見出し画像

顧客志向の落とし穴・その3

前回、「スポンサと顧客は違う」というお話をしました。プロバイダが最終的に満足させないといけないのはスポンサです。そりゃぁ、ユーザ(利用者)も満足させないといけないし、顧客も満足させないといけません。しかし、極論をいえば、

  ユーザを満足させるのは、顧客を満足させるため
  顧客を満足させるのは、スポンサを満足させるため

です。しつこいようですが、スポンサと顧客とユーザが同一人物の場合だってありますよ。その場合は少し簡単です。目の前にいるその人を満足させればいいのだから。それだって難しいけれど、三者が別の人である場合よりは簡単です。

顧客側に潜む、顧客志向の落とし穴

さて、顧客志向に基づき、顧客のニーズを適切に拾い、要求や欲求を満たす製品やサービスを提供したにも関わらず、顧客が満足してくれない、ということが少なからず発生します。また、顧客の言っていることが次々と変わり、その声を拾い続けた結果プロジェクトが納期までに終結せず破綻する、という事案も発生しています。さらに、顧客が望むものだけを作っていたのでは、差別化につながるような画期的な製品・サービスが生まれにくくなり、製品やサービスの同質化が進む(市場がコモディティ化する)という危険性もはらんでいます。

顧客が満足しない理由顧客のニーズを適切に拾っているにも関わらず満足度が低い、という事態が発生する原因のひとつに、顧客が自分たちのニーズを正確に理解していない、ということが挙げられます。

顧客がニーズを理解していない理由

顧客が自分達のニーズを正確に理解していない原因は大きく2つあります。

スポンサの目的・目標を顧客が正しく理解していない

顧客とスポンサが別人である場合、この傾向が顕著です。顧客がスポンサにとって達成したい目的・目標を正しく理解していない場合、顧客はプロバイダに誤ったニーズを提示してしまうことがあります。

例えばスポンサが売り上げ拡大のために既存のお客様との関係をより深めたいと考えているにも関わらず、顧客が売り上げ拡大のために新規のお客様を獲得したいというニーズにすり替えてしまうというような場合です。

これは、スポンサが顧客に正しく自分の目的・目標を伝えていないのかもしれませんし、顧客側が誤解をしているかもしれません。いずれにしても、顧客は「売り上げ拡大」という部分を短絡的に理解して「新規のお客様の獲得」というニーズを考え、プロバイダに要求します。ニーズがスポンサの目的・目標に合っていないため、ニーズを満たす製品やサービスを提供してもスポンサが満足しません。スポンサの不満は顧客に伝えられ、その不満は理不尽にもプロバイダに伝えられます。つまり、顧客を満足させられていないのではなく、スポンサを満足させられていないのです。


 顧客が自分のニーズを表面的にしか捉えていない

スポンサの目的を顧客が正しく理解したとしても、まだ注意点があります。顧客がニーズを深掘りせず、表面的にしか捉えていない場合、狭い枠組みから脱却できずに近視眼的な要求をプロバイダに出してくることがあります。

例えば、IT系の事例で恐縮ですが、社内のナレッジを一元化したいというのがニーズの本質なのに、顧客が「ナレッジの一元化といえばWiki」と短絡的に考えてしまい、プロバイダに「使いやすいWikiのシステムを作ってくれ」と依頼する場合があります。顧客とプロバイダとの間の会話は「Wikiにどういう機能を持たせるか」、「Wikiでどういう情報を扱うか」、「Wikiをどう使いやすくするか」という部分に留まってしまい、本質である「社内のナレッジを一元化する」というところにたどり着かずにシステムを構築してしまいます。出来上がったシステムがニーズの本質を満たすものではない場合、顧客はそこで自分のニーズの本質にはたと気付き「こんなんじゃない」と言い出すのです。

顧客志向の前に、目的志向を

最初に注意しておかなければなりません。世間一般で「目的指向型」というと、「問題回避型」と対比して使われる、動機付けられる行動の方向性のことをいいます。が、ここでの「目的志向」はそういう意味ではありません。

何時でもどんな時でも、常に目的を見失うな

という意味です。

顧客が達成したい本当の目的、顧客の後ろにいるスポンサの本当の目的に手を伸ばし、その目的を正しく理解・共有することこそが大切です。顧客のニーズを漫然と理解したり、言葉通りに受け取ったりすることなく、顧客やスポンサの本当の目的を深掘りする必要があります。

顧客から具体的なニーズが提示された際、必ず明らかにしておくべきことがらが2つあります。それは以下の2つの質問に表れます。

  そのニーズの最終的な目的は何ですか?
  なぜ、そのニーズが必要なのですか?

いずれの質問も、相手の最終的な目的にアプローチする、目的志向の考え方から発生しています。

トヨタさんの「なぜなぜ分析」とは少し違いますが、本質は似ています。「なぜそれをやるのか?」ということを、とことん突き詰めていきましょう。

さて、落とし穴はプロバイダ側にもあります。次回はそっちのお話をしましょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?