Recover2


 レーナは昔からいたずら好きで、よく親であるラルスをからかっては楽しんでいた。いつも元気で明るく笑顔が何よりも可愛くて。妻にそっくりな娘はラルスの宝物だった。野菜が大好きで魚はちょっぴり苦手なレーナは、ご飯を食べるときでさえもいろんな表情を見せてくれて、一緒にいる時間が、一分一秒がとても幸せだった。
 でも、今日は違う。今日だけは。
「レーナ、どこにいるんだ…!」
 家の中もいつもと違う気がする。空気というか、なんというか。ヤツらが来たからなのか、何なのか。ラルスにはよく分からなかったが、この違和感が胸の中から消えていくことはなかった。
「また揶揄っているだけなら、いいんだが…」
 そう思いながらも、ラルスは家の中を小走りに進む。普段隠れていないような場所も、隠れられないだろうという場所も。至る所を探しまくった。
 それでも、レーナが出てくることはなかった。
 家の中ではないなら外を探してみよう、とラルスは家から出た。そこで耳にした情報に、ラルスは目の前が真っ暗になった。
「なあ、聞いたか? 小さい女の子がヤツらに攫われたらしいぞ…」
「まじか!? にしても、こんな人里離れた小さな村に何の用があるんだか…」
「ほんとなぁ…物好きもいたもんだ」
 そんな近所の人たちの話をぼんやり聞いていたラルスは、その人たちにゆらりと力なく近づき、詳しい話を聞き出した。
「……なぁ…その女の子って、9歳くらいの子だったか? 綺麗な金色の髪の毛を、こう…後ろで結っている…」
「…っ!? あ、あぁ。そうだったような…」
「…ヤツらがどこに行ったか分かるか」
「いやぁ…」
「それよりもあんた、大丈夫か…?死神みてぇな顔してっけど…」
 そんな心配の言葉も、いまのラルスの耳には入らなかった。もういい、とだけ一言残し、ラルスは家に戻った。
 攫われた娘、レーナを探すために、旅に出るのだ。荷物を持たないことには何もできない。地図や必要最低限の食料、衣服など。硬貨は今まで貯めた分全部持って。
「…待ってろよ……今、パパが見つけてやるからな…」
 娘とのかくれんぼは得意分野だ。普段からどれだけレーナを探していると思っているんだ。たとえ状況が普段と違っても、探して見せる。そう意気込んでラルスは荷物の一番上に家族写真を置き、静かにカバンのチャックを閉めた。
「妻も娘もいなくなってしまったら、俺は…」
 そこまで考えて、ラルスはやめた。不安になってどうするんだ、今一番不安なのは間違いなくレーナのはずなのに…と。
「俺の、今やるべきことは、レーナを探し出すこと。そして……いつもの笑顔で、”みいつけた”って言うんだ…」
 帰ってきたばかりの家にいってきます、と言い残しラルスは家を出た。
 バタン。と乾いたドアの閉まる音がやけに大きく聞こえた。気がした。




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