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鰹節けずり器を買う前に、読んで欲しい話。

ふわふわの鰹節削りたい

 カンナを使って、鰹節を削る。テレビなどでもよく観ますが、カンナと鰹節を準備すれば誰でもきれいに削れる・・・というわけではありません。

「カンナと鰹節を揃えたのに、うまく削れない。」
「削っても、全部粉になってしまう。」

よくお客様から相談を受けます。でも、それはある意味では当たり前なんです。

 例えばキャベツの千切りを想像してみてください。包丁とキャベツがあれば誰でもきれいに千切りができるわけではありません。慣れなければ、太く切れてしまったり、びろ~んと繋がって上手に切れてなかったり・・・。きれいに千切りにするには、ちょっとしたコツが必要です。

 もうひとつ。ちゃんと切れる包丁も必要です。どんなに上手な人でも、100均の包丁では、最初はある程度きれいに切れるかもしれませんが、徐々に切れ味が悪くなり、長くきれいに切るのは難しいと思います。

 必要なのは、ちょっとしたコツと良い道具。鰹節を削るのも同じことなんです。

まずは、道具を準備

鰹節削り器・カンナの選び方

 では、どんな道具を買ったら良いんのでしょうか?
 
 やはりきれいに削るには、それなりに良い道具が必要になります。カンナも包丁と同じ刃物。簡単にいうと切れ味の良い、刃のしっかりしたカンナを準備するのが一番です。切れ味が悪いカンナでは、削りなれた人でも上手に削るのは難しいのです。

 ここからは個人的な考えですが、カンナの良し悪しを見分けるには、刃の厚さを見るのが一番簡単だと思います。写真を見ていただくと、刃の厚みが違うのがわかると思います。
 基本的に、刃が厚いカンナの方が良く削れ、その切れ味も長持ちします。もちろん、刃の材質やカンナ台の素材などによっても変わりますが、基本的に刃の薄いカンナは切れ味が劣るので避けた方が良いと思います。もし実際にカンナを手に取って選ぶ機会があったら、比べてみてください。

カンナの刃の厚さ。安価なものは刃も薄い。

 とはいえ、良いカンナを買おうと思ったら、それなりの金額になります。最初からそんな高いものは・・・とお考えの方は、中古のカンナを探してみるのも良いと思います。
 フリマサイトなどでもたくさん出品されていますし、おばあちゃんやおじいちゃんが使っていた古いカンナをひっぱり出してくるのも良いと思います。安価な新品のカンナよりも、古くても刃が厚く、しっかりしたカンナの方が間違いなく良く削れます。カンナは刃物ですので、刃物屋さんに持っていけば、しっかりと切れ味がよみがえります。新品よりもかえって昔の道具の方がしっかり作られていて、使いやすいということもよくある話です。お店にもよりますが1,500円程度で研ぎなおしてくれるはずですので、カンナを買う前に少し思い出してみてください。

我が家で使っているカンナ。安来鋼青紙の刃を使用

これは絶対に必要!!忘れがちな必需品。

 カンナを準備したら、必ず必要なのが木づちです。新品で高いカンナを買い、さあ削ろうと思っても全く削れない・・・。これもよく聞く話です。カンナは刃の出具合の調整が必要になります。
 親切な店なら購入時に刃の出具合を調整をしてくれますが、意外と工場で箱に梱包されて、そのまま箱を開けることなくお客様の手元に届くことも多いように感じます。
 刃の調整の仕方は、後で紹介するとして、カンナは木づちで叩いて、刃の調整をするので、これがないと始まりません。ちなみに、金づちはカンナの台の木を傷めてしまうので、使うことはできません。

カンナ以外の削り器も

 ここまでカンナについて書いてきましたが、カンナ以外にも鰹節を削る方法があります。冒頭のキャベツの千切りの話でいえば、包丁ではなくピーラーで簡単に切るような方法です。
 鰹節削り器の「オカカ」を使えば、カンナで削るよりも簡単に鰹節を削ることができます。やり方は、節をセットしてレバーをくるくると回すだけです。

