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宇宙ビジネス ~ 100兆円市場に向けてITエンジニアはどう取り組むべきか ~

こんにちは。最近、宇宙ビジネスに関する話題をよく耳にするのでここでまとめてみようと思う。有名どころではNASAが提案している「アルテミス計画」がある。これは2025年以降に月面に人類を送り、その後、月に物資を運び、月面拠点を建設、月での人類の持続的な活動をめざす計画だ。

この宇宙ビジネスは2040年代には100兆円規模のビジネスになると期待されており、あなたの生活にも大きな影響がある可能性があると予想されている。そして、ITエンジニアにどう影響があるのかは気になるところだ。ITエンジニアで宇宙に関する知識を持つ人材は超レアだ。基本的な知識もない人間が殆どだろう。(何を隠そう私もその一人である)
この記事では基礎的な用語や、米国を中心とするIT企業の取り組み、そして宇宙の民主化について解説する。当然ながら、この分野に関しては知見があるITエンジニアが非常に少ないということはスキルさえ身に着けておけば将来的にあなたのキャリアにも大きなメリットがあるはずだ。

衛星

宇宙ビジネスについて最初に理解しておきたいのが衛星の存在だ。衛星は、天体の周りを公転する物体のことを指す。例えば月は衛星だ。その衛星を人口的に作り上げたものが人工衛星で地球周辺の宇宙空間には何万という数の大小さまざまな機器(衛星)が地球を周回して、様々な目的で利用されてる。
動画を視聴していただければ大量の衛星が地球を周回していることがイメージできると思う。


以下に、人工衛星の主な特徴と種類を簡単に説明する。

  1. 通信衛星:通信衛星は、地球上のある地点から別の地点への通信を中継する役割を果たします。テレビ放送、電話、インターネット接続など、さまざまな通信サービスに利用されています。

  2. 地球観測衛星:地球観測衛星は、地球の表面や大気を観測するために使用されます。気象予報、環境モニタリング、地質調査、農業管理など、多岐にわたる用途があります。

  3. 軍事・偵察衛星:軍事・偵察衛星は、主に国防や軍事情報収集の目的で利用されます。敵国の動向や戦闘機・ミサイルの監視、通信傍受などが主な用途です。

  4. ナビゲーション衛星:ナビゲーション衛星は、みちびき(日本)、GPS(アメリカ)、GLONASS(ロシア)、ガリレオ(欧州連合)、BDS(中国)などの衛星測位システムを構成し、地球上の位置情報を提供します。自動車のナビゲーションシステムやスマートフォンの地図アプリなどで利用されています。

  5. 宇宙探査衛星:宇宙探査衛星は、宇宙空間や他の惑星・天体の観測・調査を行うために使用されます。月や火星の探査、天文学的観測などが主な目的です。

衛星の軌道

また、衛星はその高さや軌道の形状によって様々だ。以下に、主な軌道の種類とその特徴を説明する。

  1. 低軌道 (LEO: Low Earth Orbit): 低軌道は、地球の表面から約160kmから2,000kmの高さに位置する軌道です。衛星が地球の表面に近いため、通信遅延が少なく、高解像度の地球観測が可能です。しかし、軌道の高さが低いため、衛星の寿命が短くなりやすいのが欠点です。一部の通信衛星、地球観測衛星、気象衛星などがこの軌道を利用しています。

  2. 中軌道 (MEO: Medium Earth Orbit): 中軌道は、地球の表面から約2,000kmから35,786kmの高さに位置する軌道です。GPSやGLONASSなどの全球測位システム(GNSS)の衛星が主にこの軌道を利用しています。通信遅延は地球低軌道よりも大きくなりますが、衛星の寿命は長くなります。

  3. 非静止軌道 (NGSO: Non-Geostationary Orbit): 非静止軌道は、地球の赤道面に対して傾いた軌道を持つ衛星の軌道で、地球低軌道や中軌道を含みます。衛星が地球の周りを回転する速度が地球自体の回転速度と同じではないため、地上から見ると衛星が動いているように見えます。

  4. 静止軌道 (GEO: Geostationary Orbit): 静止軌道は、地球の赤道面上におよそ35,786kmの高さに位置する軌道です。衛星が地球の周りを回転する速度が地球自体の回転速度と同じであるため、地上から見ると衛星が常に同じ位置にあるように見えます。通信衛星や気象衛星などがこの軌道を利用しています。ただし、通信遅延が大きいのが欠点です。

これらの軌道はそれぞれ特徴や利点、欠点があり、衛星の用途や必要な性能に応じて選択される。例えば、低遅延の通信を提供するためには低軌道が適しているがカバー範囲が狭いため、多くの衛星を使ってネットワークを構築する必要がある。一方、静止軌道はカバー範囲が広いため、衛星の数が少なくても広範囲をカバーできまるが、通信遅延が大きくなるという欠点がある。最近の小型衛星を用いたインターネット接続サービス(例:SpaceXのスターリンク)は、地球低軌道に多数の衛星を配置し、低遅延で高速なインターネット接続を提供することを目指している。これにより、従来のインフラが整っていない地域や遠隔地でもインターネットが利用できるようになり、デジタル格差の解消や教育、医療、経済など様々な分野での進歩が期待される。

