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【ぼくは"元"航空管制官】ステージ7 ~管制って何故アナログ? AIには任せられない?~

こんにちは。元航空管制官の田中秀和(たなかひでたか)です。
最近特にご質問をよく頂く「管制って何故アナログ?AIには任せられない?」について丁寧に解説したいと思います。

話を分けてご紹介したいと思いますが、まずパイロットとの交信についてです。パイロットとの交信は「バーバルコミュニケーション」と呼ばれる、無線交信を利用した口頭でのやり取りが主流です。ミスの温床ともなり易いこの部分は、不具合がある度に指摘を受けてきました。結論から申し上げると「順次データリンクも導入されているが、現状では無線交信のメリットがデメリットを上回っている。」と言えます。どういう事かと言うと、実は管制官とパイロットのテキストメッセージのやり取りはどんどん拡大されています。レーダーの電波が届かない様な洋上管制でCPDLC(Controller-Pilot Data Link Communication)が導入されたのを皮切りに、最近では主要空港での管制承認のやり取りもDCL(Departure Clearance by Data Link)が主流となってきました。そして更なる拡大も検討されています。即時性が求められない様なやり取りの場合には、データリンクを活用したテキストメッセージのやり取りは確実性が増し、非常に有効で、既に導入が進んでいます。一方で、秒単位での指示や動きが求められる様な、飛行場管制やターミナルレーダー管制では、無線交信による即時性は手放せないものとなっています。皆さんも、すぐに返事が欲しい場合にはリアルタイムのやり取りとなる電話をかけ、そうでもない時はLINEやメールを利用する等使い分けを行っているかと思いますが、それと同じです。また、会話の間や声色、更には強調する言い方から感情や意図を読み取ったり出来るのも口頭でのやり取りにしかないメリットと言えます。無線交信がコミュニケーションエラーの元となりやすいことは管制官もパイロットも十二分に認識していますが、技術革新と呼ばれる様なブレイクスルーがなければ、なかなか現状のバーバルコミュニケーションには代えられない状況なのです。よって、管制官もパイロットも無線交信には細心の注意を払い、また日々レディオテクニックを磨いています。

続いて「AIに任せられるか?」についてですが、これは現状無理としか言いようがありません。最近の事故や事案に伴って「システムやAIを導入した方が良い」と言う意見をよく耳にします。これについては私も同意します。しかし、現状すぐに取り入れられる様な完成形のものは存在していません。もしAIを活用した新技術を開発出来るのであれば、世界中の管制機関や運航者から引く手あまたとなるでしょうから、是非開発して頂きたいものです。例えば、10年以上前に私も利用したことがある「到着順位及び針路アドバイス機能」は全く使い物にならず、管制官の足下にも及ばないレベルでした。あれから時は流れ、AIもレベルが上がってきていますので、今作るとどうなるのかは私も興味があります。ただ、ポイント切り替えがあるとは言え、決まった軌道の上を前後にしか移動しない鉄道ではシステム化が進められても、未だ自動車等の自動運転やシステム化は実証実験段階です。更に上空で止まることが出来ず、上昇降下も伴う三次元の世界の航空機では、とてもとても機械に任せることなど出来ないレベルと言わざるを得ません。管制官同士でも意見が割れる程の選択肢がある航空管制のやり方を、どうAIに教えていくかも大きな課題です。

ただ、国立の研究機関である電子航法研究所等で今もまさに研究が進められている分野でもあります。これが研究段階から実証実験段階に移り、正式運用まで到達することを大いに期待しています。昨今、安全対策のためと管制官の増員が叫ばれていますが、同じ位安全のための新規技術の開発にも予算と人員を割いて欲しいと思っています。その技術が確立された時、きっと管制官達は背負ったものからようやく解放され、喜んでシステムに自らの役割を託していくことになると思います。次のステージもお楽しみに。
Good day!!

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田中 秀和(たなか ひでたか)
1983年生まれ、愛知県出身。「ぼくは航空管制官」や「ぼくは航空管制官2」をプレイし、航空管制官志望を固める。2001年国土交通省入省、那覇空港での勤務を経て2008年から2020年セントレアで航空管制官として勤務。2020年3月末に退職し、現在は全国の空港やミュージアムでの講演・トークショー、小中高校での職業講話、学童・児童センターで航空教室や紙飛行機教室等を実施する。テクノブレインではテクニカルアドバイザーを務める。Facebookアカウント:元航空管制官のCafe&Bar準備室

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