削り器「オカカ」 鉛筆削り器の要領で削ることができます。

このオカカの便利な点は
①刃の調整やメンテナンスが不要。
②節が小さくなっても最後まで削れる。

 この「オカカ」だと、カンナで削る時に苦労する刃の調整が一切必要ありません。さらに、ねじで簡単に刃が外せるため、刃の交換も簡単にできます。替え刃も付属しており、新しい刃も400円程度で購入できます。

 オカカで削る場合、一つ注意しなければいけないのは、あまり大きい節だと節の差し込み口に入らない点です。ほとんどの節は大丈夫ですが、極端に大きい節は避けた方が良いと思います。

削り器を買う際の候補に加えてみてください。

鰹節を準備しよう

さあ道具を揃えたら、いよいよ鰹節。ただ、鰹節と言ってもどんな鰹節を買ったらよいのでしょうか。

鰹節の男と女?

 鰹節を買う時に皆さんが最初に戸惑うのが「男節」「女節」の違いではないでしょうか。これは鰹の性別が違うわけではなく、使っている鰹の部位の違いです。鰹節をつくる時、鰹を右半分と左半分におろし、さらにそれを背中側とお腹側に切り分けます。その切り分けた背中側の節を「男節(おぶし)」、腹側の節を「女節(めぶし)」と呼びます。またサイズの小さい鰹の場合、背中側とお腹側に切り分けずに鰹節にします。そのようなを節を亀の甲羅に似ていることから「亀節(かめぶし)」と呼びます。

背中側が男節、お腹側が女節です。一匹から2本ずつできます。

 男節と女節では、節の形が異なり、お腹側の女節の方が少し反ったような形をしています。また、女節のお腹側のすこし厚みが薄い部分はどうしても粉になりやすいので、気になる方は男節を選ぶと良いと思います。

男節(右)と女節(左)

 一般的に味については、お腹側の女節の方が比較的脂がのっているため、味にコクが出ると言われています。背中側の男節の方は比較的筋肉質で脂が少ないため、ふんわりときれいに削りやすいと言われています。ただし、鰹も人間と同じで、筋肉質の鰹もいれば、太っている鰹もいます。そのため、男節と女節の部位による差よりも、鰹一匹一匹の個体差の方がはるかに大きいため、男節と女節の差をそこまで気にする必要はないと思います。

どこの産地の鰹節がいいのか?

 では、どんな鰹節を買ったらよいのでしょうか?

 鰹節の産地はいくつかありますが、一番大きな産地が鹿児島県です。日本一の生産量を誇る枕崎市、本枯節の生産量日本一の指宿市の山川地区があります。次にやまじゅうのある静岡県。鰹の水揚げ日本一の焼津市、生産量は少ないですが、御前崎市や田子節で有名な西伊豆町なども産地です。他にも、土佐節で有名な高知県、波切節の三重県などでも鰹節が作られています。

 では、どこの産地の鰹節を買えばいいのでしょうか?

 結論から言うと、現代では産地による違いはほとんどありません。鰹節の原料となる鰹は、9割以上が遠洋漁業で赤道付近の同じ漁場で漁獲され、全国の産地の各港に水揚げされていますし、産地によって製法が違うということは、ほとんどありません。

良い鰹節の見分け方

 ただ、どの鰹節も同じかというと、答えはNOです。

 産地による違いはほとんどありませんが、製造している工場によって完成する鰹節の出来は全く違います。これは、お気に入りの工場や作り手を見つけるしかありません。大量に出回っているものもあれば、少しずつ丁寧につくっている工場もあります。

 それでも一つ簡単な見分け方を紹介するなら、鰹節の皮をよく観察してみてください。基本的に鰹節は脂が少ない鰹の方がきれいに削れます。脂のあるなしを判断するのが、鰹節の皮のシワです。脂ののった鰹節は皮にしわがよっており、脂の少ない鰹はしわがピタッと身についています。なかなか判断するのは難しいですが、見比べてみてください。

