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法務翻訳つれづれ

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こんにちは、株式会社テクノ・プロ・ジャパン法務翻訳担当です。社名からはちょっとイメージしにくいのですが、弊社の専門分野の1つに「リーガル翻訳」があります。このマガジンでは、法務系… もっと読む
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記事一覧

(9)条・項・号とclause、section、paragraphその他:個人的な悩みどころ

こんにちは。テクノ・プロ・ジャパンの法務翻訳担当です。今回も「条・項・号」などについての話を続けます。前回はその基本的な使い方と、同じような場面で使われる英語表現をご紹介しました。そのうえで、訳す場合には、(たとえば、英日翻訳の原文が)SectionであれArticleであれ、具体的な状況に応じた語を充てていけば良いというお話をしました。今回は、私の個人的に悩んでいる点についての話をしてみたいと思います。 正統な表現と参照しやすさの対立たとえば以下の表現、具体的には「SEC

(8)条・項・号とclause、section、paragraphその他:基本のはなし

こんにちは。テクノ・プロ・ジャパンの法務翻訳担当です。今回のテーマは「条・項・号」です。最近、訳文を検討しているときにふと、この問題に少なからず悩まされていることを思い出しました。 日本語の「条」「項」「号」、「編」「章」「節」のように、英語にも条項およびその集まりを表す言葉がいくつかあります。「article」、「clause」、「section」、「paragraph」などです。英語ではこのあたりの単語の用法が必ずしも一定していないので、たとえば「section」=「節

(7)「場合」と「とき」

こんにちは。テクノ・プロ・ジャパンの法務翻訳担当です。コラムのネタ探しのために法律の条文を読んでいたら、こんな表現に出会いました。 「場合」と「とき」はどちらも条件を示す表現で、基本的には語感に応じてどちらを使ってもかまわないとされているのですが、上記条文の太字の「とき」は「場合」に変えることができません。この点がちょっと面白かったので取り上げることにしました。 「場合」と「とき」の使い分けが必要な場面さて、基本的には語感に応じてどちらを使ってもかまわないと書いた「場合」

(6)助動詞shall:義務表現を比較衡量する

こんにちは。テクノ・プロ・ジャパンの法務翻訳担当です。今回も助動詞shallについての話を続けます。 過去2回の話の内容(第4回、第5回)をまとめると、以下のとおりです。 「shall」を「ものとする」とすべしという意見には一理ある。でも、義務のshallにはもう少し義務であることがはっきりわかる表現を使いたい。 「する」は簡潔で良さそうだし、現実的にもよく見るけれども、これも周囲の内容なしで義務であることがわかるわけではない(=語句レベルでは、「ものとする」と同じく多

(5)助動詞shall:義務表現を求めて(「する」の検討)

こんにちは。テクノ・プロ・ジャパンの法務翻訳担当です。今回も助動詞shallについての話を続けましょう。 前回のまとめと今回のテーマ前回の話の要点をまとめると、以下のとおりです。 「shall」も「ものとする」も多義的で、その意味領域には被っている部分も少なくないので、「shall」の訳として「ものとする」を使うべしという意見には頷けるところがある。 ただ、契約書を読む目的、具体的には「どのような権利義務が書いてあるかをスムーズに把握したい」というニーズを考えると、義務

(4)助動詞 shall:「ものとする」で良いか

こんにちは。テクノ・プロ・ジャパンの法務翻訳担当です。今回は助動詞shallについてです。 もうはるか昔のことですが、どこかのWebサイトで「shallは義務を示すものなので、必ず『ものとする』と訳す」といったようなことが書いてあるのを見たことがあります。そこまで極端なのはまれだとしても、「ものとする」をshallの訳の1つに挙げている例は、本稿執筆現在でもそれなりに見受けられます。また、実際の法務文書の対訳でも、shallがある箇所にもれなく「ものとする」が使われているの

(3)なおも接続詞の話:かなで書くか、漢字で書くか?

こんにちは、テクノ・プロ・ジャパンの法務翻訳担当です。まだまだ接続詞の話が続きます。 さて前回、「又は/若しくは」(「及び/並びに」)の話に絡んで、こんな例文をお見せしました。「あるいは」以外で、どこか気になる点はありませんでしたでしょうか。 はい、「接続詞を漢字で書いていない」という問題です。それまでさんざん漢字で書いてきておいて、なぜこの例文だけひらがなだったのか。それは、翻訳実務では往々にして接続詞をひらがなで表記しているからです。「翻訳実務ではときおり『あるいは』

(2)接続詞と階層構造:「あるいは」という逸脱

こんにちは、株式会社テクノ・プロ・ジャパンの法務翻訳担当です。前回、法律文の接続詞について少し書きました。ルールはそれほど難しいものではありませんでしたし、最初は難しいと感じた方も、たくさん読んでいくうちにいずれ慣れます。しかし、実際の翻訳では悩む場面も少なくありません。 「英文契約書、1文が長くなりがち」問題その原因の1つが、「英文契約書は、日本語の契約書よりも1文が長くなりがちだ」という問題です。たとえば、以下の条文をご覧ください。長いです。 このくらいになると、「及

(1)接続詞と階層構造:基本のはなし

こんにちは、株式会社テクノ・プロ・ジャパンの法務翻訳担当です。社名からはちょっとイメージしにくいのですが、弊社の専門分野の1つに「リーガル翻訳」があります。このコラムでは、法務系の翻訳に関するあれこれを書いていく予定です。よろしくお願いいたします。 さて、法律系の文書を書くときに真っ先に挙げられることが多いのが、接続詞の問題です。具体的には、「及び」「並びに」「又は」「若しくは」の使い分けです。既にさまざまな書籍、サイトで取り上げられている話ではありますが、軽く整理してみま