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8億円資金調達(シリーズA)の舞台裏:VC数社/VC1社のどちらが良いか

2021年10月、グロービス・キャピタル・パートナーズ社(以下GCP)を引受先とした第三者割当増資を実施し、8億円のシリーズAラウンドを完了しました。

一般的に、シリーズAでは3~5社程度のVCから調達します。特に8億円という規模でVC1社からの調達はとても珍しいディールで、GCP側が弊社を評価してくれたから実現したわけですが、今回の記事ではなぜこのようなスキームを選択したのか起業家目線で解説します。

※GCP側にもインタビューしてるこちらの記事を併せて読んで頂くとよりわかりやすいかと思います。

( 貴山 @tkiyama )

複数VC/単独VCのどちらが良いか、のフレームワーク

起業家とVCの関係性や創業からの経緯でいろいろ条件が変わりますが、シンプルに書くと、この順番で判断することになるかと思います。

■ まずはこれ
・起業家側の希望調達金額を全額だしてくれるVCがいるか
・特定のVC1社の影響力が高まることを良しとするか

■ 両方ともYESの場合
・経営のスピード感
・VCのコミットメント度合い
・複数VCが入ることによる知見とネットワーク
のメリット/デメリットで総合判断する。

「最短距離を走りたいから」が一番の理由

今回の資金調達をGCPとだけやらせてもらったのは、GCPとは「経営陣と外部投資家」ではなく、同じ「経営チーム」という感覚があって、このモメンタムのまま最短距離を走りたい、というのが一番の理由です。

起業したからには世界を変えたくてやってるわけで、そのためのベストな座組を選択する上で「GCPとだったら最短距離を走れる/走りたい」と思ったわけです。
これってかなり感覚的で、日々のコミュニケーションから自然と出てきたものだったんですが、なんでそう思ったんだろうと振り返って理由を列挙してみました。

■ 毎月の役員会が「今回も良かったなぁ」と思える
様々な議論をしている中で、特に「目線を引き上げてくれる」というところは大事だなーと思います。ビジョンとか戦略とか外向けにはかっこよく言うわけですが、実際は日々の経営でケツに火がついてるので、自然と目線は下がって気づいたら垂直足元を見てたりします。というところを、「こんなんじゃダメじゃね?」と言われてハッとすることがよくある。

■ IPOに向けたファイナンスラウンドの組み方のアドバイス
これは相当な安心感。IPO/資金調達、という点では私の知見は貧弱で、そこを舵取りしてもらえるので事業に集中できてます。

■ フェア
GCPのみなさんは、なんというかみんなフェアなんですよね。良いことも悪いこともはっきり言うし。あと、いろいろ言うけど、VCの意見が正しいとは限らないし、そもそも正解不正解はやってみないとわからないし、最後に決めるのは起業家だよね、という大事な一線を持ってるなーと感じます。

■ GCPX
何もかも足りないスタートアップにとって、一番大事なのは採用。もうとにかくここ。GCPには投資先の採用支援をやるGCPXという組織があって、ものすごくサポート頂いてます。これからもよろしくね。

と、ここまでいろいろ書いたんですが、長くビジネスやっていると、想定をはるかに超えたネガティブなことが起きるのを何度も目撃しています。なので、GCPへの信頼とは別次元で、VC1社のみというスキームが本当に良いのかどうか、資本政策は後戻りできないので後悔ないように、GCP/顧問弁護士/エンジェル投資家陣と相談しました。

以下、相談する中で出てきたメリット/デメリットの論点を解説します。

GCPの出資比率が高すぎて拒否権を握られてしまう

気分の違いはありますが実質的には一緒なので、実はあんまり関係ないです。
通常、VCから資金調達するときは優先株で、投資契約条件の中で(特にリードの)VC側は重要経営事項の拒否権を握っています。
とはいえ、契約書以上に会社法あるいは気分的に拒否権が明確になる、というのはありますね。

次のラウンドで他VCが入りにくい

リードをとりたいという明確な意思をもったVCの場合、Tebiki社はGCPの色がついているので敬遠される可能性はあります。
ただし、対象ラウンドでのリードが重要であって、過去累計のシェアはさほど重要ではない、という考えもあるし、レイターを専門にやっている投資家は気にしないところが多いと思われます。