極端な例ですが、左右の節では皮のシワが違います。


同じ重さでも脂がない節はふんわり削れます。

 もう一点、鰹節を選ぶ時に参考になるのが、原料の鰹の漁獲方法です。現在の鰹節の原料となる鰹は「まき網」と呼ばれる大きな網で一網打尽に漁獲する方法が主流で、全体の95%ほどがこのまき網で漁獲された鰹を使っています。残りの数パーセントは、一本釣りという漁法で獲られた鰹です。一本釣りの鰹は、鮮度が良く、比較的脂の少ないものが多いため、割高ですがきれいに削れるものが多いと思います。

ただ、どんな原料の鰹を使ったかよりも、どこの工場がつくったかの方が重要だと思います。個人的には、あくまで参考程度に考えれば良いように思います。
 

鰹節を削ってみよう

まずは刃の調整を

 道具と鰹節が揃ったら、まずはカンナの刃を調整してみましょう。「鰹節が上手に削れない」と相談にいらっしゃるお客様のカンナを見せていただくと、ほとんどのお客様のカンナは刃が出すぎています。うまく削れないと刃を出して、それでも削れないとまた刃を出して・・・の繰り返しでどんどん刃を出しすぎてしまうんだと思います。

刃の調整方法


 カンナの刃は、出すぎても引っ込みすぎても、粉になってしまう為、しっかりと削れません。最初は、鰹節が刃に当たらなくなるまで引っ込めてから、ギリギリ削れるくらいまで少しずつ徐々に刃を出していってください。紙一枚程度の刃の出具合になるように、木づちでカンナ刃のついている木(かんな台)の端を木槌で軽く叩いて行います。



 鰹節が削れて、平らな面ができるまでは、どうしても粉になりやすいと思いますが、平らな面ができて、 カンナとの接地面が大きくなってくると、きれいなけずり花になります。

鰹節を削る方向

 また削る方向も大事です。鰹節は皮がついている方が鰹の尻尾側になります。 魚を包丁で捌く時を思い出してみてください。尻尾を掴んで、頭の方に向かって包丁をおろしていきます。

鰹の生切り(包丁で三枚おろし)

 鰹節も同じで、尻尾の方向から刃を入れた方がキレイに削ることができます。逆向きだと、粉になりやすいので、注意してください。押して削っても、引いて削っても構いませんが、削る方向は注意してください。

黒くなっている部分が皮です。

鰹節を削る角度

 削る角度も重要になります。カンナと節との角度を少しつけて削ると、節を持ちやすく、削りやすいと思います。削り始めは節が安定しないので大変ですが、最初は頑張って角度をつけて削ってみてください。

15度~30度くらいが目安です。

 また、削る時には最後まで削り切ることも大事です。削れている途中で、節を戻してしまうと、節を戻した地点で段差ができてしまい、それを繰り返すと、節の断面に凹凸ができてしまい、削っても粉になってしまいます。凹凸ができると、スムーズに削れないため、さらに節の削れている面の途中で削るのを止めてしまい、断面が凹凸だらけになってしまいます。

 あとは平らな面を長く作るように、刃に節を押し当てながら押すような感覚で削ってみてください。最初から上手に削るのは難しいと思いますが、一度コツをつかめば、決して難しくはないと思います。くれぐれも手を切らないように気をつけて挑戦してみてください。

平らな面をしっかり作るのが、きれいに削るコツです。

さいごに

 ここまで説明してきましたが、実際に手に取ってチャレンジしてみなければ、私の下手な説明だけでは中々わからないと思います。
 是非、カンナを買う時(もしカンナを持ってる方は節を買う時)に、鰹節の専門店に足を運んで、削り方を教えてもらってください。カンナを持っていくのも良いと思います。私自身、お店で削り方の相談を受けることがよくありますが、こんな便利な時代に鰹節を自分で削ろうとしてくれているお客様に出会うと、とても嬉しい気持ちになります。どこの鰹節屋さんでも構いませんので、ぜひ相談してみてください。自分で鰹節を造っている工場なら、喜んで教えてくれると思います。
 最後になりますが、皆さんが素敵な鰹節生活を送れることを祈っています。