同じ解釈に至ることは可能だと思います。接続詞が違うばかりに条文の意味自体が変わることもありますが、上記改変例はそうなるまでには至っていません。ですから、改変例の方でも頑張って読めば上記解釈に至るはずです。ただ、「A又はBすることができる」のAとBがそれぞれどこまでかについては、内容以外に手がかりがなく、読解の労力が余分にかかります。
その点、「若しくは」があると助かります。なぜなら、「若しくは」があるということから、もっと大きな括りとしての「又は」があるはずだとわかるからです。「若しくは」が出てきた時点で、これはもっと大きな「A又はB」の一部だぞ、という心の準備をしつつ読み進めることができるわけです。そして、実際に「又は」が出てきて構造を把握しようという段階でも、Aがどこまでかを内容だけに頼らず、外形もヒントにしながら解決することができます。一見面倒なルールではありますが、正しい知識があれば文意の把握に非常に便利なものなのです。
では最後に、接続詞を使った文の構造を確認してみましょう。以下の文で、「又は」が並べているものは何と何でしょうか。可能性が複数ある場合には、すべて挙げてみてください。
答えは、「当社の事業体」と「当社が販売する製品若しくはサービス」です。「当社の事業体」と「当社」ではないのでご注意ください。仮にそういう切れ方をするのであれば、「若しくは」ではなく「又は」になります。