Ground Station(地上局)

地球上に設置された通信施設で、宇宙船や人工衛星と通信を行い、データの送受信や制御を担当するシステムだ。地上局は、宇宙からの情報を受信し、地球上のネットワークやデータ処理システムに接続する役割を果たす。また、地上局は、宇宙船や衛星の軌道制御や状態監視、運用計画の立案などの指令を送信するも可能だ。つまり地上局は衛星との双方向通信が可能である。
地上局は、通常、アンテナ、受信機、送信機、データ処理装置、通信インフラストラクチャなどから構成され、宇宙通信の品質や効率を向上させるため、地上局は適切な周波数帯や通信プロトコルを使用して、宇宙船や衛星との通信を行う。また、地上局は地球全体に複数設置され、衛星や宇宙船が視界内に入るたびに、データの送受信や制御が可能になる。

米国企業の取り組み

大手IT企業は既に宇宙ビジネスへの取り組みを開始している。例えばGoogle, AWSやAzureでは従来は設置に非常に手間とコストがかかった地上局を従量課金で必要な時に必要なだけ利用することが可能だ。(とは言えば相変わらず非常に高価ではある)
各企業から現時点で公開されている情報をいくつか紹介しておこう。

Amazon/AWS
ジェフ・ベゾスが設立した民間宇宙開発企業(Blue Origin)では、観光目的の有人宇宙飛行や小型衛星の打ち上げを行ています。また、Kuiperという小型衛星を利用したインターネット通信サービスの開発も進めており、インターネット接続の未来を変革する予定です。またAWS はGround Station(衛星データをダウンリンク(地上への送信)するためのグローバルな地上局ネットワークサービス)や小型のエッジコンピューティングデバイスSnowconeをSpaceXの宇宙船「Crew Dragon」に搭載して宇宙へ打ち上げています。

Facebook
Athenaと呼ばれる小型衛星の開発を開始しました。Athenaは、低軌道(LEO)に配置され、高速なインターネット接続を提供することを目的としている。衛星通信を活用したインターネット接続プロジェクトは、同社のインターネット接続普及を目指すイニシアチブである「インターネット・オブ・エブリワン」(Internet.org)の一部です。インターネット・オブ・エブリワンは、地球上の未接続地域にインターネット接続を提供することを目的とし、衛星通信のほかにもドローンや高度な無線通信技術など、さまざまな手段を模索している。

Microsoft
宇宙産業向けのクラウドコンピューティングサービス「Azure Space」を展開してる。衛星データの処理や分析、地球観測データの利用、宇宙通信など、宇宙ビジネスに関連するさまざまなサービスを提供している。AWSと同じくGround Stationをサービスとして提供している。また、Loft Orbital の衛星が2024年に打ち上げられる予定であり、政府や企業は Azure 環境内で宇宙用ハードウェアにソフトウェアアプリケーションをシームレスに展開できるようになる予定。

Google
衛星データを利用した地球観測データの提供や解析サービスを展開している。Google EarthやGoogle Mapsなどのプラットフォームを通じて、宇宙から得られる情報を活用して地球上の状況を把握・分析し、さまざまなビジネスや研究に役立てている。通信衛星コンステレーションStarlinkに取り組むSpaceXとクラウド領域でのパートナーシップを締結し、Googleが所有するデータセンターの敷地内にStarlinkの地上局を設置することが発表された。

ITエンジニアにとっての宇宙の民主化

クラウドベンダーや通信会社、NASA、JAXAなど多くの企業努力により、近い将来、宇宙開発や宇宙技術に関連する情報やリソースにユーザーが平等にアクセスできるようになることが予想されている。民主化により、より多くのITエンジニアが宇宙産業に関わることができ、技術革新や新しいビジネスモデルを生み出す可能性が高まる。具体的には以下のような点が挙げられる。

  1. 教育および研究機会の拡大:宇宙技術に関する教育や研究機会がより多くのITエンジニアに開放され、専門知識や技能を習得しやすくなります。

  2. 開発ツールやリソースのアクセス:従来は国家や大企業が独占していた宇宙開発に関連するツールやリソースが、個人や中小企業にも利用可能になることで、多様なアイデアが生まれる可能性があります。

  3. コラボレーションの促進:宇宙の民主化によって、異なるバックグラウンドや専門分野を持つITエンジニアが協力してプロジェクトに取り組む機会が増え、イノベーションが促進されるでしょう。

  4. 宇宙産業の市場拡大:宇宙関連技術の民主化により、より多くの企業や個人が宇宙産業に参入しやすくなり、市場規模が拡大することが予想されます。これにより、ITエンジニアにとって新たな雇用機会が生まれるでしょう。

  5. 一般市民への技術普及:民主化された宇宙技術は、一般市民にも利益をもたらす可能性があります。例えば、衛星インターネットや宇宙観光などのサービスが普及し、人々の生活に新たな価値を提供することが期待されます。

今回はかなりハイレベルな宇宙産業の概要をご紹介しました。次はさらに含みこんだ技術的な内容についても書きたいと思います。


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