「ゲノム編集×医療」~立ちはだかる技術的・倫理的課題~


ゲノム編集の医療への応用は既に進んでいる。

しかし背景には、ゲノム編集の失敗によって人の生命を脅かす可能性がある等「技術的課題」と、人間の設計図である遺伝子を操作することに対する「倫理的問題」が存在する

これら2つの問題について考察していきたい。


技術的課題

①病気の遺伝子情報の解析が必要

そもそもゲノムとは、英語の「gene=遺伝子」と「ome=集まり」を一緒にした造語で、あらゆる生物が持つ遺伝子情報全体を意味する。
そして、ゲノム編集治療は、遺伝子の集まりであるDNAを狙い通りに操作する。

つまり、「がん」や「糖尿病」など、現代人を苦しめている様々な病気の根本原因を、遺伝子レベルで解明された病気でないと、ゲノム編集治療は施せない。

これらの病気は、複数の遺伝子変異が、日頃の生活習慣・環境などと密接に絡み合いながら引き起こされる複雑な病気である。

残念ながら現時点では、遺伝子レベルでの発症メカニズムが解明されている病気は少なく、また、今後解明されるまでには相応の時間がかかる。

➁オフターゲット効果

オフターゲットとは「狙いを外す」という意味である。ゲノム編集においては、狙った遺伝子とは異なる遺伝子を削除したり、書き換えてしまう現象を指す。
確立はどのくらいなのか?
マウスの受精卵をゲノム編集する場合の成功率は90%以上である。
しかし、同じ哺乳類でも、マウスより高等な動物である猿や私達人間が相手となると、ゲノム編集の成功率は低下する。ケースバイケースだが、一般的に人間の細胞をゲノム編集する場合、成功率は数十%と考えられている。

一度細胞を体外に取り出してからのゲノム編集は可能だが、体内でゲノム編集するには、精度が足りていないので、科学者たちの更なる研究が求められる。


倫理的課題~デザイナーベイビーの誕生~

ゲノム編集によって、「親が、これから生まれてくる子供を望みどおりに設計してしまう」という危険性が生命倫理学者から指摘されている。

今後、ゲノム編集の医療への応用が進み、「がん」や「糖尿病」の原因を根絶することも可能になるかもしれない。

しかし、応用が進むにつれ、どこかで「治療」と「それ以外の目的」の境目が曖昧になる恐れがある。

「美しくなりたい」「背を高くしたい」と際限なく人間の欲望が広がっていくかもしれない。

こうなると、デザイナー・ベイビー時代が到来するが、現時点でこうした驚愕の未来に対する社会的な議論や備えはほとんど為されてなく、早急な対応が求められる。

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