違う知見を持つ/次のラウンドにつながるVCを入れておいたほうがよい

これはそのとおりなので、メリットとの兼ね合いの判断になります。

ただし、外部株主が多いほどコミュニケーションの量は増えるし、重要案件の意思決定が一致しないと当然時間がかかります。人数が多いほど会議の生産性が下がるのと一緒。あと、地味なところでいうと、外部株主が決議事項のハンコをすぐに押してくれなくて困る、というのはよく聞きます。

また、小さなシェアのVCがどれだけコミットしてくれるの?ということは冷静に判断した方が良いと思います。こちらのCoral Capitalのブログに詳しい。

次ラウンドの保険として他VCに入ってもらう

今回でいうと、例えばGCPとA社に入ってもらって、GCPが次のラウンドでフォロー投資してくれないときはA社に助けてもらう、という考えです。

弊社の事業成長がものすごいイマイチで、私含めた経営陣への評価もだだ下がりでGCPがフォロー投資に応じてくれない、というのがあり得る可能性なんだけど、そのときにはA社も追加投資しないよね、とは思いますが状況次第ではあります。

VC1社が持ちすぎると上場時に問題になる

VC1社でも複数社でも同じなので、これは問題ではないです。

次ラウンドの企業価値(バリュエーション)が下がる

GCPの決定権が強いので、次ラウンドでGCPがリードをとるとしたら、バリエーションを抑えて高いシェアを少ない投資額でとれるよね、というロジックです。要は、コンペにならないからバリエーションを引き上げるモチベーションが働かない。

弊社の場合でいうと、うーん、まーないなー、という感じです。

・次ラウンドではレイターを主戦場とするVCが入ってくる可能性が高い
・相場から乖離した数字を出すとレピュテーションに響く
というのもあるんだけど、なによりも、今回ラウンド(シリーズA)がコンペになってないけどGCPは弊社を高く評価してくれました。常にフェアバリューで出すVCだと思います。

VC側の担当者が変わったらどうなるかわからない

これはそのとおりなんですが、個人商店の集まりのようなVCが多いなか(これ自体は悪いことではないと思います)、GCPは組織で動いている感じがあります。普通の大企業と比べると担当者が変わってしまう可能性はかなり低いですが、GCPなら担当者が変わってもひどいことになることはないと思ってます。

GCPの組織方針については高宮さんの記事に詳しい。

VC側のコミットメントが上がる

出資比率が高いとIPO時のリターンが大きいのでコミットメントが上がる、というのはあると思うんですが、それよりも、同じ投資家とだけ組むのってお互いのメンタリティが違う気がします。なんというか、俺はおまえと上に行きたいんだ的な。濃い関係になる。

結果どうだったか

このスキームが正解だったかどうかは結果で判断されることですが、とりあえず現時点の成果でいうと、投資検討→決定→契約締結までがめちゃ早かった。地味なとこですが、投資契約書が前回契約書(シードラウンド)からの変更履歴つき、という弁護士もびっくりなやつ。ものすごい簡単でした。
普段からコンテキストを共有しているので、無駄な探り合いとか交渉ないし。そういう率直なコミュニケーションが好きです。

特に今のステージだと経営者(私)の時間がそのまま事業成長のドライバーなので、資金調達に時間がとられないというのはものすごいクリティカルです。おかげでいまガシガシ伸びてる。

今回のスキームを可能にした環境変化

メリット/デメリットの判断になるので、今回のスキームが必ず正しいとは思わないですが、「ありそうでなかった」のは「これまでそういう選択肢がなかった」という点に尽きるんじゃないかと思います。

最近では、ファンドサイズの拡大とともにシードVCがどんどんシリーズAに出てきました(例えばCoral Capital)。

一方で、シリーズA以降を主戦場としていたVCがシードに出ていくパターンも増えました(弊社へのGCPがまさにそれ)。

このあたりは高宮さんのこちらの記事にも詳しい。

そのような構造の中、元々はシード軸足だったけど、ファンドが数百億など大型化するとA以降もやりだして、やがて軸足もA以降に移していくというパターンも出てくると思います。逆もまた然りで、Aからシードに出ていくパターンも。でも、両者ともに軸足を移していったことで、必要とされるケイパビリティもシフトあるいは拡大していきます。

ベンチャー投資に資金が流入してファンドサイズが拡大し、シード/シリーズAを得意とするVCの垣根がなくなった結果、今回の弊社のようにシードに投資したVCがそのままシリーズAも1社で出す、というケースは増えると思います。

さいごに

気がついたら、資金調達関連を毎回記事で書いてました。今回の記事が、スタートアップのエコシステム拡大に少しでも役立てたら嬉しいです。


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