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アクティビストに学ぶ、敵をつくることの危うさ

アクティビストは悪者視されがち

  • 著者の丸木強氏は村上ファンド出身。通産省(現経産省)出身の村上世彰氏とは灘高校、東京大学の同級生。それほど付き合いがあったわけではないようだが、丸木氏が野村証券時代に通産省に出向したことで懇意になったようだ。

  • そんな丸木氏が村上ファンドを設立し、世間を騒がせるようになるのだが、どうやら当時は「若気の至り」とでもいうべき態度を見せていたようだ。

丸木さんは村上氏と灘高校、東大時代の友人で、野村証券を経て1999年にファンドの設立に参加した。村上氏の側近として知られ、自身も「こわもて」と恐れられた。「あの頃は『経営者をやっつけよう。倒そう』と考えていた」という。実際、当時買収を仕掛けられた企業の幹部は、村上氏や丸木さんを蛇蝎(だかつ)のごとく嫌っていた。

毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20221202/k00/00m/020/430000c
  • 本書の中にも、政府が全額出資する石油公団による政府補償の借入金利が長期プライムレートよりも高く、同年限で同じ信用力の国債よりも2~3%高いことを受けて「義憤に駆られた」と書いてある(P.202)くらいだから、よほど正義感が強いのだろう。

  • 天下りやら親子上場やら、経営者の堕落を前にして「義憤に駆られ」、「経営者をやっつけよう」と考えていたであろうことは想像にかたくない。

  • 村上ファンドがニッポン放送株の売買でインサイダー取引の容疑をかけられ、村上氏が逮捕されるに至るとやむなく解散となる。

  • そんな村上ファンドの中枢、丸木氏がアクティビストの「レピュテーション・リスク」を本書で掲げていると知れば、驚く人も少なくないのではないだろうか。

工場や店舗の閉鎖で人材が余っている会社があったとしても、ファンドの側から「リストラすべきだ」とはなかなか言えません。[…]一般的に誤解されがちなアクティビスト・ファンドなら、なおさらレピュテーション(評判・評価)リスクは避けたいからです。

P.116

我々アクティビスト・ファンドは、ただでさえ良いイメージを持たれにくいのに、さらに従業員を敵に回すような提案は控えざるを得ないのです。

P.188
  • 若造が立派な大人になった、とでも言うべきだろうか。実際に丸木氏は別の箇所で、村上ファンドの騒動を反省しているような記述も残している。

しかし周知のとおり世間を騒がせて2007年には解散。私はちょっとした責任感から、最後まで付き合おうと考え、同ファンドの残務処理を全て済ませたのでした。その後、投資運用を生業とする世界から距離を置きました。

P.205
  • ただ、これには日本企業、そして日本社会の問題点も見え隠れしているのではないだろうか。丸木氏の「義憤」はおそらく非合理的なものではない。至極真っ当な怒りであり、それをアクティビストとして行動に繋げたのは立派だ。しかしそれを、社会が許さなかった。同調圧力に屈しない外れ値を抹殺する日本社会。結果的に丸木氏という「出た杭」は元に戻された。

  • こんな恨み節を言っても仕方ないので、早々に結論に向かうとしよう。

  • アクティビストだろうが経営だろうが、敵を作ってしまうと危うい。いかに「義憤に駆られ」て行動に移そうとしても、それが「正義」と「とらえられない」状態に陥ってしまうと、その行動は無に帰す。

  • 丸木氏が再びアクティビストになるには、村上ファンドの解散から5年を費やしている。油の乗り切ったビジネスパーソンとしては、この5年間はあまりにも長い。丸木氏が支払った、そして日本の資本主義が支払うことになった機械費用は、いくらばかりか。

  • とはいえ本書では、丸木氏は歯に衣着せぬ物言いで、日本企業を斬っている。

  • ところどころは、敵を作らないように企業名や氏名を伏せて、攻撃している。以下では本書のKey Takeawayをまとめていくつもりだ。


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